ハルと猫と魔法使い/日本情緒...08






予定は三泊四日。
古めかしいながらも由緒有る旅館を中心にハルとガイルは日々観光に勤しんだ。

とは言っても、寂れた観光街だ。さほど見る物も無ければ遊ぶ場所もない。しかし2人にとっては初めての2人で行く旅行。特にガイルは何を見ても初めての物ばかり。物珍しさとハルと共に過ごせる旅行と言う独特の雰囲気で、それはそれは楽しい日々を過ごしている。

何よりガイルを喜ばせたのは「浴衣」と言う服だ。薄い布を一枚羽織って縛るだけの簡単な服装がこの国では普通の服なのだと言う。そのあまりにも無防備な服に最初こそ首を傾げたガイルだが、ハルが着れば話は別。脱がせ易く色っぽい。こんなに良い服があったなんて知らずに損したとばかりに温泉街で過ごす日々を毎日浴衣で過ごした。

「昨日はジンジャと言う所に行ったのだな。今日は何処に行くのだ?」
「んー。どうすっかな。とりあえず飯食って・・・そうだな、磯遊びでもしてみるか?」
「磯で遊ぶのか?まあ私は何でも構わんぞ。ハルが一緒であれば」
「ほんっとにお前ってさあ・・・」

部屋の窓際に並んで座って笑い合う。ハルはどんな時でもけらけら笑っては楽しそうにしている。だから、ガイルもハルの笑顔を見て笑う。日の光を受けて輝く茶色の髪と銀色の髪が混じり合う距離でふふふと笑い合って、小さなキスをする。ハルの着ている浴衣は白い生地。ガイルの浴衣は紺色。季節柄、丁度良い気温で浴衣一枚がとても気持ち良い。

「んーじゃ行こうか。海で何か捕れたら料理して貰おうぜ」
「そうだな。海では何が捕れるのだ?」
「釣り竿があれば魚だけど、磯だから何か居るだろう」
「ふむ」

おおよその事はハルの一言で決まる。この世界の事は今ひとつ分からないガイルだから当然だが、何よりハルの笑顔見たさにハルの言う事に従ってはハルを喜ばせる事に専念している。

初めはガイルを喜ばせようとした旅行なのに既に趣旨は変わっていてハルの笑顔を見たいガイルがせっせとハルのご機嫌を取る旅行になっている。しかしガイルに取ってはそれが至上の喜び。良く笑うハルの笑顔はとても眩しくて楽しそうで、ガイルはそんなハルの表情を見るのがとても好きなのだ。

カランコロンと下駄の音をさせながら2人で海に向かう。
潮風の匂いにも慣れたガイルは機嫌良くハルと笑い合って海辺で遊んで見たこともない生き物達に目を見開いて、またハルを笑わせる。
そんな繰り返しをして、また宿に帰ってハルを口説いて押し倒してハルを抱く。
細い癖にしなやかな身体はガイルの腕にぴったりで、心地よく収まる。

あえやかに色を染めるハルを見下ろしながら汗を含んだ髪が揺れる美しさに、うわずった声の艶やかさにガイルは目を細めてハルの全てを取り込む。
毎日が楽しくて、楽しくて。ハルの家で過ごす毎日も楽しいが、ハルと2人っきりで過ごす毎日も楽しくて。

「あー。明日帰りかあ。仕事溜まってるだろうなぁ」

温くなった布団を横に退けて、冷たくて清潔な布団に転がったハルが全裸のままで天井を見上げた。布団は2人だから2組。こういう時にはとても便利だ。

「明日帰るのか?」

そのすぐ側に同じく全裸の身体を横たえるガイルはハルの髪を梳きながら白い額に小さなキスを落とす。柔らかく落とされた唇の感触にハルは笑みを漏らしてガイルの長い髪を一房掴んだ。きらきらと輝く銀色はハルの色とはまた違った色味。夜の光を吸収して反射して酷く幻想的な色になっている。

「そう。帰り。旅行は今日まで。明日は帰るんだぞ」
「そうか。では明日からハルはまた仕事なのだな」

ハルは自宅勤務だが一応会社員だ。仕事をしているハルに家事をするガイル。同じ家の中に居ても案外すれ違う時間は多い。それを思って今の内にたっぷりとハルを堪能しておこうとハルを抱き込むガイルにもうこれ以上は無理だぞとハルはガイルの身体を押しやった。

「今日は終わり。もう俺が保たねぇって」






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