ハルと猫と魔法使い/日本情緒...02






色素の薄い茶色の髪。紫の混じる青い瞳。色素の薄い肌は透き通る白さでひょろりと伸びた身体は着やせするのか、脱げば案外綺麗に筋肉が付いている。
手足も長く出不精癖さえなければモデルもこなせるハルはどんな表情をしていても綺麗だ。その外見だけ見れば。
実際、ハルを知る人達はその中身を理解するうちに初めに感じた外見の綺麗さよりも、その中身のマイペースさとおもしろさに惹かれていく。
口は悪くて女王様タイプ。けれど不思議と嫌な感じにはならずに何処か抜けた印象を与えるハルは何処に行っても人気者だ。まあ最も本人にその自覚は全く無いのがまたハルらしいけれど。

「さあって。風呂はいるかー!」

一人大声を出して洗面所に入ったハルは床に転がる2匹目の飼い猫、シロを軽く足で撫でてから、するりとパジャマを脱いだ。洗濯機に放り込んで薄汚れた古い鏡でやつれた顔を確認しながらもうっすらと唇を笑みの形に持ち上げる。顔色の悪さよりも目の下に大量発生したクマよりもこれからの連休の方が楽しみなのだ。

わくわく、と言った雰囲気で素っ裸のまま風呂の引き戸をがらがらと開ける。そのまま掛け湯もせずにさっさと湯船に浸かろうとしたのだが。

「ガイルー!また湯が沸かねー!」

素っ裸のまま、湯船に片足を突っ込んだまま、ハルは大声を出す。

呼んだ名前は同居人であるガイルだ。
直ぐにばたばたと足音がしてがらりと風呂の扉が開かれる。今更裸を恥ずかしがる関係でも無ければハルにその辺の羞恥心も無い。(危機感が無いとも言う)
堂々と素っ裸で立ちながら情けない表情を見せるハルにエプロン姿のガイルは苦笑すると足下に付いてきた三匹目の飼い猫、チャを洗面所に追い出して風呂の引き戸を閉めた。

「久々の言葉が湯が沸かないとはつれないな」

笑みを浮かべるガイルの表情はある種の色を含んでハルに嫌な予感を抱かせる。
これはひょっとして、今更ながらだけれども、マズかったかも。
何て思っても、もう後の祭りだ。

「けれどハルから誘って貰えるとは思ってなかったぞ?」

声を弾ませるガイルにハルはざーっと顔を青ざめさせるけれど、本当に、後の祭りだ。

銀色の長く伸びた髪、髪と同じ色を放つ瞳。男らしく整った顔立ちにハルより何倍も逞しい身体と高い背。

今からもうかなり前。寒い季節に突然庭先に落ちてきた不思議な同居人は今ではすっかりハルの家政婦になっている。
そして、ガイルはハルに想いを寄せている。半ば無理矢理だが決して犯罪行為では無くなし崩しだけれども、絆されるままに何度も身体を繋げてもいる。
どうしても逆らえない何かを持つ男、どうしても切り捨てられない男。それがハルから見たガイルと言う男だ。

「な、何で戸を閉めるんだよ」

いくら風呂が広いと言っても平均身長より高い2人が居れば狭い。
裸で立つハルとエプロン姿のガイル、狭い空間に独特の空気が流れる。
風呂の扉の向こうでは飼い主同士のじゃれあいに飼い猫達が首を並べて小さな声で鳴いている。

「何でであろうな」

にやりと笑みを見せるガイルは既にハルを逃す気持ちはない様だ。
口の中で短く何かを唱えるとハルが片足を突っ込んだ湯船からほんわりと湯気が浮かぶ。
ガイルが魔法を唱えたのだと分かってハルは片足を突っ込んだ湯船に急いで入るが、それを見下ろしながらガイルはさらに質の悪い笑みを浮かべる。

「な、なんだよ・・・」

見下ろされて落ち着かないハルは湯船の隅っこに逃げるが全く逃げにはなっていない。
絶体絶命のピンチ!とガイルを睨み上げるハルに対し、にまにまと笑みを浮かべたままのガイルはおもむろに、その場で全ての服を脱いでしまうとハルが何かを言うよりも早く湯船に入ってしまった。

「一緒に入ろうではないか」
「ふざけんなっ」

ざぷんと湯が揺れる。あっという間の出来事に一応拒絶の意を示すハルだが既に腰にはガイルの手が回れてしまって逃げられない。良く考えなくともこうなる事は分かっていたのに何度でも繰り返してしまうのがハルの可愛い所だとガイルは思う。

白い肌。手触りは良く抱きしめる細さもガイルの腕にぴったりだ。
鍛えられた身体、あちこちに傷跡の残る太い腕ががっちりとハルを抱き込む。

「良いではないか。分かっていたのであろう?」

ふふふと笑みを漏らしながらゆっくりと口つけられる。口付けは嫌いでは無いハルだ。抗う素振りもなく瞳を閉じてガイルの唇を受け入れてしまう。それが敗因の一つなのだがもちろんハルは気付かない。

「ハルは可愛いな」

赤くなったハルの唇を挟んだままガイルが喉の奥で笑う。口付けだけで終わるはずがないのに受け入れてしまう。本当に可愛い。金色の髪を撫でながらもう片方の手で白い身体に手を這わす。口付けはそのまま、舌を差し入れて深くしながら行為を進めて。

「んっ・・・んっ」

次第にハルの息が荒くなっていく。湯の温度もあってか身体全体を赤く染めてガイルの背を叩く手に気を良くしながら、さらに指先をハルの中にそっと潜り込ませる。

「やっ・・・やめ・・」

ざぷざぷと湯船の湯が揺れ、湯の音とハルの上擦った声が浴室に響いた。







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