太陽のカケラ...77



またもや腹がぱんぱんになる程食べて、後はもう動くだけ。
昨日は川だったけど、今日は山だ。延々と坂道を上って山菜を採って、夕食はまたバーベキュー。どうやら誰かが遊びに来るとバーベキューになるらしく、花ばかりの庭で延々と肉を焼いて疲れ果てて就寝して。

「身体が重い。少し太った気がする」
「兄ちゃんは少しくらい良いと思うけど、僕も身体が重いや。食べ放題だったもんねえ、2日間」

軽い気持ちで泊まりに来たカオルの家がまさかの食べ放題だったとは、だ。
昼食夕食はもちろん、朝食もかなりの量で絶対太ったと思う。
うう、とのびをしても何となく重くてはじめての経験だ。

「ふふ。折角来たんだもの、何をするのも全力じゃないとね」
「そうそう。特に瑛麻は食わないんだから2日間くらい食い放題でもまだ足りないと思うぞ」
「いいやもう腹いっぱい。いっぱいすぎてはち切れる」
「言われてみれば膨らんだままだね、瑛麻君のお腹。お婆様がお弁当作ってくれているから早く消化しないとね」
「おばあちゃんのお弁当美味しいんだよ!」
「弁当は有り難いんだけどよ・・・まだ食うのか」

花の溢れる庭の中でがっくりと肩を落とす瑛麻に全員が笑う。


あっと言う間と言うか、食べ放題だった2日間だけど、それももうお終い。
朝食を終えて、花の溢れる庭で樒美のアドバイスを聞きながら全員でお花摘みをしている最中だ。

瑛麻達は司佐が迎えに来るけど、会長達はナオのお兄さん、大学生で東京から車で向かっているらしい、が迎えに来るとのことでそれぞれお土産に、ともったいない気もするけど綺麗な春の花を摘んでいる。
鏑木も会長達の車に同乗して途中まで帰るらしいので一緒だ。

「そう言えば会長達ってどこなんだ?」

男子高生が綺麗な花を抱えつつ、ふと疑問に思った事を口に出せばなぜか全員がにんまりと笑む。妙な笑みに首を傾げれば代表して会長が悪い笑みを浮かべてくれる。

「京橋と鏑木って言えばだいたい知ってるもんだが、世間は広いな。喜べ瑛麻、俺らも東京だ」
「は?」
「院乃都に比べりゃ小さいけどな。そんな訳で夏休みが今から楽しみだなあ」

鏑木も悪い笑みを浮かべて嫌味なくらいに似合う本物の花束と、背景にゴージャスは花を背負って瑛麻と和麻を見る。
今、なんて言ったんだこいつらは。目が半分になる瑛麻の後ろにはサチとナオがぴたりとくっついてくすくすと笑う。

「僕達、全員東京なんだよ。しかも院乃都の家と同じ区」
「瑛麻君達は司佐さんの所に帰るから違うの残念だけど、長い休みには遊びに行けるよね~♪」

ぞわり、と背中が泡だった。
まさか全員来るつもりか!和麻も驚いた顔で周りを見ようとして、なぜかカオルと遊佐に囲まれている。

「俺ん家、東京に親戚いるんだぜ」
「楽しみだな、カオル」
「ああ、すっげー楽しみだよな!」

間違いない。全員で来るつもりだ!
ぐるりと囲まれて逃げられないままに嫌な予感しかしない。まだ遠いけど夏休みは一ヶ月以上。実家が東京だったらまず間違いなく来る。しかもカオルと遊佐まで東京に親戚がいるんだなんて!

「全員東京なんですね。楽しみです。ね、兄ちゃん」

なのに和麻は嬉しそうに笑ってやがる。いや、瑛麻だって嫌な訳じゃないけど、けど、けどっ。

「迎えが来たぞい。ナオ君のお兄さんと、瑛麻君と和麻君の保護者と名乗っておるえらい男前の兄さんじゃ。縁側で待ってもらってるぞ。いやあ、久々に見惚れる男前の兄さんじゃのう。ちょっと紹介してくれんかの」
「はあ!?」

一人で声なく慌てていたら爺様にトドメを刺されてしまった。
瑛麻らしからぬ声に爺様だけが驚いて、また全員が今度は和麻も含めて大声で笑われる。

「ちょ、何だよもう笑うなよチクショウっ」
「しょうがないよ、今の兄ちゃんの顔ったら・・・ぷっ」

げらげらと笑う中でカオルがこっそり爺様に説明をして、爺様にまで笑われる。
って、何て言ったんだ!

