ハルと猫と魔法使い/日本情緒...05






それは始めて見るモノで溢れていた。
ガイルにとっては全てが全く見た事のないモノばかり。
それを旅館の女将さんはころころと笑って、ハルは盛大に笑って全てを説明してくれたのだが、ガイルが覚えられたかどうかは彼らしくないきょとんとした表情で推し量る事が出来るだろう。

「タタミ、ユカタ、ロテンブロ・・・」
「そうそう。この床がタタミ。でもって今から着るのが浴衣。これから入るのが露天風呂」

ハルの説明は非常にぞんざいだが、機嫌は非情に良い。別にガイルをからかうつもりは全く無いのだがここ最近何かに付けてハルを上回るガイルに一泡吹かせられてご機嫌なのだ。
そんな、何処かほほえましい2人を眺めつつ女将さんはにこにことしたままそっと部屋を後にした。それに気づいたのはガイルだけで、ご機嫌も絶好調なハルは全く気づかずにあまり質の良く無い笑みを浮かべっぱなしだ。

「ほら脱いで脱いで。浴衣着せてやる」

にっこりと微笑みながら浴衣を片手に、もう片手で手招きするハルをガイルはやれやれと言った表情で眺めながらも大人しくハルに歩み寄って、抱きついた。
だいたいこの状態で脱げなどとは良く言えたものだ。
脱げば必ず襲われると言うのに一行に警戒心の育たないハルに笑うしかない。

「何で抱きつくんだよ。脱げって言ったんだぞ俺は」
「脱いだらハルも脱いでくれるのか?」

あっと言う間にペースはガイルの物になって抱きしめられたハルはむうと頬を膨らませる。
何だってコイツはこんなに偉そうなんだと言う言葉を瞳に浮かべて見上げても返ってくるのは下心を内に秘めた優しい微笑みだけ。

「ったく。いいからさっさと脱げって。浴衣着るんだから!」
「私が脱いだらハルも脱ぐのであろう?」
「ああ!脱いでやるよ!」

売り言葉に買い言葉。そんな言葉を覚えてしまったのもこんなやりとりを日常的にしているからで、どうしてこうも学習能力がないのだろうと内心笑いながらも顔に浮かべるのも笑顔なガイルがふふふと怪しい声を漏らす。
ハルのお許し(?)も頂いた事だし、とガイルはさっさと服を脱ぐ。ガイルには(ハルもそうだが)服を脱いで恥ずかしい等の羞恥心はイマヒトツ欠けているから、もちろん脱ぐからにはあっと言う間に全裸だ。

途端に現れる、ハルより大きな裸体。均整の取れた、美しいとしか言い様が無い鍛えられた身体。見慣れた物なのに、日の光のある所で見るのはそう言えば初めてだったと、自分でし向けた事なのにハルは目を見開いてまじまじとガイルを眺めてしまう。
紫がかった青い瞳が細められて、無意識に手が伸びた。向かう先はガイルの身体中に刻みつけられた、痛々しい傷跡。

「痛む事は無いのか?」

見慣れた物だけれども、明るい場所で見るのは初めて。だから、普段は闇に隠れる傷跡も日の光に晒されて痛々しい。

そっと触れてくるハルにガイルはふわりと微笑むとハルの指先を取って、その先に唇を落とした。

「今はもう痛まぬ。大丈夫だよ、ハル」

無意識の気遣いが、ただ純粋に嬉しい。普段はそんな素振りなんて一片も見せないハルが実はとても優しい人なのだと知ったのは一緒に暮らす様になってからだいぶ後の事。

今はハルの優しさがただただ嬉しい。掴んだハルの指先をぎゅっと握って引っ張って、ハルを抱き寄せる。大人しく腕の中に収まるハルにガイルは笑みを浮かべたまま、何処か痛みを含んだ表情のハルにそっとキスをした。







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