feeling heart to you
15




「目、真っ赤だな。うさぎみてーだぞ?」

一留が僕の目尻に唇を落として笑う。
しっかり泣きじゃくった僕は一留になだめられてようやく泣き止んで、それでも一留から離れられなくて、握った一留の浴衣を離せないでいる。

ぐすぐすとぐずりながら、でも、嫌な気持ちじゃなくて、僕は一留にされるがままに顔を持ち上げられて、何回もキスをされた。

それは、顔中に降ってきて、とても優しくて。

至近距離で見る一留の顔はとても綺麗で格好良くて、光を受けた青い瞳の色は泣きたくなるくらいに暖かい色に見えた。

「泣き止んだら帰ろうな。ちゃんと風呂入って、飯食って、しっかり寝るんだぞ」

子供に言い聞かせるみたいに軽く言うのに、一留はもう一度、僕の唇にキスを落としてふんわりと微笑んだ。
その笑顔にまた涙が出そうになるのをぎゅっと我慢して、僕は頷いた。



そうして、一留に連れられて宿に帰った僕らを珍しい事におばちゃんが入り口で待ってた。

「お友達から電話があったよ」
「はぁ?」
「一留クンの事心配だからって、ここに来るって言ってたよ」
「何だって!?」

白いエプロンで手を拭いながらおばちゃんが良い友達を持ったわねぇ、なんて笑ってるけど、一留の表情はとても複雑で。

「来るなっつたのに、彼奴らは・・・」

すごく癒そうに顔を顰めるんだ。
友達なのに何で嫌なんだろうって思って一留を見上げたら僕が見てる事に気付いたのか、一留は照れくさそうに笑って僕の頬を撫でてくれた。

「腐れ縁な奴でな。嫌いじゃないんだけどなぁ・・・」

そう言って、やっぱり照れくさそうに笑う一留。
何だろう、友達が来るのが恥ずかしいのかな?って思ったんだけど、それ以上一留は何も言わなくて、僕を引っ張って宿に入った。

手を引かれて一留の部屋に行く。
一応僕用の部屋も借りているんだけど、この宿に来て一番最初の夜しか僕は自分の部屋に行っていないから自然と僕の足も一留の部屋に向かう。

ずっと一留と一緒にいたから。

何処に行くにも一留と一緒で、何より一留が居なかったらきっと僕は何処にも出かけなかったと思う。
この街に、宿に来た時の僕は何もかも無くしてしまっていたから、何もなかった。
でも、本当は何も無くなってなかったんじゃないって今は思う。
あんなに悲しくて辛くて、全てを捨てる決心で声を無くした僕だけど、本当は、僕次第で悲しい事も辛い事も、そうはならなかったんじゃないかって、思うんだ。

それは、この街に来て一留に出会ったから分かった事。

一留は何も出来ない僕に沢山、たくさん、いろいろなことを教えてくれたと思う。
人の笑顔の暖かさ、手の温かさ、人の心の温かさ。
そんなに沢山話し合った訳でもないし、何かを教わっているという訳でもないけれど、僕は一留にたくさんの事を教えてもらったって思うんだ。

「どした?泣き疲れか?」

そんな事を考えてたらいつの間にか一留の部屋の、一留のお布団の上で抱きしめられてた。
一留は僕の顔を覗き込んで、いつ見てもあったかいって思う笑顔になってる。
疲れては無いし、一留の事を考えてたんだよって首を横に振って、僕は一留に抱きついた。
こんな風に誰かに抱きついた事も今までの僕には無かったんだなぁって思いながら。
そうしたら、一留も僕の事を抱きしめてくれて、僕と一留はしばらく抱き合っていた。






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