feeling heart to you |
09
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お店を出てから、僕と一留はまた下駄をからんころんとさせて宿に戻った。 「食ったら昼寝。寝る子は育つ!」 さっさと部屋に戻った一留はいそいそとお布団なんて敷いて、畳の上でぼんやりしてる僕に手招きしてる。 なぁに?って一留に近付くとぎゅぅっと抱きしめられて、そのままお布団にダイブされて、ばふん、て音がして僕と一留はお布団の上に転がった。 「錬は軽いなぁ。もっと重くならないとダメだぞ?」 そうして、僕を片手で抱きしめたままで一留はさっさとお布団に潜っちゃう。 何で突然昼寝なの? って首を傾げても既に一留は寝る体制で、声の出ない僕には何でって聞くことすら出来ない。 でも、一留に抱きしめられるのは嫌いじゃなくて、実は・・・嬉しいって思う。 人のぬくもりがこんなに気持ち良い物だなんて思いもしなかったって所為もあるんだけど、何より一留の優しさが暖かい。 もう眠そうな一留の腕の中でもぞもぞとしていると一留がゆっくりと僕の頭を撫でてくれる。 これも、気持ち良い。 「寝る子は育つって言うからなー。錬はもっと寝て、いーっぱい食って、でっかくなれよ〜」 なんだか子供に対する言葉ってより、動物とか植物に対する言い方で一留は僕を撫でてくれてる。 別にそんなに大きくならなくてもいいのに、って思うんだけど、一留の言葉がなんだか嬉しくて僕はこっくりと頷いた。 そうすると一留が嬉しそうに微笑んで、目を閉じた。 「おやすみ。夕方になったら起きて飯食って風呂だからな」 そうして、また僕のおでこにちゅってキスをするんだ。 この体制だとキスされるかもしれないって思ってたからちょっとだけ覚悟してたんだけど、思ってたよりも一留のキスは優しくて、驚かない割に僕の顔がじわじわと赤くなるのが分かった。 うう、恥ずかしい・・・。 一留はもう目を閉じてるから、こんな真っ赤な顔を見られなくて良かったと思う。 でも、どきどきしてる僕はなかなか眠れなくて、一留の腕の中からじっと一留のことを見てた。 もう寝息を立ててる一留。 疲れてたのかな、って思う。 一留の背中には大きな傷があるから、きっと、普通に生活するだけでも疲れちゃうんだろうって思うんだけど、一回傷のことを聞いてから一留はその話をしない。 だから僕も痛い?って聞けないし、何より一留に悲しい顔をして欲しくないから、余計に何も聞けないんだ。 そして、一留も僕に何も聞かない。 聞かれても何をどうやって説明していいか分からないから困るけど、一留が僕に何も聞かないだけ、僕も一留に何も聞けない様な気がしてる。 一留の顔を見ながら僕はずっと一留の事を考えてる。 どうして一留はこんなに優しいんだろう。 どうして一留はこんなにあったかいんだろう。 考えれば考える程、僕は一留の何も知らなくて、分からなくなる。 でも、今こうして一留の腕の中にすっぽり収まってるのはとても気持ち良くて。 ちょっとだけ恥ずかしい。 すやすやと眠ってる一留。 きっとまだまだ傷が痛いんだろうと思うのに、そんな素振りは全然見せない一留。 でも、ほんの少しだけ、痛そうに眉をしかめたり、体をぴくって止めたりしてるのを僕は知ってるんだ。 それに、今触れてる一留の身体がとても熱いのも知ってる。 熱が出てるのかなってちょっとだけ身じろぎして一留のおでこに触ってみる。 ・・・やっぱり熱い。 寝る子は育つなんていいながら、本当は一留の方が辛かったんだなって、手のひらに触れた熱の高さで僕はようやく思い知る。 でも、一留はどうして僕なんかに構ってくれるんだろう。 こんな、声も出ない迷惑なだけの子供なのに。 考えても考えても僕の答えは出ない。 ずっと一留のおでこを触りながら、一留のことを考えて。 いつの間にか僕も眠ってしまっていたんだ。 |
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