「すまんすまん。いやしかしありゃ誰でも惚れる男前じゃ、苦労するのう瑛麻君」
「ちょ、カオル、てめえ何言ったんだよ!」
「ありのまま言っただけだぜ。ってちょ、蹴るなよ!」
「うるさい!」

どう言う説明をしたんた馬鹿野郎!
逃げるカオルを追いながら花を抱えて走れば縁側についてしまって、司佐と、もう一人、司佐より少し年下の青年が待っていた。

「よう瑛麻、何で花持って追いかけっこしてんだ?と、君がこの家の子だよな。2日間世話になったな。サンキュ」

ばたばたと走っていって、司佐の姿が見えたあたりで駆け足が早足になって、カオルに笑われつつも花を抱えたまま司佐の前に立つ。
久しぶりに見る司佐はやっぱり男前だし格好良いし・・・少し恥ずかしい気持ちだ。

「ひ、久しぶり。迎えに来てくれてサンキュ。前にも紹介したけど、この家のヤツでカオルな」
「お久しぶりっす!ナオ兄も久しぶり!」
「ああ、久しぶりだね。いやあ、少し見ない間に大きくなった・・・かな?」
「なってねーよもう。あ、そうそう。えーと、どう紹介すればいいかな」
「いや、自己紹介くらいするぞ。俺は中江司佐。瑛麻と和麻の保護者みたいなもんで、家は喫茶店で俺はバーをやってる。あと俺にもタメ口でいいぞ。よろしくな」

にこりと笑う司佐に全員で見惚れて、慌てて咳払いをするのはナオの兄だカオルに言われた青年だ。
兄と言われれば成る程、目元が良く似ているし全体のイメージも尚っぽい。真面目で強そうな、芯の通った人なんだろうなあと思わせる雰囲気だ。

「僕は近藤柳太(こんどう やなた)。尚太の兄で大学院生です。宜しくお願いします」

司佐を前に少し緊張して微笑む姿はナオより柔らかそうな感じ、と言ったら怒られそうだけど、そんな感じだ。
ぺこりと頭を下げれば後ろからぞろぞろと花を持った面々が追いついて騒がしくなる。


全員揃えば結構な人数で、改めて司佐と柳太が自己紹介をしつつお茶を入れてもらって花も包んでもらう。豪華なお土産だ。

「お世話になりました。花まで頂いて、本当に良いのか?」
「いっぱいあるからいいよ。なあ爺様」
「花はまだまだ溢れるからのう。折角だから持って帰って飾ってくれると嬉しいの。それと、こんな家だし来客はいつもじゃから気負う必要は全くないぞい。今度は一緒に遊びに来なされ。柳太君も同じじゃよ」
「ありがとうございます。いつもすみません」
「ありがとうございます。早速店に飾らせてもらうか」

縁側で集まってくつろぎつつ、やっぱり司佐の隣がとても安心できる。
すっかりだらけた瑛麻に何やら言いたそうな視線が幾つか刺さるけど全力で知らないふりだ。折角会えたのにもったいない。これから数日間は一緒だけど、少ない時間だし久々の司佐に少々浮かれているのは隠しようのない気持ちだ。

そう、連休の後半はずっと司佐の家。ずっと一緒。
司佐は忙しいから言葉で言う程一緒にはいられないけど、学園にいるのとでは全く違う。
気を抜くと笑みが浮かびそうな瑛麻に全員が気づいているけど、珍しく浮かれ気分だから全く気づかずに皆に話題を提供しつつお世話になったカオルの家を後にした。






>>食い倒れな前半戦終了ですー。いや、カオルの家を紹介したかったんですけど何かを間違えた気持ちでいっぱいです。
引き続き後半戦、色気もあると思うよ東京編に続きますー。
書き上がり次第更新しますのでのんびりお待ち頂けると嬉しいです〜。


back...next.黄金色の日々。要するにゴールデンウイーク<後編>に続く。