太陽のカケラ...73



4月の終わりから一週間、学園は休みとなる。
遠方から寮に入っている生徒も多いからで、この連休で入学から一区切りだと一度帰省になるらしい。高等部にはあまり関係のない話になるけど、中等部にはなかなか重要な連休だ。なにせ連休明けには若干名の人数が減るらしい。
確かに野郎ばっかりで山奥で大変だしなあと妙に納得した瑛麻である。

しかもこの連休、課題が出ないのだ。
生徒達にとっては楽しい楽しい連休でそりゃもう遊びまくるしかない!のだが、休み明けにはちゃっかりテストもあるし、瑛麻には分厚いテキストもある。

「連休初日に一斉なんて有り得ないよね!」
「サチも引っかかったのか」
「だってお休み前なのに遊ばない訳がないじゃない。だから先生だって背負いカゴでテキスト配ってたんじゃない」
「まあなあ」

今日も可愛らしい、水玉のチュニックにレース付きの五分丈ズボンを着こなしているサチが両手で分厚い、瑛麻と同じテキストを抱えてしょんぼりしている。
どうやら早朝にあった一斉検査ではかなりの数の生徒が引っかかったらしく、瑛麻はその原因を作った方なので仕方がないとは思っているし勉強は嫌いではないので余裕の表情だがサチは違うらしい。
そう言えば部屋に戻った時には篤斗がいてやっぱりテキストを抱えて項垂れていた。

「それもどうかと思うんだけどねえ。まあ連休初日に一斉だなんて珍しいよね。サチ、この前貰ったテキストもまだ終わってないんでしょ、僕も見るから早めに終わらせるんだよ」
「分かってるよぅ・・・」

しょんぼりしているサチの隣では珍しくラフな格好のナオが苦笑しながらサチの頭をぽんぽんと叩いている。
なぜ一斉検査になったのかはまだ生徒達には広まっていないがナオの眼鏡がきらんと光って瑛麻を見るので夜にでも説明するつもりだ。
そしてサチとナオ、会長は連休の後半に帰省するとの事で、瑛麻兄弟もそれに合わせて司佐の家に帰るつもりだ。


あの騒動から一晩明けて連休の初日である。
今日から2泊、瑛麻達はカオルの家に外泊する事になっていて、メンバーはサチとナオ、それに瑛麻と和麻だ。
友秋は風紀員と訓練で、篤斗は訓練にプラスして部活。会長と鏑木は悪い笑顔で大掃除をするのだと、外泊に誘ったのだが残念そうに断られた。でも明日には合流する予定だそうだ。


そんな訳で朝食を終えた今、ロビーでのんびりとカオルを待ちつつ帰省の騒ぎを眺めてもいる。
週末毎に高等部のロビーに中等部の帰省する生徒達も集まっての賑やかさで、連休だからさらに人数が増えている。瑛麻達は帰省ではないものの、カオルと遊佐が迎えに来てくれるので一緒に混じりつつ見学だ。

そうして、しょんぼりしたサチがお腹が空いたと呟きはじめた頃に到着した。
朝から元気いっぱいのカオルと遊佐だ。

「おっまたせー。悪いな待たせて。じーさまが車出してくれたんだ、行こうぜ」
「あれ、サチが持ってるのって特別課題のテキストじゃねえか。一斉でもあったのか?」
「おはようカオル、遊佐。お爺様に来てもらって申し訳ないね。連休初日なのに一斉があったんだよ。テキスト持ってるのはサチだけじゃなくて瑛麻君もだけどね」
「篤斗もだかんな」

それぞれ荷物を抱えて移動しつつテキストも仕舞って移動する。
ロビーのお迎えに混じりつつぞろぞろと案内されるまま移動すれば学園の敷地内、丁度外部から来る来客やお迎え用の車が待つ区画にうぞうぞと黒塗りの高級車が並んでいてちょっとした、いや、高級車限定車屋状態だ。

「すげーなあ。この前はこんなにいなかったぞ」
「全部黒塗りなんだねえ。車種はいろいろあるみたいだけど」

瑛麻と和麻が呆れつつも関心して眺めていればナオとサチが笑う。

「そりゃあ何だかんだ言ってお坊ちゃんも多いし、見栄もあるだろうしね」
「でも見事にぜーんぶ真っ黒だよね。白いのってカオルのおじいちゃんだけじゃないの?」
「ん?白い・・・?」

この高級車に紛れながらものすごく目立つ車があった。
黒塗りの高級車の間に白い軽トラックが一台。もしかしなくとも。

「すげえ、ある意味一番格好良く見えるぞ軽トラ」
「でも一台だけだよね・・・まさか」

驚くのは瑛麻と和麻だけでその間にカオルを先頭に進む先はやっぱり軽トラックで、近づけばカオルの祖父だろう爺様がにこにこしながら立っている。
サチとナオがお行儀良く頭を下げるから瑛麻達も倣って頭を下げて、一人さっさと軽トラックの荷台に乗り込む遊佐を見てやっぱりだと顔を見合わせる。

「おうおう揃いも揃って来たの。カオル、これで全部かの?」
「うん、全員だぜ。じゃ出発だなって瑛麻に和麻、何そんな顔してんだ?」
「いやだって・・・何でもない」

挨拶もそこそこにサチとナオも颯爽と荷台に乗り込んでいるから瑛麻達もそうなのだろう。
一応突っ込みを入れたかったのだがあまりにも当然みたいに皆が乗るから瑛麻も乗るしかなさそうだ。
しかしこれ、人を乗せて運んでも良いのだろうか。

