ハルと猫と魔法使い/日本情緒...09
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「お世話になりました。ほら、ガイルも頭下げる」 ぺこりと頭を下げたハルにならってガイルも頭を小さく下げた。 「お世話になりました。で良いのか?」 「あらあらあら。そんな良いんですよ、お客様ですのに」 「いいのいいの。コイツお勉強中なんだから、な?」 「うむ。そうだな。勉強になった。礼を言う」 「あらあらあら。外人さんなのに有りがたい事で。こちらこそありがとうございました。またのお越しをお待ちしておりますね」 チェックアウトも終えた旅館のロビー。がやがやと賑やかな場所でハルとガイルは荷物を抱えて女将さんに微笑みかける。 旅行はもう終わり。 よいこらせといつの間にか来たときの2倍に膨れあがった荷物を手にハルとガイルは宿を出た。 駅までは歩いてすぐだ。潮風を受けるのもこれが最後。まあまた来れば良いだけの話だけれども、今度は違う所に行きたいハルだからこれが当分の最後だなと隣を歩くガイルを見上げた。 「楽しかったか?」 にやりと青紫の瞳を細めればガイルも同じ笑みを返してきた。 「十分楽しかったぞ」 そうしてガイルの腕が伸びてきてハルの腰をそそっとさする。 「お前なあ」 何だかもう溜息しか出てこないハルだ。 うんざりと溜息を落としながらも一応とばかりに重い荷物をがし、とガイルにぶつけた。 「ったく。今から帰るんだからな。ちゃっちゃと歩けっ」 そうしてけらけらと笑うハルにガイルも笑って、また歩き出す。通行人の注目を集めながらも全く人目を気にしない二人だ。駅に着く頃には何やら周りに人が増えている様な気がしないでもなかったが、それも気にせず切符を買ってガイルに手渡した。 「帰り、だな」 ちょっとだけ、名残惜しい気持ち。 呟いて視線を切符に移せばガイルがハルの手に持たれた切符の、ハルの手ごとぎゅと掴んだ。 「帰ろう。猫達が待っているぞ」 小さな声で囁きながら身体を近づける。猫の言葉にハルがぱっと顔を上げて、微笑んだ。 「そうだな。アイツら待ってるもんな。ああ、早く帰ろうぜ」 所詮は猫バカのハルだ。猫を出せば元気いっぱい。ガイルの握った手を繋いでずんずんとホームに入ってしまう。もちろん周りは怪しい人だかりが出来ているのだけれども、そんな事は気にしない。 「アイツら元気かな。待ってるかな。帰ったら甘えてくれるかな」 これも猫バカのイケナイ密かな楽しみだったりする。旅行や出張等で長く家を空けた時の、あの帰った時の猫の歓迎。猫と言うものは常日頃何処かつれない所があるから熱烈な歓迎を受ける数少ない場面なのだ。うきうきと鼻歌まで歌い出しそうなハルにガイルも笑みを浮かべてハルの隣で歩く。 「ハル、ありがとう」 突然、ガイルが真面目くさった顔でハルの顔を覗き込んできた。 「へ?」 驚いて間抜けな声を出すハルにガイルは苦笑して、それでも優しい表情でハルの手をちょっとだけ握り返した。 「楽しかった」 ガイルは今まで旅行なんてしたことは無い。真っ直ぐにハルを見つめる灰色の瞳の中に本の少しの痛みを見てしまったハルはぱちりと瞬いて、それから、ふわりと笑みを浮かべた。 「なぁに行ってんだよ。次は山の方に行くからな」 さらりと告げる言葉は次の確約。ぎゅとガイルの手を握ってぶんぶんと振り回す。確約の印に笑みを浮かべたまま、一応周りを見て、それでも人がいっぱいだったけれど気にせずハルは少し背伸びしてガイルの頬に口付けた。 「お礼を言うなら家に帰って飯でも作ってくれよ」 冗談めかして言う癖にハルの瞳の中にもガイルから分けられた痛みがある。聡く見つけたガイルはほんの僅かに表情を顰めるけれど、すぐにひっこめてハルにおかえしの口付けをした。白い頬に唇が触れる瞬間、何故か周りで悲鳴が上がったのだがそんな事はハルもガイルも知らない事だから、2人とも何て事無く、普段のままに親愛のキスの上にハグまでしたのだった。 |
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