feeling heart to you
07




あしゆって足湯なんだ。
初めてみる風景に僕はびっくりだ。

そこは煤けた感じの小さな広場で、噴水の様に足湯の場所があるんだ。
そして、その周りには小さなお土産屋さんが沢山あるけど、みんな開店休業中って感じ。
もちろん人も居なくて、広場の中心の足湯には僕と一留だけしか居ない。

そして、足湯と言うのは温泉の一種なんだって教えてもらった。
本当はもっと詳しい内容があるんだろうけど、一留は詳しくは分からないからってさっさと僕の手を引っ張って古い長椅子に腰掛けた。
それから下駄を脱いで浴衣の裾を持ち上げて、足の先だけお湯に浸かる。
丁度、ふくらはぎよりも少し下に来るくらいのお湯は気持ち良って思う。

でも、僕も一留も毎日全身温泉に入るのに、温泉のある宿に泊まっているのに何で足湯なんかに入るんだろう?
不思議に思って横に居る一留を見上げれば一留はにっこり笑って僕の肩を引き寄せた。
この椅子には背もたれが無いから一留にくっついてると一留が背もたれ変わりになってとても楽ちん。
一留も僕に寄りかかってるから楽ちんなのかな?

「きもちーだろ?」

うん、確かに気持ち良いけど、何で足湯なんだろう?
僕は一留の袖を引いて首を傾げる。
そうすると一留は僕の頭を撫でてくれながらお湯に付けた足をばしゃばしゃとさせた。
その度に温泉のお湯が跳ねてきらきら光ってる。

「まぁ温泉は毎日入るけど、こんなのもいいだろ?」

うーん。どうなんだろう。
僕は全身温泉の方が良いと思うんだけど、って思ってじぃっと一留を見てたら一留が苦笑する。
どうやら僕の言いたい事が分かったみたいだ。

「気分の問題だ。あんま気にすんな」

目で会話してるみたいだなって思ったら、一留はまた足の先でお湯をばしゃばしゃさせた。
僕も真似してちょっとだけぱしゃってさせてみると一留が僕を抱き込んだ腕で僕の身体を揺らす。
ゆらゆらと揺れてるけど身体の半分が一留にくっついてるから何だか変な気持ち。

「こーゆーのを粋って言うんだぜ?温泉街で浴衣で足湯。な?粋だろ?」

粋だなんて言いながら一留はまだ僕の身体をゆらゆらさせて笑ってる。
一留はとても良く笑うしすごく優しい微笑みを沢山見せてくれる。
当たり前の事だけど、今更そんな事に気付いて僕は一留をじぃっと見つめた。

最初からずっと笑ってる一留。
でも、背中の傷の所為療養に来てるんだって言ってた。
それでも一留は笑ってる。
背中の傷は痛くないのかな?辛くないのかな?って僕は思うんだけど、一留にそんな事は聞けない。
足をばしゃばしゃさせて僕を抱えて笑ってる一留。
その笑顔がとても綺麗で、暖かく感じる。

そんな一留の事を見てたら、唐突に僕は今どんな顔をしてるんだろうって思った。
笑ってるのかな?それとも普通の顔?それとも、不機嫌な顔?

「れーん?どした?」

僕が不自然に考え込んでいるものだから、途端に一留が心配層に僕を覗き込んでくれる。
そうすると一留の綺麗な顔のドアップで、ちょっと恥ずかしい。

「お、なーんだ?顔赤くしちゃって。俺に惚れたか?」

どうやら僕の顔は赤くなったらしい。
確かに自分でもそう思う。でもにまにましながらすごく近くで覗き込んでくるのは止めて欲しいよ。
心臓に悪いもん。
そう思って一留を睨むんだけど、恥ずかしくてあんまり睨むって事にはならない。
それどころか、僕の顔を見てけらけら笑われてる。

「錬、かっわいいなぁ」

そんなにしみじみと言わないで欲しい。
ついでに僕の顔をぺたぺた触るのも止めて欲しい。
そう言いたいんだけど、僕は喋れない。
・・・声が出ないってこんな時すごく不便だ。
仕方が無いから一留から離れようとするんだけど、一留に肩を抱かれてるから離れられない。

「逃げないの。別に取って食いはしねって。ほら、そんなむすくれるなって。余計可愛くなっちまうぞ」

一留の胸に手を置いて逃げようとするのに全然一留はびくりともしなくて、悔しい。
やっぱり一留は大きい。僕なんかじゃ全く歯が立たないんだ。

「錬?どした?何か悩み事か?」

僕があんまりにもむすくれてたからなんだろう、一留がいつもの暖かい笑みでそっと僕の頬を撫でてくれる。
大きな手で頬を触られるってのが気持ち良い事なんだって、僕は一留に教えてもらった。
こんな風に優しく触ってくれる人は居なかったから、きっとこんなに僕に触るのは一留が始めて。
まだ此処に来てそんなに経っていないのに、僕はすっかり一留に触られる事が好きになってる。
だって一留の手は恐く無い。

「錬?何か嫌だったか?」

僕の頬にある手はとても大きくて暖かくて、優しい。
何も嫌な事なんか無いよって、一留の手の感触を感じたまま小さく首を横に振った。
すると一留はやっぱり微笑んで、それから。

「そっか。んじゃもうちょい浸かったら行こうな」

ゆっくりと僕の頬を撫でてた手を離して、その頬に一留がキスしてきた。
ちゅって音を立てるだけの軽いキス。

そう言えば朝もやられたんだっけって思い出して、また僕の顔は真っ赤になった。






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