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ハルと猫と魔法使い/ガイルの印(しるし)
04 |
寝室へと運んでしまえば後はもうガイルの勝ち。圧勝だ。 ちょこちょこと可愛らしく付いてきた猫達を閉め出して、抱えたハルをどさりとベットに落とす。 その作業は慣れたもので、何時だって最初だけ暴れるハルの姿はガイルには可愛い、としか映らないのだ。 「ハル、余計な抵抗をしても、もう遅いぞ?」 喉の奥で笑いながらハルの上に覆い被さって唇を近づければ、むうとふくれた白い頬がさらに膨らんで色付いた。 「やかましい。せめて最初くらい暴れさせろ」 ぼそりと拗ねた様に呟くハルは目の前に迫る銀色の髪の毛をぐい、と引っ張ってぷいと横を向く。そんなハルを目を細めて眺めつつ、ガイルは器用に片手でハルの上着を脱がしにかかる。 嫌、では無いのだろう。抵抗はするけれど、本気では無い。 するすると上着を脱がせつつ深い口付けを落とせば次第に抵抗していた身体から力が抜けて、くたりとなっていく。 ガイルよりハルの方が圧倒的に体力は無い。むしろガイルの鋼の様に鍛えられた身体に抵抗のしようが無いと言うのがハルの意見なのだが、それでも、嫌な相手に抱かれる様な人では無いのだ。ハルは。 「ハル・・・」 小さな掠れ声で名前を呼ぶガイルにハルも一応睨み付けながら、けれど両手はガイルの背にまわって優しく撫でてくれる。 何時だってそうだ。嫌がるくせに包み込む様な暖かさと広さを持っているのはハルの方で、ハルを抱いているのはガイルだけれども、本当は、ハルがガイルを抱いているのでは無いかと思う程の情の深さ。全てがガイルを優しく包み込んで離さない。 だから、ガイルは思うのだ。 ハルと離れたく無い。ずっと側に居たい。居させて欲しい。 けれど異世界と言う世界の違いはどうしても大きくガイルにのし掛かる。 何時、離れてもおかしくはない。だったら、決して離れない様にしてしまえ。ハルの同意も取らずに、ハルだったら笑って許してくれるだろうと勝手に決めつけて、決して離れない様に。 「ガイル、どうし、たんだ?」 何時になく必死な様子のガイルに何を思ったのか、赤い顔をしたハルが青紫色の瞳を細めてガイルの頬に手を当てた。既に上着の半分以上が脱がされていて、真っ白い胸元からは先程刻んでしまったガイルの印が見えている。 漆黒のドラゴン。人の肌に映るにはあまりに不自然なその形はガイルの家紋であり、ガイルの持つ力の象徴だ。 それを、無理矢理刻んでしまったのに、ハルはガイルを心配してくれる。 「・・・すまない」 思わず漏れた言葉にハルは眉間に皺を寄せるとぎゅう、とガイルの頬をつねった。 「お前なあ、何に対して謝ってんだよ。ヤらねーのか?」 「違う。そうではないのだ・・・・その、私の印の事だ」 「ああ?」 弱い小声で囁けばハルの眉間に皺が寄る。そうして、またガイルの頬がぎゅ、と抓られた。 「やっちまったモンなのに後から泣きそうな顔すんな、ボケ」 はん、と息を吐くハルにガイルは目を見張る。 何を言っているのだろうか。無理矢理刻んでしまったのに、そんな、まるで肯定する様な言葉なんて。 「ハル・・・良い、のか?」 恐る恐る、ふくれっ面のハルの、まだ赤に染まる頬に指先を伸ばした。 そうやって、ガイルの全てを受け入れてくれるのだろうか。 「良いも悪いもヤってから言うなっての!おら、ヤんねーんならさっさとドケ」 ガイルが覆い被さった状態では少々緊張感に欠けるだろう。ハルは居心地悪そうにもぞもぞと動き出すがガイルはそうでは無い。 結局、許してくれるのか。 非道と言えば非道な行いをしたガイルを。その全てを。 咄嗟に声が出なかった。ハルを組み敷いたまま、ふくれっ面のハルを見下ろしてぶーぶーと文句を言い続けるハルを見下ろして、どうしようも無かった。 この想いを何て言えば良いのだろう。決してハルからは愛情を向けられている訳ではない。それなのに、ガイルの全てを許してくれる、受け入れてくれる存在を、何よりも愛おしい存在に、何て言えば良いのだろう。 「ハル・・・」 酷く掠れた声は、まるで涙に濡れている様だった。 「ハル・・・ハル・・・」 言葉が無い。ただハルの名前しか呼ぶ事の出来ないガイルにハルはふくれっ面を苦笑に変えてそれから、何とも言えない柔らかい微笑みに変わった。 「ばぁか。そんな顔しねぇで何時もみたいに怖い顔してろよ」 そうして、ガイルの頭を引き寄せて与えられるのは柔らかい口付け。 音も無く離れる唇にようやくガイルの言葉が出た。 「愛している。私の全てを持って、何があってもハルを愛する事を、誓う」 至近距離で輝くハルの金色の髪と青紫の瞳に、その全てに誓いの言葉を囁けば、きょとんと目を丸くしたハルがふわりと笑みを浮かべてもう一度、今度はガイルの鼻先に口付けを落としてくれた。 |
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