ハルと猫と魔法使い/日本情緒...07






小さな露天風呂。屋外の風呂と言う物はガイルにとって初めてのもので、直に触れる外の空気がなかなかに気持ちが良い物だと関心する。
露天風呂の広さはハルと2人で入って丁度良い位。広くは無いが狭くもない。しっとりと2人だけで湯に浸かる分には非常に良い風呂だとガイルは思う。
しかも、腕の中に抱えている、湯に浸かったハルの肌がほんのりと色を持って艶を放つ。
あちこちに付けた所有印がさらに赤く色付いてガイルの目を楽しませる。
但し、ハル本人は非常に、機嫌が悪くはなっている。

「室内露天風呂の部屋にした俺に最大限の感謝と労りを持てっ」
「分かった分かった。暴れると痛むぞ」
「誰の所為だと思ってるんだよっ!」

これもいつもの事だと言えてしまうだろうか。しかしいつもと違い柔らかいベッドでは無く、固い畳の上での事だった為、ハルに掛かってしまった負担も大きく何だかんだと口を開きながらもぐったりとした身体はガイルに寄りかかっているだけで精一杯だ。

多少暴れてもガイルにとっては可愛い仕草にしか見えなくて、それが余計にハルの苛立ちを増す。
けれど、どうせハルの怒りは持続しない。元々がそう言う性格だと言う事もあるが、ガイルにはハルをご機嫌に、とまではいかなくとも、どうすれば機嫌を浮上させる事が出来るのかが分かっているからどんなにハルが不機嫌でもガイルに取っては可愛い仕草にしかならない。

「ハルは可愛いな。愛している」

そっと低い声で囁いて、軽いキスを赤く染まった頬に一つ。白さを残した項に一つ。それから、軽い力で、けれど逃がさない様に抱きしめればぶつぶつと文句を言っていた口が閉じて、ガイルにもハッキリと聞こえる溜息が落ちた。

「ったく、お前はすぐそうやって・・・」

文句を言っていたハルが小さく笑って、湯の力を借りてくるりとガイルと向かい合わせに身体の向きを変えた。まだ身体を動かすのは怠いけれど、溜息混じりに何度か小さく息を吐いて、ハルは真剣な表情のガイルの髪を撫でる。

「俺のご機嫌取りは終わったか?」

言葉の内容に反してガイルの髪を梳くハルの手は優しい動きだ。さらさらと落ちる銀色の髪を横目にガイルはハルの何処か諦めながらも今の状況を楽しんでいる表情に微笑む。

「ご機嫌取りではないぞ。私は真剣だからな」
「どの口がそんな見え透いた嘘を言うんだよ、ったくもー」

ハルの口から漏れる愚痴に笑みを深くしたガイルはハルの手を取って、習慣の様に指先に唇を落とす。くすくすと笑うのはハルの声。低い声はとても耳障りが良くガイルの耳を擽る。

「嘘では無いぞ?私は何時でも本気だからな」
「それが嘘臭いってんだよ。ご機嫌取りなのは見え透いてるってーの」

もうハルの中では先程の行為は許されるべき物に変わっているのだろう。愚痴を吐き出す唇は笑みの形になって、ガイルを楽しそうに見つめる瞳は細められて、至近距離で見つめ合えば自然とハルの唇がガイルの唇に触れて、優しく温もりを落としてくれる。

「んっ、こら、もう終わりだ。これ以上やったら本気で怒るからな」
「何だ、つまらん」

少しばかり名残惜しいとハルから触れてくれた口付けを追えば当然怒られてしまって軽く肩を竦めたガイルはハルを抱きしめる力を緩めた。流石にこれ以上はガイルだってするつもりはない。
それでもまだ、恋人のふれ合いを終わらせるには惜しい雰囲気で。小さな露天風呂には密やかな声が何時までも響いていた。






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