太陽のカケラ...71



3年生の部屋は1階で、外に面した窓にはベランダがついている。

割と高さのあるもので1人では乗り越えられない。

 

時刻は既に深夜だ。けれど桜乃に連れられてこそこそと向かった部屋にはまだ灯りがついていた。

いや、見れば割と灯りのついている部屋がある。

 

「そりゃ休み前だし明日から連休だし、明日はざくざく特別課題が出るぜこれ」
「だよなあ」

 

瑛麻もまだ起きている事の多い時間で、今日は休み前。確実に起きているだろうし、もっと学園に馴染んでいたら他の部屋で遊んでいた可能性も高い。

朝の騒動を思えば少々頭痛がするものの、悩んでもどうしようもない。

 

そうこうしている内に窓が静かに開いて1人の生徒が出てきた。

がらがらと窓を開けてベランダからひょいと顔を出す。部屋の灯りが逆光で顔が見えないがあまり大柄ではなさそうだ。


「先輩さんきゅーっす。今日はもう1人追加で、瑛麻っす」
「えーと、お世話になります」


一晩泊めてもらうのだからとぺこりと頭を下げれば挨拶は後で、と笑われてベランダから脚立が降りてきた。準備万端過ぎる。


「いつもの事だし、って確か瑛麻だったよな。珍しい組み合わせって言うのかこれ」


有り難く脚立を使って無事ベランダに侵入できた。これで一安心だ。

ちなみに、ベランダから脚立を持ち上げるのにロープを使って引き上げていた。手際が良すぎる。

 

そしてベランダに侵入できてやっと入れてくれた先輩の姿がちゃんと見える様になった。

金髪頭でピアスがじゃらじゃらな、たぶん見かけは不良っぽいものの身長は瑛麻と同じくらいで着ぐるみ姿だ・・・顔は可愛らしい感じだから似合っていると言えば似合っているけれど微妙な気持ちにもなれる。

しかも後ろをむけばふわふわのウサギの尻尾がふりふりしていてさらに微妙な気持ちだ。


「まあ珍しいっちゃ珍しいかもっすね。で、何で部屋の中あんなに詰まってるんすか」
「だって明日から連休だろ?だったらゲーム大会じゃんか。お前らも混じってけよ、本体幾つか余ってたし」


そして明るい部屋の中を見てまた微妙な気持ちになる。

ベランダのある部屋は共用スペースになっている所だ。瑛麻の部屋だとテレビとソファにテーブルくらいしか物が置かれていないがここはすごい。

 

何がすごいってどう見ても家具はテレビが2台だけ。しかも複数のゲーム機が接続されていて絶賛プレイ中だ。他には何もないが変わりに人がいっぱいいる。

主にカラフルな頭の分かりやすい不良っぽい人達が全員床に座ったり寝転んだりして携帯ゲーム機を真剣に弄っている。数名は本らしき物を広げている不良もいるが人口密度が有り得ない。


「お願いしといて何ですけど、これ、俺ら入る隙間あるんすか?」


桜乃も呆れている様で部屋に入ったものの座る場所がない。

なのに全員がゲームに夢中で声がない。違う意味で怖い。


「詰めれば余裕だって。お前らちょっと詰めろー。桜乃と瑛麻だぞ」


ウサギの先輩が近くに座っている1人を軽く蹴りながら声をかければ全員が無言でじりじりと尻で移動した。そこまで夢中なのか。

いや、本を見ていたらしい数人は顔を上げて驚いている。


「桜乃はともかく瑛麻だっけ?珍しいなー」
「そういや桜乃、蹴り飛ばされたもんな。んで何、夜遊びの帰り?」


かろうじて座れる場所ができて、ウサギの先輩が親切にクッションまで渡してくれるから大人しく座れば声をかけてきた2人が人の隙間、がないので堂々と踏んづけて移動してくる。2人ともやっぱり見かけはあれだがどうも3年生には見えない。そもそも私服だから年齢が分かりづらいのだ。


「黒いパーカーは俺と同じクラスでパジャマの方は1年だよ。確かS2じゃなかったっけ?」
「そうそう、S2でこう見えて文系、漢文を愛するナイスガイなんだぜ」


人は見かけによらないものだ。この学園のS2は偏りは激しいものの得意分野では全国でもトップクラスの連中が集まっていると聞いているから余計に。と思ったらウサギの先輩もS2だと言う。ますます不思議な学園だ。

