ハルと猫と魔法使い
...04



まず所持品。
これも映画から持ってきたのかと言いたくなる大振りの剣と宝石らしい石で装飾された杖。
衣装は何処までも不思議で、ハルの知る普通な服は一枚も無く、靴や装飾品に至るまで本当に本格的に映画の世界だった。

しかしガイルにとって幸運だったとも言えるのはハルの性格だった。
自分の気になる事以外に興味を全く示さない、恐ろしい程のマイペースと少々正気を疑いたくなる程の度胸、と言うか不思議な心の広さ。
言葉こそ通じるものの、他の事は何一つ分からないガイルを猫が懐いた、と言うだけで行く当てのないガイルを家に置いたのだ。

ハルはガイルに名前以外の何も聞かない。
ガイルもそんなハルに甘えて日々をハルに仕えて過ごす。
そんな日常がもうすぐ一ヶ月になろうとしているのだ。

「ハルは冷たいな。私に声をかけられて落ちなかった者はいないのだぞ?」

ガイルの言葉は少しじじくさいと思いながらもハルは手際よく鍋の中に鰹節とみそを一緒に落としてぐるぐるとかき混ぜる。
みそ汁に出汁である削り節を入れっぱなしにしておくのは不精者の成せる技だが、これが以外と旨い。

「ガイル。冷蔵庫から卵2つとウインナー。それと変な手つきで俺の背中を撫でるなっつてんだろ」

まだハルから手を離していなかったガイルに今度は後ろ蹴りを入れてギロリと睨む。
今度の蹴りはちょっとだけ入ったらしくガイルは苦笑して冷蔵庫から卵を取り出す。
その足下では餌を一気食いしてご満悦な3匹の猫がごろごろとじゃれついてくる。

「こら、お前達。危ないだろう?」

それを長い足で適当にあしらいながら卵を渡そうとするとハルが眉間に皺を寄せてコンロを睨んでいる。

「どうした?」
「いや、コンロの火が消えちまった。もう寿命かな、これも」

古いコンロだ。
突然火が消えてしまうのも日常でハルがどことなく残念そうに呟くのを見てガイルは口の中で小さな声を唱えた。







...back....next