ハルと猫と魔法使い/ガイルの印(しるし)
06


「ん・・・」

目を開ければ何時もの光景で。
当たり前の様にベットに沈む自分とその側で優しい表情で座るガイルに三匹の猫。
相も変わらず、と言った所なのだろうけれど、どうしてもほんのちょっぴりムカついてしまう。

「・・・ガイル、手前なぁ」

動く気力も無くてぐったりとしたまま猫を撫でるガイルを睨み上げれば、返されるのは柔らかで満足しきった微笑みだけ。オマケに猫もガイルの腕の中から何故か満足気な笑顔でハルを見下ろしている。

「ったくもー。そんな顔すんなっての」

そんな、とろけそうに幸せな笑顔を見せられてはハルはもう何も言えない。
深々と溜息を落として胸の上に乗っかっている猫を撫でつつ怠い身体をもぞもぞと動かすともう一匹の、足下に居た猫が音もなく移動してハルの頬にぺたりと柔らかい肉球をあてててきた。猫は猫なりに飼い主を心配してくれていると言う事だろか。

「シロ・・・お前、イイ奴だなぁ」

猫好きにとってみれば猫がふわふわの手を頬に置いてくれるなんて幸せ以外の何者でも無い。
じーんと感動しつつふわふわと頬に触れる猫の手を掴もうと思って怠い手を動かした時、ハルは信じられないものを見てしまった。

「・・・・ん?」

それは、たまたま目に入った猫の手の裏。
要するに、肉球。

「・・・何だ、こりゃ」

思わずごちて、怠いのも忘れてがばっと身を起こして猫を捕まえる。
そのまま強引に嫌がる猫の肉球をしげしげと見れば、どうしてだか、あるハズも無い、ピンク色の肉球に少し前にも見た漆黒の、小さなドラゴンが居たりなんかして。

「・・・・・・・・ガイル?」
「良いだろう」

まさかと思って酷くぎこちない動きでガイルを見れば、そこには胸を張りつつ猫を撫でる憎い男の姿があり。

「手前!猫にまで入れ墨こさえる馬鹿が居るか!この阿呆!」
「何を言う。先程も言ったがそれは入れ墨では無いぞ。ついでに言えばその印は猫達用に素晴らしい働きもするものだ」
「ああ?何が素晴らしいだ、この!」

思わず衝撃と怒りにまかせて猫を投げれば案の定、軽くガイルに受け止められて猫はハルを睨んで唸り始める。

「ふふ、これで猫とも離れなくて済むのだから良いであろう?」

元から抱いていた猫に加え、ハルに投げられた猫も一緒に抱き留めたガイルは口の中で小さな呪文を呟いた。
もう一匹の猫もガイルを見上げてにこりと微笑んで、ガイルの呪文が終わった時、またしてもハルは信じられない物を見てしまう。


それは、白、黒、茶色の猫達の背中に生えた小さな可愛らしい、羽根。
しかもぱたぱたと動きながら猫達の姿がふわりと宙に浮いているではないか。

あまりの光景に唖然とするハルに対し、空を飛べる猫達は満更でも無い様子で部屋の中を動き回り、ガイルは満足そうに微笑んでそんな猫達を見て。

「・・・・・・・シロ、クロ、チャ、ちょっと、こっちこい」

ふるふると肩を振るわせるハルが小さな掠れた声で猫を呼べば、不幸かな、ぱたぱたと飛んで来たのは茶色の猫で。

「ふぎゃっ」

思い切り、持てる限りの力でガイルに猫を投げつけた。

「こら、いくら何でも力の限りで投げる奴が居るか。可哀想だろうに、なあ、チャ」

流石に羽根が生えても全力投球の力には叶わなかったのか、猫が叫びながらガイルに何やら訴えては居るが、そんな事はハルには関係ない。

「うるさーーい!今すぐこのふざけた羽根を取れ!入れ墨もだ!」
「ハルは私から離れたいのか?」

思い切り怒鳴れば返ってくるのは以外に悲しそうな声で、それが半分以上は芝居だと言うのはきっと、この部屋にハル以外の人間が居たら気づきそうなものだったのだけれども。

「・・・・うっ」

既に無意識でガイルには弱くなっているハルだ。思いの外悲し気な表情のガイルに言葉が出ない。
そんなハルにガイルは内心にやりと笑うとそっとハルの側に腰掛けてまだ何も着ていない裸の肩に手を置いた。

「それ程までに嫌がるのであれば仕方がないな・・・」
「い、いや、その・・・嫌だとは言ってねぇんだけど」

態と顔を近づけて青紫の瞳を覗き込めば案の定、ハルの怒りがしおしおと萎びれて、後に残るのはガイルを心配する色だけになる。
有る意味とても単純だとは思うけれど、心許した人にしか決して懐かないのもガイルは知っている。
そんなハルがガイルの一言一言にこんなにも反応してくれるのが、また、嬉しい。

力無く視線を伏せたハルに触れるだけの口付けを落としたガイルは、むうとむくれるハルににこりと、いや、にたりと微笑みかける。

「そうか?ではこのままで良いな」
「・・・とりあえず猫の羽根は何とかしろよな」

もうガイルに力強く言えないハルはしぶしぶと唇を尖らせてガイルを上目遣いで睨むのだが、そんな表情はガイルに取ってオイシソウ、以外の何者でも無いのだ。

「大丈夫だ。私の意志で何時でも消えるから後で消しておく。それよりも今は」

ハルをもう一度この腕の中に閉じこめたい。
そう耳元で囁けばびくりと身体を振るわせたハルが恐る恐るガイルを見上げて、盛大に溜息を落としながらガイルの背に腕をまわした。





と言う訳でそのちハルと猫とガイルで異世界旅行に行ってきます(笑)(まだまだ先の話ですが)



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