feeling heart to you
14




僕らの居る温泉街の裏はすぐ海になってる。

季節外れだから海で泳ぐ人は誰もいないけど、それが却って良いかもしれないって砂浜に来た僕は思ってる。
だって煩くないし、汚く無いし、何より僕を知っている人が居ないのだから。

そう、今砂浜に居るのは僕と一留だけ。
下駄を脱いで裸足でさくさくと砂浜を歩いてる。
もちろん一留は僕の手を取って繋いでいる。

「静かでいいなぁ。気持ち良いなぁ」

機嫌良さそうにさくさくと歩く一留の手は温かくて、ちょっと冷えて来た空気との温度差がある。
それがとても気持良くて、心地良くて、僕は一留の手をぎゅっと握って一緒に砂浜を歩いてる。

「錬」

一留の声は何時でも柔らかくて、温かい。
呼ばれたまま一留を仰ぎ見れば声の通りそこには温かい微笑みを浮かべる一留の顔があった。

太陽の光に照らされて一留の長い髪の毛がきらきらって光ってる。
細められた青い瞳まできらきら光ってるみたいで、とても綺麗。
僕はいろいろな格好良いとか綺麗だとか言われる人たちを実際に見てたけれど、一留みたいに格好良くて綺麗な人は他に居ないって思うんだ。
何時だって格好良くて、綺麗で、暖かい一留。
じっと一留を見てる僕に一留は微笑んだまま、すいっと顔を近付けてきて。

それから、音の無い、優しいキスで僕の唇に触れた。

「錬、好きだよ」

それは、あんまりにも突然過ぎる一留からの告白で。
唇に受けた温度よりも、僕は一留の言葉に呆然となった。

でも、不思議と嫌では無くて。
むしろ、嬉しくて。

「顔、赤くなってるぞ」

じわじわと一留の言葉の意味と口付けの事とかが僕の中をぐるぐるとして、一留がおかしそうに微笑みながら僕のほっぺたを触って来る。

「どした?嫌だった?それとも、恥ずかしい?」

あ、ちょっと困った顔になってる。
その、別に嫌では無かったんだけど、って思ったんだけど、でも、恥ずかしいのは本当で僕はどうする事も出来ずに一留をじっと見てたら、何だか、どんどん恥ずかしいが大きくなってちゃって。

「錬?・・・あー、その、ごめん。泣く程嫌だったか」

どくどくと煩い心臓が何故だか僕に涙を流させてる。
そうしたら一留がとても悲しそうな顔になっちゃって、僕から離れようとしたから、嫌じゃないんだよって、慌てて僕は一留の手を掴んだ。

声が出ないのに必死で嫌じゃないんだよって言うんだけど、当たり前だけれども、僕の声は出ないから、一留には届かない。

でも、本当に嫌じゃないんだよ。
僕なんかに、好きだよって言ってくれて嬉しいんだよ。

暖かくて、優しくて、微笑んでくれて、頭を撫でてくれる一留の事をどうして嫌だって思えるの?

嫌じゃないんだよ。

好きかどうかは分からないけど、嫌じゃないよ。嫌いなんかじゃないよ。

一留に出会えて良かったよ。
嬉しかったよ。
僕の事構ってくれて、優しくしてくれて、抱き締めてくれて、本当に、本当に嬉しかったんだよ。

嬉しいんだよ。嫌じゃないんだよ。

どんなに必死に言っても、僕の声は出ない。
自分で声を無くそうと思って無くしたくせに、こんな時はそれがとても悲しい。
ちゃんと、一留に伝えたいのに。伝わらない。

一生懸命唇を動かして、まるで金魚みたいにぱくぱくしてる僕に、一留は優しく微笑んで、指先をそっと僕の唇に乗せた。

「いいよ、錬の気持は分かったから。ごめんな、そんなに無理しなくていーんだぞ?一生懸命俺に言ってくれようとしただけで嬉しいんだから、だから、もう泣くな。な?」

もう頭の中も心の中もぐしゃぐしゃになった僕に、一留は優しく語りかけてくれて、それから、ぎゅっと抱き締めてくれた。

暖かい一留の腕の中。
僕は思い切りしがみついて、訳の分からないままに、それでも一留に嫌じゃないんだよって伝えられた事に安心して、思い切り泣きじゃくった。






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