feeling heart to you |
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結局、甘味屋のおばちゃんの所に寄っただけで日が暮れれてしまったから、僕と一留は慌てて宿に戻った。 夕飯前に戻らないとおばちゃんもおじさんも心配するからで、決まってはいないけれど門限みたいな感じ。 それから、真っ直ぐ温泉に向かう。 なんだか習慣みたいなもので、宿に帰ったら温泉。が決まり事みたいになってる。 毎日変わらない温泉に、それでも入るたんびに硫黄の匂いが何処か優しく感じる温泉に浸かって、一留は僕を引き寄せる。 いつだって僕は一留と一緒。 お風呂も一緒。 すっかり一留と一緒に入る温泉にも慣れた僕は別段恥ずかしなんて思わなくて、それでもふんわりと落ちてくるキスは恥ずかしくて俯いてしまう。 それにひとしきり笑って一留を軽く睨んで、洗い場でお互いの背中と髪の毛を洗いっこするんだ。 毎日過ごす中で、僕は一留の背中を洗える様になっていた。 相変わらずおっかなびっくりなんだけど、一留の背中は大きくて、洗いこたえがあるんだ。 わしゅわしゅって一留の背中を洗って、長い髪の毛をそっと洗う。 他の人の髪の毛を洗った事なんて無いから最初の頃は緊張しっぱなしだったんだけど、最近ではとても楽しい。 泡まみれになってる一留の髪の毛をわざと立たせてみたり、うねうねと縄みたいに練ってみたり、って、本当に楽しい。 なんて、僕が悪戯してると必ず一留に仕返しされて、僕の髪の毛はやっぱり泡だらけのまんま一留のおもちゃになるんだけど、それも楽しい。 ひとしきりお風呂で遊んで、夕ご飯を食べる。 おばちゃんの持ってきてくれる食事はおじさんが作ってる食事で純和風。 毎日何かしらのお刺身と焼き魚が一人分ずつ乗っているのを一留と僕は毎日交換して変なおかずの山になってる。 そんなご飯を食べながらおばちゃんに笑われて、食後のデザートに果物を食べて、ゆくりしてから僕と一留は部屋に帰る。 もちろん帰る部屋は一留の部屋。 僕はすっかり一留の部屋に居る事に馴染んでしまって、僕の部屋には一度も入っていない。 ぽふぽふと一留はお布団を叩いて僕を呼ぶのも毎日の事だから、すっかり慣れてしまった僕は一留の隣に座って、一留を見上げるんだ。 そうすると一留はお休み前のキスを僕にしてから、そっと僕の頬を撫でたり髪を撫でたりしてくれる。 一留の大きな手が気持ち良くて僕はすぐにうつらうつらってなっちゃうんだ。 「好きだよ、錬。こんなに好きになるなんて思ってもみなかったけど、俺はね、錬の事がとても好きだよ」 寝物語の様に優しくて優しい一留の言葉。 暖かくて低い声。 一留の言葉と声はじんわりと僕に響いて、暖かくなって、優しい気持になるんだ。 僕も一留の事が好きだと思う。 きっと。 僕はまだ子供だから何も知らないけど、此所に来たのだって、逃げて来ただけだけど、一留の気持が全部分かったとは思わないし、きっと一留の気持は僕なんかよりもっともっと大きくて深いんだと思うけど。 でもね。僕も一留の事が好きだよ。 そう。僕は一留が好き。 「・・・い・・・ち、る・・・」 気持ちよくなりながら一留の事を想っていた時。 無意識に唇を動かしていた僕の唇から、ううん、喉から、僕の声みたいな音が聞こえた。 「あ・・・?」 どうして声が出るんだろう。 僕はびっくりして一留を見るんだけど、当然、一留もびっくりしてて、真っ青な目を見開いて僕を見てる。 「れ、ん?お前、声・・・?」 「あ・・れ・・?ぼ、く・・・こ・・・」 間違い無い。 僕の喉からは、もう聞こえなくなって随分経つ僕の声が出てた。 |
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