ハルと猫と魔法使い/悪あがき
04


ツカサはこの神社の跡取りで、今は道場の先生をしながら神社の手伝いもしている青年だ。
ハルとは学校で知り合って、ツカサの方が二歳年下だ。
きりっとした容姿に長身でハルと比べるとツカサの方がしっかりして見える。

「身体を鍛えるねぇ、また突然何かと思いましたよ」
「すまぬな。何を思っているのか、基本的にハルの中身はさっぱり分からんのだ」

身体を鍛えたいのはハルだけだからガイルは見学だ。と言うかハルに見学だと言われてしまったのだ。
既に町内では有名人なガイルだから名前さえ名乗れば細かい所は聞かれず、何故かツカサとお茶を飲んでいる。

「一度近くでお会いしたかったんですよね。いやー、ガイルさん男前だな」
「ツカサに言われても、むず痒いだけだ」
「あはは、褒め言葉として受け取っておきますよ」

からからと笑うツカサもそうだが、不思議とこの街に住む人々はガイルについて突っ込んだ事を聞こうとはしない。懐が深いのか広いのか、不思議だとは思うがガイルにとっては有り難いばかりだ。
出された緑茶をずず、と啜りながら道場の中央を見ればハルが一人で動いている。いや、動いていると言うよりも舞っている、が正しいだろうか。

「あれは空手の型と呼ばれるものですよ。ああ見えてハルさん、強かったんですよ」
「ほう、それは初耳だ」
「あの見かけですからね。昔ちょっと荒れていた時期があって。でもまあ基本的にハルさんなのであのまんまでしたけどね」

ふ、とツカサが微笑みながらどこか遠い視線でハルを見た。
ガイルには分からないハルの事。そう言えばハルの過去なんて気にした事もなかった。今あるハルが愛しくて過去なんて思い浮かびもしなかった、が正解だろうか。

「ツカサ、私はハルの過去を何も知らぬ。だが、知りたいと思ってしまう気持ちは贅沢な事だろうか?」

真っ直ぐにハルを見つめながらぽつりと漏らす。今まで考えもしなかった過去が、こうして話を聞くだけで知りたい気持ちがむくむくと出てきてしまったのだ。
切ない色を含む言葉にツカサは微笑んだ。何かと目立って今では街中の有名人な二人だが、こうして見ると何とも純粋な人だとも思うし、何だかほほえましい気持ちになってしまう。

「いえいえ、全然贅沢じゃないですよ。好きな人の事は何でも知りたいじゃないですか」
「そうか・・・そうだな」

ちなみに、いつでも二人仲良く出かけたり買い物をする姿が目撃されているから、割と自然にこの街ではハルとガイルは恋人同士だと勝手に思われている。
特に商店街ではラブラブ恋人説が出回っているから、当然ツカサもラブラブ恋人説を信じている。男同士だとかガイルの身元が分からないとか、そんな事よりも、あまりに自然にいちゃついているからハルの知らない所ですっかり同棲している恋人同士になっていたりもする。
だからツカサはにんまりと笑んで残っている茶を飲み干した

「では手始めに、ハルさんの昔の写真がありますが?」
「ツカサは良い人だ」

もちろん、ガイルの瞳がきらーん、と光ったのは言うまでもない。








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