ハルと猫と魔法使い/サクラと酒
...02



「ハル、また洗濯機が止まった。私の力ではデンキは動かないがどうする?」
「あー。んじゃぁ3回蹴ってみて、ダメだったら何とかならねぇ?」
「何とかとは何だ」
「洗濯物を綺麗にする。方法は何でもいい」
「了解した」

カタカタとキーボードを操作しながら答えるハルの背後にエプロン姿が非常に似合わないガイルが忍び寄って勝手にハルを抱き寄せる。

「礼、は?」

身を屈めてハルの耳元に囁けば大きな舌打ちが聞こえてきてガイルは笑う。
それでもハルの柔らかい茶色の髪を撫でていれば諦めた様な溜息と共に青紫の瞳が嫌そうにガイルを仰いだ。

「どうしてそう事あるごとに・・・」

言いかけて、それでもその先を言ってもガイルが聞かないと分かっているからハルは口をつぐんで、キーボードから手を離してガイルの銀色の髪を引っ張る。
家事の邪魔になるからと普段は一纏めで括っている髪は昼でも夜でもとても綺麗だ。
覆い被さってきたガイルに軽いキスをして、頬にはもう癖になっている親愛のキスをして。

「ちゃんと綺麗に洗えよ」
「分かっておる」

ガイルからもハルの頬にキスを落として、ご満悦とばかりににっこりと微笑む。
その足下ではハルの家で飼われている3匹の猫のうちのシロがごろごろとガイルになついて部屋を出るガイルの後をくっついていった。

「・・・・はぁ」

そうそう。便利な家政婦であるガイルは妙な力、魔法を使える。
と言ってもハルの前で使うのはせいぜい火のつかなくなったコンロに火を付けたり、湯沸かし器の壊れた風呂を沸かしたり、雨に濡れた洗濯物を乾かしたりと、非常に所帯じみた魔法なのだが、魔法は魔法。
非常に不思議で便利な力だ。ガイルもハルの役に立てるからと惜しみなく所帯じみた魔法を披露してくれる。が、便利なだけでは無い。どうやらハルに惚れているらしいガイルは隙あらばハルを襲いにくるし襲ってくる。まだ最後までやられてはいないもののこのままでは時間の問題だろうと言うのが目下のハルの悩みだ。
「にゃー」

ハルの膝の上で寝ていたクロが小さな声を上げて喉を鳴らす。
それを指先でこしょこしょと撫でながら足下に転がっているチャも足の裏で弄くって、ハルは何事もなかったかの様に仕事に戻った。







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