ハルと猫と魔法使い/サクラと酒
...05



「ガイル!花見するぞ!」

ばばんとドアを開けて入った先はリビング。
薄暗い大時代なシャンデリアに古いくせにやたら高そうなソファセット。
ガイルはそのソファに沈みながら足下にシロを、膝の上にクロを置きながらテレビを見ていた。

ガイルは日本語が読めない。
英語もダメだった。
どうやらガイルの世界にあった文字とこの世界の文字はだいぶ違うらしくもっぱら言葉が分かるだけで内容を理解できるテレビを見る事が多い。
今日もあらかたの仕事を終えてリビングで一休みしていた所だ。

ちなみに見ていたテレビ番組は主婦の定番ワイドショーだ。

「花見とは何だ?」

仕事をしているのだろうと思って放っておいたハルが突然満面の笑みで部屋に入ってきたので首を傾げる。仁王立ちで立つハルはとっても機嫌良さそうな表情で、持っていたチャをガイルに投げて隣に座った。

「花見とは日本人の祭り。花を見ながら酒を飲んで飯を食う。ついでに歌も歌うし踊るヤツも居る」
「良く分からん」

ごく自然にハルの腰に手を回せばハルがちゅっと頬にキスをする。

「要するに桜の花を見ながら酒を飲む。それだけだよ」

ハルは特に酒を好む訳では無い。
どちらかと言えば酒より煙草を好む性質だが血の半分は日本人。桜が咲いているのに花見をしないのは日本人としては頂けない。
ガイルの足下でごろごろと腹を見せているシロを足の指先でちょいちょいと弄りながらガイルに向かって微笑めばガイルも首を傾げつつ笑みを見せてハルの頬にキスを落としてきた。

「・・・要するに花を見ながら酒を飲めば花見になるのだな」
「そんなトコ。でもって花見は夜にやるとより一層楽しいんだぜ?」

こてっとガイルの肩に頭を預けながらにやりと笑うハルは既に楽しい花見の事でいっぱいいっぱいだ。
今までは1人だったからせいぜい縁側に座椅子を引きずって飲むくらいだったけれど今年はガイルが居る。1人じゃない楽しさがあるのだ。







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