feeling heart to you
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ご飯を食べてちょっと休憩した僕と一留はお風呂に入る事にした。

露天風呂はやっぱり大きくて、僕だったら余裕で泳げそうな感じ。
でも、僕は泳げても一留は無理かなって、お風呂を見てから一留を見上げたら一留は何とも言えない表情になっちゃった。
どうやら僕の思ってる事が分かっちゃったみたい。

「ま、別に止めはしないけどな。あんまりオススメしないぜ?」

ちゃぽんと先に湯船に浸かった一留がまだ湯船に入っていない僕を見上げて笑ってる。
何だろう?お風呂で泳いだら何かあるのかな?

「ふふーん。その顔は泳いでみたい、だよな。よし!泳いでみろ!だぁーいじょうぶ!風呂は広いけど浅いから溺れはしないぞ!」

ホント?って首を傾げる僕の手を引っ張って一留は僕を無理矢理お湯の中に入れた。

あんまり急で、一留の力が強くて、引っ張られるままに僕は一留の腕の中に落ちちゃったんだけど、一留はがっしりと受け止めてくれる。

でも。

「っ、痛て・・・」

無理に僕を支えたから背中の傷が痛んだんだと思う。
僕を抱えたまま顔をしかめてる一留に僕は慌てて一留の腕の中から出て、一留を見上げた。

大丈夫?って言いたいけど、言えないから僕は一留の背中に回って、そっと、大きな傷に触らない様に背中を撫でた。
はっきり言わなくても僕なんかがさすたって痛みは取れないと思うんだけど、何もしないよりはマシかな、なんて思ってそっと、そぉっと背中を摩ったんだ。
そうしたら一留はしばらく声も出さないでじっとしてたんだけど、そろそろと動き出して、振り返った。
自然と僕と視線が合う。

「ごめん。却って気ぃ使わせたな。錬は大丈夫だったか?」

僕は大丈夫だからこくんて頷いた。
そうしたら一留はほっとして、僕の頭を撫でてくれた。

「やっぱ風呂は静かに入るか。暴れたら危ないしな」

なんて言いながら一留はさり気なく手を伸ばして僕の頭をくしゃくしゃにして、怒った僕がお湯をかけたら声を上げて笑った。

傷の痛みは大丈夫なのかなって思ったんだけど、お風呂ではしゃいでたらいつの間にか僕は一留の傷の事を忘れて、一留に手を引かれるままに2人で並んで洗い場に座る事になってた。

「小っさい背中だよなぁ。頭も小っさいなぁ、錬は。もっといーっぱい食って、肉付けて、でっかくならないとダメだぞ?」

わしわしと僕の頭から背中まで泡だらけにしながら一留の声は笑ってる。
僕は泡が邪魔で後ろを振り向けないし、わしわしと僕を洗う一留の手が気持ち良くてちょっとぼんやりしちゃう。

膝の上に両手を乗せてぼんやりしてる僕は何やら一留がずーっとぶつぶつ言ってるのを聞き逃してた。
何だか細いだの小さいだの白いだとの随分酷い言われ様だった気がするけど、一留の声は言葉に反してとても優しい響きだから、僕は安心しきってぼけぼけしてた。

そうしたら、油断してたんだと思う。
あらかた洗い終わって満足した一留が桶一杯のお湯を何の前触れもなくザバッて僕の頭のてっぺんからかけた。

当然、びっくりした僕は息を止める暇も無くて。

「うわっ、悪りっ。大丈夫か?」

泡の味のするお湯を飲み込んじゃった僕は苦しくてげほげほと咳き込んでしまった。
慌てて一留が残った泡を手で取り除いてくれながら謝ってくれるんだけど、顔は笑ってる。

酷いよ。僕はこんなに苦しいのにって涙目で一留を睨んだんだけど、一留は全然悪いなんて思っている表情じゃなくて、次第に声を出して笑い始めたんだ。

「ご、ごめんっ。ごめんごめん。そんなに怒るなよ。お詫びに俺の事好きに洗っていいからさ」

げらげら笑ってる一留に慰めるみたいに頭を撫でられて、僕はむすっとしながらタオルを一留から取りかえした。
一留のご希望通り一留の身体をごしごしって洗って頭だって泡だらけにして遊んでやるって思ったんだけど。

一留の背中には傷があるから、あんまりこすっちゃいけないのかな、って僕は思い直して一留の頭を指差した。

「ん?頭洗ってくれるのか?」

うん。って頷いた僕に一留はちょっと表情を変えて微笑んだ。

「ありがと、な」

どうやら僕が背中の傷に気を使ってる事が分かったみたいで、一留はくるりと僕に背中を向けた。
僕もなるべく背中を見ない様にして両手にシャンプーを取って泡立てる。
そのまま膝で立って一留の頭に出来た泡を落として、そっと一留の髪の毛を洗い始める。

人の頭なんて洗った事が無いから手加減が良く分からなくて、こわごわと洗う僕に一留の肩が揺れ出して、くすくすと笑い声が聞こえて来た。

「錬、もっと強くやっていいぞ。それじゃ子猫がじゃれついてるみたいでくすぐったい」

どうやら僕の洗い方はくすぐったいみたい。
笑ってる一留に僕はもうちょっと強く、力を入れて一留の頭をごしごし洗う。
それから、背中まで伸びている髪の毛も手に取ってごしごし洗う。

そうすると自然に僕の視界には一留の大きな傷が見えてしまって、あんまりじろじろ見るのも、と思うんだけど、どうしても見てしまう。

大きな、大きな傷。
まだまだ痛そうな傷。
塞がってるけど、今にも傷が開きそうな位に一留の傷跡は生々しくて、一留の髪の毛を洗いながら僕はずっと一留の傷跡を見てしまった。

「もう大丈夫なんだよ」

すると、僕の視線を感じたのか一留が言ってくれる。

「まあ、痛いっちゃ痛いけどな。傷なんてそんなモンだ」

だから、僕が心配する必要は無いんだぞって、一留は言ってくれた。
何だか、傷付いたのは一留の方なのに、僕の所為で一留はいっつも僕を慰めてくれる様な事ばっかり言ってくれる。それが嬉しいと思うけど、悲しいって思う。
僕も一留の事、慰められたらいいのになって、そう思うけど、声の出ない僕には言葉で一留を慰める事は出来ない。

だから、早く痛いのが無くなります様にって、僕は泡の付いた手だけど、そっと、一留の背中を擦った。

「うひゃ。れ、れん。そ、それはしなくていいぞっ」

なのに、一留は変な声を出して何だか慌ててしまうから、僕は何も出来ないんだなって少しだけ落ち込んでしまう。

仕方が無いから桶でお湯を掬って、そろそろと一留に付いた泡を流した。
何回かお湯を駆けて、すっかり泡の無くなった一留は笑顔で僕の方を振り返って、びっくりしてる。
何だろう?って首を傾げたら、一留は両手を伸ばして僕の頭をくしゃくしゃにしながら、撫でてくれた。

「サンキュ」

その言葉は、単純に頭を洗ってくれてありがとうって意味だと思うんだけど、それ以外にもあるみたいな声で。

「よし!身体も頭も洗ったから、遊ぶぞ!」

首を傾げる僕に、一留は元気良く叫んで、僕を引っ張ってまたお風呂に飛び込んだ。






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