ハルと猫と魔法使い
...03



「ハル、早いな。昨日はベットに来なかったから一晩起きてたのか?」

低い声はハルの頭上から響いて、そのまま白い頬に唇を落とされてしまう。

「お前なぁ、昨日は仕事だっつーただろうが。しかも来なかったって何だ、ボケ。あれは元々俺のベットだ」

声の主を睨み上げてハルは鍋の中に刻んだキャベツを入れるついでに肘でもって背後の男を攻撃する。
しかしハルの肘を難無く受け止めた男は唇に笑みを浮かべてハルに抱きつく力を強くした。

「つれない。私が誘っているのにどうして全然落ちないのだ?」
「・・・ガイル。骨折られたく無かったらその阿呆な発言を止めろ」

はぁぁぁと盛大に溜息を落としたハルは身を捩って背後に立つ男、ガイルを見上げて仕方がないなと言う表情でその頬に軽いキスをした。

このガイルと言う男、ついこの前からハルの家に居着く風変わりな居候だ。

プラチナブロンドとはまた違う、銀色の髪を背中まで真っ直ぐに伸ばし、ハルを見下ろして細められる瞳は髪とおそろいの銀色、と言うよりも灰色だ。
その風変わりな外見は酷く整っており、どちらかと言えばひょろ長く見えるハルに対してがっしりと鍛えられた、ハルよりも頭一つ大きな身長でいつだってハルを抱きしめてくる。

ガイルが居着くきっかけになったのはまだ冬の寒さが厳しい、新しい年が始まった頃。
自宅で仕事をするハルが納期に追われて徹夜をしていた真夜中に突然庭先に落ちてきたのだ。
しかも、何処の映画から出てきたんだと思われる、まるでファンタジーの世界の様な衣装で。

そう、ガイルは不思議な世界から落ちてきた男だ。

びっくりして庭先に出てきたハルを見て酷く驚いていたのに、何故か翌日には惚れたのだとハルを抱きしめてきてくれたのだが、そんな事が大した事では無いくらいに、ガイルと名乗った男は不思議な男だった。







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