「一応駄目だけど、カオルの家に行くまでだし楽しいよ」
(※一応じゃなくてダメですよ)
「気持ち良いよね、夏はひどいけど」

意外とサチよりもナオの方が楽しそうに見えるから面白い。そして、だから珍しくラフな格好だったのかと納得もして程なくして出発だ。

黒塗りの高級車に紛れて軽トラックの荷台でうぞうぞしながらのんびりと走る。
人を乗せているからスピードは出さない様でちょっと安心しつつも遮るもののない景色の流れにだんだん楽しくなってきた。

「結構良いなこれ、車高もあるから景色良いし」
「風も気持ち良いよね。ちょっと怖いけど」

のんびり走っていても車だからそれなりに揺れる。
ぎゅっと荷物を持ちながら固まり気味の和麻に瑛麻が笑いつつ手を繋いで他の3人に呆れられつつも順調に軽トラックは進み。

学園を出て15分くらい、カオルの家に到着だ。

学園は山のてっぺんで、麓にカオルと遊佐の暮らす小さな村がある。
人口よりも野生動物の方が多そうな、古い家しかない上に数も少ない。近所でも歩いて何十分かかかる様な、そんな村だ。
山から下りてきたのだから当然ながら村の全てが見えて、最初はあまりにも何もなくて驚いた。見渡す限りの緑しかなかったのだ。
それが近づくにつれ本当に何もなくてまた驚いて、最後はカオルの家が見えて一番驚いた。

瑛麻と和麻には縁のない田舎だから驚きっぱなしだったけれどカオルの家でトドメを刺された感じだ。

「大名屋敷ってきっとこう言う家を言うんだろうな」
「玄関から結構走ったよね、車で。それにしても広いよね、家もお庭も」

ぽかんと兄弟揃って口を開けてカオルの家を仰ぎ見る。
玄関先まで爺様の軽トラックで運んで貰ったのだがそもそも敷地の入り口である玄関から城の様な造りだった。そこから軽トラックで走ること少し、両脇に見える庭は緑と花で溢れていてテレビで見たどの庭園よりも綺麗で、広かった。学園のグラウンドより広そうだ。
それから、ようやく家の玄関前に着いて降りたのだけれど。

「気持ちは分かるよ、僕達も最初は驚いたものね」

唖然とする瑛麻と和麻の側でナオがうんうんと頷く。
そうか、ナオも一緒だったのかと素直に納得できる家だ。

例えるなら言った通りの、大名屋敷。しか出てこない。
木造の平屋で本当の金持ちは横に広がる、と言う言葉も一緒に思い出して勝手に納得してしまう。それだけ立派なのだ。あの院乃都の豪邸だってカオルの家の前では見劣りしてしまう。

「ボクはお家よりお庭にビックリしたよ。すごいよね、いつ見てもすごく綺麗でお花がいっぱいなの。池もあるよ。金魚可愛いの」

まだ唖然としたまま言葉のない瑛麻と和麻にサチも頷きつつ肩を叩く。うん、家もすごいけど、庭もすごい。瑛麻の感性じゃどうやっても説明できないくらいには、綺麗だ。

「いやいや、褒めてくれてるんだろうけどいい加減戻ってきて家に入ろうぜ。確かに古くてでかいけどそれだけだかんな」

盛大に驚き過ぎていたらいつの間にやらカオルの祖父は軽トラックを仕舞いにいくのだとまた走っていって、カオルは苦笑しながら瑛麻と和麻の背中を押して家の中に入れようとする。遊佐は驚く瑛麻達をさらっと無視して既に家の中だ。

「あ、悪い。でも、すげえな。広いっついーか、なんつーか」
「院乃都の家よりすごいよね。ううん、比べちゃ申し訳なくなるよね」
「それは言えてる」

院乃都の豪邸も立派だとは思うが比べては失礼だと瑛麻でも思う。そんな兄弟2人にカオルが苦笑して、ナオも笑いながら先に玄関に入る。サチは庭一人で庭に走っていく。どうしたのかと思えば。

「金魚に餌やるの好きなんだよ、サチ。瑛麻達も後で行ってみろよ、金魚ってかフナって言うか、まあおもしろいと思うぜ」
「コイって言わないあたりに不振を感じるけど面白そうだな。お邪魔します」
「お邪魔します。中もすごいんだねえ」

またカオルに背中を押されるから外観も見上げたことだしとようやく中に入る。
やっぱり中も広いが外観よりも驚かなかった。ちゃんと人の住んでいる気配があるからだろうか、どことなく暖かみを感じる。まあ立派なのには変わりないし玄関は土間になっていて、廊下が学校のとそう変わらない広さと先の見えない長さで驚く前に呆れたけれど。

「俺の部屋は一番奥で、泊まる部屋はその隣。荷物置いたら案内するぜ、瑛麻と和麻ははじめてだもんな。ナオはどうする?」
「僕はサチと一緒に餌やりに行こうかな。瑛麻君、和麻君、たっぷり驚いてくると良いよ」

案内が必要な広さなのは分かるのだがナオの言い分と表情からするとまだまだ驚く事が山ほどありそうだ。
学園生活でも驚く事は山ほどあったのにカオルの家でもまた驚きが満載とは。




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