ハルと猫と魔法使い/ガイルの印(しるし)
05


抱き合って熱を分けて。ハルの態度にどうしようもない愛おしさを感じて、結局ハルが気絶するまで抱いてしまった。
ぐったりとベットに沈むハルの側で何も身に纏わずにガイルは小さな溜息を落とした。
手には湯に浸して暖めたタオルを持ち、せっせとハルの汚れた身体を清めていく。こういう時、不思議な力は便利な物で、湯を持たずとも勝手に湯を出して、ついでに入れ物もタオルも出せるのが良い所だろう。
部屋を出ずとも素早くハルの身を清める事が出来て、けれど過ぎた行為に少々反省して、ガイルは無言で白い身体を拭いていく。
まだ色の抜けない身体は既に熱を出したのにほんのりと薄紅色に色づいていて、それもガイルの目には毒だが、これ以上ハルを疲れさせても意味が無いので微妙に目を反らしながら汚れたタオルを新しい物に変えてまた拭いていく。
何度かそう言う行為を繰り返してふう、と溜息を落とせばまるで終わった頃を見計らったかの様に扉の向こうからか細い声が響いてくる。

「にゃー」

猫達だ。そう言えば締め出したのだったな、と裸のハルに掛布を掛けてから部屋の入口を少し開ける。
すると、待ってましたとばかりに三匹の猫達がいそいそとハルの沈むベットに乗り上げた。

「これ、ハルは疲れておるのだ。身体の上には登ってはいかんぞ」

ハルの家の猫はあまり軽くは無いからガイルはハルの胸の上に昇ろうとしている白い猫を抱き上げてそっとベットの下の方に降ろす。猫も分かっているのか、ハルが眠っている(正確には気絶している)のを分かっているのだろう、仕方が無いなあとばかりにハルの足下で丸くなる。

「にゃ!」
「にゃー!」

白い猫は丸くなったのだが、今度は黒と茶の猫がガイルを見上げてにゃあにゃあと鳴いている。

「どうした?」

何か訴えたいのだろう。騒ぐ猫2匹を大きな腕ですっぽりと抱き込むが猫は変わらず騒いで、その声で丸くなっていた猫まで起きてしまう。

「どうしたと言うのだ。あまり騒ぐとハルが起きてしまうではないか」

生憎猫の言葉は分からない。が、ガイルには不思議な力がある。
元からガイルの使っている言葉は不思議な力でこの世界の言葉に聞こえる様にしているだけだ。応用すれば猫の言いたい事でも多少は分かるだろう。口の中で呪文を唱えて猫に視線を合わせれば程なくして猫達の訴える事が朧気ながら分かった。

「お前達も、離れたくないと、言ってくれるのか?」

けれど、伝わった猫達の言葉にガイルは目を見張る。
どうして、ハルと言い、この猫達と言い、そんなにも心が広いのか、深いのか。

「にゃ!」

三匹揃ってガイルを見上げて小さな口を開く猫達に一瞬、泣きそうな表情を浮かべたガイルは、やがて小さな溜息を落とすと猫達に手を翳して口の中で呪文を唱え始めた。







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