feeling heart to you
13




雀がちゅんちゅんって鳴いてる。
鶏の声も聞こえる。

そんな今はまだ朝の6時。

僕は眠くて眠くて目を擦りながらぼけっと突っ立ってる。
そう、僕はただ立っている気持ちなんだけど、僕の足は勝手に動いて、一留に引きずられてる感じ。

「今日は海だ。岩牡蛎を食いに行くぞ!」

・・・どうして一留はこんなに元気なんだろう。

まだ朝も早いのに満面の笑みで僕を引きずって歩く一留はとても元気そうだ。
相変わらず下駄は歩きづらいけど一生懸命一留に付いて歩く。
問答無用で手を繋がれてるから本当に僕は一留に引きずられてるみたいだなって思うし、実際見てる方もそんなんだと思う。

「こら、そんなに急いで歩いたら弟君が引きずられてるでしょ?」

とは甘味屋のおばちゃんの台詞で、丁度甘味屋さんの前を通り縋ってるからおばちゃんは両手を腰にあてて一留にめってしてる。

ちなみに、どうやらおばちゃんにとっては一留がお兄ちゃんで僕が弟らしい。
正式に自己紹介してないから勝手にそう決めちゃったんだけど、兄弟が居ないって言ってた一留はとてもに喜んでて、僕も嬉しかった。
僕も一人っ子だから一留みたいなお兄ちゃんが居たらすごく嬉しって思う。

そんな事を考えてるうちにどうやら目的の場所に付いたみたい。

そこは、小さなお店って言うより普通のお家みたいで、その軒先でおじいさんが大漁の黒い何かにうずもれて座ってる。
これは何だろう?って一留の浴衣を引っ張った。

「あの黒くてゴツイのが岩牡蛎。旨いぞ」

いわがき?
アレ、食べ物なのかな?黒くてごつくて岩みたいなの。

「生で食うもよし。煮て食うもよし。焼いてくうも良し。じーちゃん、ばーちゃん中?」

びっくりしてる僕にかまわず一留は勝手に自分の言葉に納得しながらおじいさんに声をかけて、おじいさんは返事をしないで一留をぎろりって感じで睨むと顎で家の中をしゃくった。

「んじゃいきますか。ほら、錬、いくぞ」

おじいさんの仕草を見て一留は僕を引っ張って家の中に入っていく。
すると、普通の家だと思ってた中身はちゃんとしたお店な造りで、畳の座敷に小さなテーブルがいくつかと、小さな出窓がいくつかあった。

一留はその出窓の側に僕を座らせるとからからと引き戸を開けて窓を開けた。

「ほら、海の側なんだ。ここは」

窓から見える一面の海。
不思議なことに、僕から見た海はとても綺麗で、波の音がざざんて聞こえた。

仕事以外で海なんて見たこともない僕は出窓にかぶりついてずっと海を見てた。
天気が良いからよけいに海の青が綺麗に見えるんだ。
風はちょっと冷たいけど、少しだけ匂う潮の匂いがとても新鮮で、どこか懐かしい感じがした。

「錬、きたぞー、食うぞー」

なんて、海を見て耽ってる僕の帯を引っ張って無理矢理引き戻した一留はいつの間にか来ていたテーブルの上のものを嬉しそうに見てる。

一留に引っ張られるままにテーブルに向かって座り直した僕は、それを見て首を傾げた。

緑色の平皿の上に乗った、乳白色の物体。
よく見ると貝の実なんだなって分けるけど、これはなんだろう?

「これが岩牡蛎。酢味噌で食うとうまいんだぞ」

そういって、一留は美味しそうにお箸で食べはじめてる。
僕も慌てて一留の真似をしてお箸で掴んだ。

・・・岩牡蛎って言っていたけど、僕の知ってる牡蛎よりとても大きい感じで、お箸で掴んだらでろん、ってなっててちょっと不安。
そんな僕の様子を一留が見て笑ってる。
もう、そんなに笑わなくったっていいじゃないかて一留を睨んだら、ようやく一留は笑うのを止めてくれた。
でも、やっぱり顔は笑ってるんだ。
仕方がないから僕はでろんってした牡蛎を食べた。
大きくて、潮の匂いのする牡蛎は見た目の大きさと言うか、でろんって外見の割にはとてもおいしかった。

「うまいだろ?」

そんな僕の様子が分かったのか、一留が手を伸ばして僕の頭をくしゃりと撫でてくれた。
僕も美味しいからうん、て頷くと一留は嬉しそうに笑ってもっと食えって僕のお皿に自分の分を足したんだ。
そうして、一留は僕の耳に口を寄せてこっそりと白状した。

「俺、刺身苦手だし、生物はみんな苦手だからさ、食ってくれ。これ、旨いんだけど1個が限界なんだよ」

何処か照れくさそうに苦笑する一留なんて初めて見る僕は一留の表情にびっくりしたんだけど、そのうち可笑しくなっちゃって、声も出ないのにけらけら笑っちゃって、そんな僕に驚いた一留はやっぱり苦笑してた。

「・・・ったく。これ食ったら海行くからな」

笑い過ぎて苦しい僕に一留は苦笑したまま、もう一度僕の頭をくしゃりと撫でてくれた。






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