ではなくて。


「確かに喧嘩帰りだけど桜乃、言った方が良いんじゃないのか?」


そもそも瑛麻がこの部屋にいるのは明日の一斉検査があるからで、部屋は2人部屋。明らかに10人以上が特別課題の餌食になる訳で。


「そう言えばそうだったよな。えーと、とりあえずゴメンナサイ。明日一斉入る事になりそう」


桜乃も気づいてぐるっと部屋を見渡して頭を下げた。一応瑛麻も下げておく。が、あれ程ゲームに夢中になっていた全員が、ウサギの先輩も喋り途中だった2人もぴたりと動きを止めて、ぎこちない動きで全員が桜乃と瑛麻を見る。いや、睨まれる。


「今、何て言った・・・?」

 

腹の底から脅すかの様な声でウサギの先輩が呟きながら睨み付けてくる。

迫力のある声にやっぱり不良なんだと関心しつつも若干申し訳ない。

 

「だから、一斉入るっす、まず確実に」
「マジか・・・くそ、連休前に何してくれてんだよ」
「喧嘩打ってきたのは向こうっす」
「詳しい話聞かせろよな。で、警備は?」
「たぶんこれからっす。なんで戻るなら今すぐじゃないと」

 

瑛麻には分からない話もあるがウサギの先輩と桜乃が話している間にぞろぞろとゲーム機の電源を切った先輩達がしょうがねえな、とか呟きながらベランダから外に出て行ってしまった。

行動の早さに驚くものの部屋がだいぶ広くなった。けれど、数名は戻れずにがっくりしている。

喋っていた2人と他にもちらほら。そして両方の個人部屋からもまたぞろぞろと出てきてはベランダに消えて取り残される数名がいて。


「・・・何人いたんだ?」

 

思わず呟けばウサギの先輩もがっくりとしてなぜか笑い出した。何だ?

 

「瑛麻は一斉はじめてだもんな。それと、ウサギ先輩の部屋はいっつもこんな感じだぞ」

 

ウサギの着ぐるみだからウサギ先輩なのか?ともちらっと思ったが流石に違うだろう。

床に懐いていたウサギの先輩がよろよろと起き上がって立ち上がると、個人部屋から見慣れた先輩を連れて戻ってきた。

ふわふわのワンコ着ぐるみが誰よりも似合っている、高塚先輩だ!

 

「ホント何も知らないでココ来たんだな。ま、着ぐるみ部屋にようこそって所か?俺は宇佐津(うさつ)、こっちは知ってると思うけど寮長の高塚な」
「あっれ瑛麻君じゃない、桜乃君も来てたんだ〜。お茶飲む?ジュースもあるよ?」


着ぐるみが2人並んで、可愛い。かなり可愛い。特に高塚先輩がっ。

無意識にもふもふワンコを撫でたくて手がふるふるしてしまう。

 

「お構いなく。瑛麻、戻ってこいって」
「・・・っ!?危なかった、今開けちゃいけない扉を見た気分だ・・・じゃなくて、ウサギ先輩で良いのか?あと高塚先輩が相部屋?」
「好きに呼んでくれて良いぜ。で、相部屋が高塚だから着ぐるみ部屋な」
「ウサギ君が洗濯サボってるから着ぐるみ貸してあげたんじゃない」
「だってメンドイし」

 

可愛い着ぐるみと結構微妙な着ぐるみが可愛らしい言い合いをしているのをぼけっと眺めていたら桜乃が横から説明してくれる。

ウサギ先輩は着ぐるみ趣味ではないのだが良く洗濯をサボって着ぐるみになっているのだと。

高塚先輩も気前よく貸し出すものだからウサギ先輩の着ぐるみ率は割と高いらしい。

 

ちなみに、部屋に集まっていた半分は桜乃と同じく札付きと呼ばれる生徒達なのだが、瑛麻がずっと感じている様にこの学園で札付きと呼ばれてももっと目立つのがいるから割合平和に過ごしているとの事だ。

 

ま、気を張る相手もいないし、いても絶対適わないのばっかだしなココ。との事だ。




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