ハルと猫と魔法使い/悪あがき
03


ハルの住む街は古い。
家も古いが街も古くて、昭和の匂いがぷんぷんとする、けれどハルにとっては住み慣れた街だ。

小さな商店街と学校に幾つかの公共施設。
それと、商店街の外れにある神社。

「ふむ。ジンジャと言う所で身体を鍛えるのか?」
「ああ。あそこは神社と一緒に道場があるからな。昔は良く行ってたんだぜ」
「そうか。ところでハル、ジンジャとは何だ?」
「あー。神社は神様がいる所。お守り買ったりおみくじ引いたりする所」
「良く分からん」
「ま、そうだろうなぁ」

2人揃って街を歩きながら簡単な説明をする。歩けば目立つ2人だから、今ではすっかり商店街の人気者だ。
ハルは昔からの有名人だが、こう見えて意外とガイルの愛想が良く、特に店を切り盛りするおばちゃんに大人気だ。

「ほら、あそこの鳥居がそう。って鳥居じゃ分かんねぇか。あの赤いのがそうだぞ」
「む、妙な形だな」
「確かになー」

ガイルには初めての神社だ。今まで何度も神社の前を通りがかってはいるが、意識して見る事がなかった。だから、改めて説明されるとガイルにとって神社とはとても不思議なものに思えるのだ。

「何だかんだ言いながらすぐだな。はい、到着!」

不思議そうに鳥居を見上げるガイルを引きずりつつ神社の境内に入る。場所柄、毎日が閑散としているが中々に綺麗な空気で良い感じだ。
足に当たるのは玉砂利で良く手入れされていて、周りは木々に囲まれて都会とは思えない場所だ。
意気揚々とガイルを引っ張りながら向かう先は道場で、この時間ならばハルの顔見知りがいるはずだ。

「ここが道場な。空手と柔道と剣道。隣は弓道場だ」
「む、いろいろあるのだな」
「まー場所は一緒だけどな」

からからと笑うハルが道場の引き戸を何の遠慮もなく開ける。
がらがらと音がする引き戸もガイルにとっては珍しいものだ。

「ちわーっす。久しぶり、ツカサ」
「ハルさん!」

勝手知ったる他人の家。勝手に靴を脱いだハルはどかどかと板張りの道場に入っていってしまう。
広さはそう広くはないが、綺麗に手入れされた道場には燦々と日の光が溢れている。しん、と静まりかえっていただろうにハルの所為で空気が壊れてしまった。
が、それを気にするハルではないから久々の道場にふふん、と笑みを浮かべて道場の中央にいる青年を見る。

青年は剣道着を着た黒髪の、中々に整った顔立ちで驚いて立ち上がった姿はハルよりもガタイが良い。短い髪もすっと通った瞳も日本男児と言う風体だ。

「ガイル、これがツカサな。この神社の息子で道場もやってる。で、こっちがガイル。俺の家の同居人な」

ものすごく大ざっぱな紹介だ。紹介されたツカサと呼ばれた青年もガイルも呆れた視線でハルを見てしまった。

「ハル、それは余りにも大ざっぱではないか?」
「まったくですよ。ってゆーか、どうしたんですか?突然道場に来るなんて」

辛うじて名前だけしか分からない紹介だ。けれどハルは全く気にせずに勝手に道場の中央に行ってしまっている。どうやら勝手に柔軟体操を始めるらしい。

「・・・ハル、何が何だかさっぱり分からんのだが」
「久々に来て挨拶もなしですか・・・」

がっくりと項垂れるのはガイルもツカサも一緒で、まだ何の自己紹介もしていないのに、なぜか気が合いそうだと思ってしまった。








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