太陽のカケラ...72



そんな訳で大騒動のままようやく終わった1日だが、カミサマは瑛麻を見捨ててはいなかったらしい。

ウサギ先輩の部屋でいろいろと話をしつつ、眠る段階になって床で良いと言ったもののまだ冷えるしいっつも人が多いからお客様用のお布団もあるんだよ!ともふもふワンコが可愛らしい笑顔で布団を敷いてくれた上に、隣に寝てくれたのだ。

何でも高塚先輩もウサギ先輩も布団の人で、基本個人部屋は散らかし放題で眠れる場所がない。

だから共同スペースで大人数で眠る事が多くて家具もおかないとの事で。

 

「・・・桜乃、心の底からありがとう。お前とダチで良かった」
「お前以外ともふもふ好きか。涎、拭いておけよな」

 

いろいろと酷い目にあってばかりだったここの生活の全てが報われた気持ちだ。

すがすがしい朝ではないものの瑛麻の機嫌はかなり良い。例え朝5時に起こされようが特別課題を貰おうがご機嫌である。


「しかし特別課題って普通もっと何か言われてもらうもんだと思ってた。まさか先生が背負いカゴに入れて配るもんだとは思わなかったぞ」
「休み前だし人数多いって分かってたんだろ。ま、普段の日でも結構多いからな。一応規則で決まってるけど遊びたいし」
「確かになあ」


早朝、5時ぴったりに寮内に大音量で放送が流れて容赦なく全ての部屋が夜間の寮監である当直の教師と警備員によって行われあちこちで悲鳴も上がっていた。

けれど罰則である特別課題は教師が名前をチェックして冊子を配るだけと言うあっさりしたもので、ちょっと拍子抜けだ。


「ああ、それとその課題、提出期限は一週間だから。頑張れよ」
「は?これ結構分厚いぞ」
「ちなみにそのテキスト、一斉で引っかかっただけじゃなくて他の規則破りでも使ってるぞ。冊数増えても新しいペナルティはないけど提出期限破ったらまた増えるんだぜ」
「なんつーか、緩いんだか厳しいんだか」
「緩い方だと思うぜ?基本重大事故でもない限りは学園内だけで対応するし、だから全員で何とかしようかって気持ちにもなれるってもんだ」
「桜乃に言われてもなあ」


結構な厚みのあるテキストをぺらぺら捲ってみればどうやら問題集の様だ。

桜乃も同じテキストを抱えているが内容は学年事に違うらしい。

 

そして、騒がしい早朝ではあるが既に連休ははじまっていて悲鳴を上げながらもどことなく空気が浮ついている。桜乃と2人、廊下を歩きつつ浮ついた空気に機嫌の良い瑛麻は珍しく笑顔が多い。

ちなみにこの検査、部屋の主には罰則はないのでウサギ先輩も高塚先輩も無罪になる。理由は至って簡単と言うかそもそも部屋の主がちゃんといればそれで良いのだそうだ。


「別に俺が言っても良いだろ。んじゃな、和麻と司佐にヨロシクな。連休だし帰るんだろ?」


テキストを抱えつつロビーに出れば既に大勢の生徒で溢れていた。テキストを抱えている生徒も多いが、部活動のユニフォーム姿で食堂に向かう生徒も多い。朝練なのだろう、ご苦労様だ。


「帰る予定だぜ。でも今日から2泊はカオルの家に泊まる事になってる。桜乃は帰るのか?」
「帰るぜ。でも溜まり場の方だからそっちには行かないかもな。だからヨロシクって事で」
「おう、んじゃな」


賑やかなロビーで分かれて背伸びと大きな欠伸を1つ。

一斉検査があったと言う事はそれなりに大事なのだろう、何があったのかと噂する生徒も多いがまだ中等部の生徒会長の話は聞こえてこない。中等部だからだろうか、でもあの中には高等部らしき生徒もいたはずだし。

なんて思いつつ部屋に戻ろうと廊下に向かえば階段の影から目立つ二人が出てきた。


「待ち伏せ?」
「説明と口止めにな」
「あと純粋にどこに泊まったの興味も」


会長と鏑木だ。セットでお出ましで口止めとは何かあったのだろうか。

そのまま階段の影に連行されて背の高い二人が瑛麻の前に立つ。


「昨日の乱闘な、中等部の会長が誰と乱闘したのか黙りだって話だ。どう見ても大人数でリンチしようとしてたのが明白なもんで結構な問題にもなって先生方も相手を無理矢理聞き出す事はないらしい。言わなくても分かってるし大人数の方が負けてるけどな。それでだ、処分や事情調査は連休明けになりそうだがお前らには処分はない。もし正式に判明しても俺達が阻止する。だからって訳じゃないが俺と鏑木が混じってたのは内緒にしておいてくれると助かる。確実にサチに蹴られてナオに説教されちまうかな」


小声で説明をする会長が最後に苦笑して妙に可愛らしい感じに見えてしまった。

鏑木も隣で手を合わせている。


「別に黙ってるのは良いけど、あ、でもウサギ先輩達には説明した気が。桜乃が」


一斉検査に至るまでの事を割と詳しく説明してしまった記憶がある。

説明したのは桜乃だが。


「それは構わない。どうせ生徒にはバレるし、それは旨く利用するだけだ。そして瑛麻の機嫌が良さそうなのは着ぐるみ部屋だったからか」
「そういや高塚先輩が相部屋だもんな。いいなー。可愛かっただろ」
「そりゃもちろん。しかも布団敷いて隣で寝た。すげー幸せだった」
「羨ましいなくそ。ま、そんな訳で心配はいらないって事だ。この機会に大掃除しちまおうと思ってるし和麻にヨロシク言っておいてくれ。桜乃には後で伝えとくから」
「今日からカオルの家に泊まるんだろ。楽しんでこい」


口止めにしては緩いがどちらかと言えば瑛麻達を心配してくれたのだろう。

しかしあの2人が手を組むとなるとあの小物にしか見えなかった中等部の生徒会長が若干気の毒にも思えるから不思議だ。

そして、処分がないと言い切った会長の言葉を無条件で信じられるのもまた不思議だが男前はどこまでも、なのだろう。

 

話はそこで終わって会長と鏑木がロビーに出れば野郎なのに黄色い悲鳴が聞こえて来て、瑛麻はこっそりと部屋に戻る事ができた。しかし野郎なのに黄色い悲鳴にも随分慣れたものだ。それだけ瑛麻もこの学園に馴染んできたのかもしれない。


「ま、結構楽しいから良いけどな。友秋、遅くなってごめん、開けてくれー」

 

小さく呟いて一晩ぶりの部屋に戻れば友秋が笑顔で扉を開けてくれる。

その笑顔にようやく騒がしくも長い一日が終わったのだと実感できた。

 

さあ、楽しい連休のはじまりだ。




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