太陽のカケラ...69



何で会長と鏑木先輩がいるんだよ!!!


思い切り心の中で絶叫しつつも口だけがぱくぱくとしてしまう。

これは悲鳴を押さえたのではなくて、驚きすぎて声もでない、が正解みたいだ。

桜乃も瑛麻と同じ状態で口をぱくぱくさせている。

 

「悲鳴を上げなかったのは褒めてやるぞ」

 

そんな2人を見て会長がにやりと笑み、鏑木も悪い笑みを浮かべている。

どうして何でこの2人がこんな場所にいるんだ!


「ふふん、生徒会と風紀を舐めてもらっちゃ困るな。中等部に関わらないと言っても情報は入るもんだ」
「何せ馬鹿だからな。こう大きく動いたんじゃ直ぐバレるだろ」


ふふん、と笑う2人は小声なのだが何でか迫力がある。

普段から目立ってはいるし強いんだろうなと思わせるものはあったのだが、この闇の中で立つ2人は何か違う。

それに会長と風紀委員長だけなのも変だ。まだ驚いている桜乃は気づいていない様だが、瑛麻は気づいてしまった。そう、会長と鏑木が2人だけでいる事に。そして、二人が布っぽいものを持っている事にも同時に気づいてしまって嫌な予感しかしない。


「なあ、あのさ、すげー嫌な予感しかしねえんだけど」
「ん?何だ、目敏いな」
「会長、そろそろはじまりそうだぜ」
「そうか。随分長い事演説してたな。やっぱり馬鹿は馬鹿だと言う事か」
「だろうな」


ひしひしと感じる嫌な予感はどうやら的中らしい。

そろそろ、の鏑木の声で和麻を横目で見るものの今はどうしてかニット帽を被り布で口元を隠している2人の方が気にな・・・どう見ても強盗だろうこれは。


「何のんびりしてるんだ、はじまったぞ」
「よっしゃ行くぜ」

 

唖然とするのは瑛麻だけじゃなく桜乃もだ。横目で見ていた和麻の方はとっくに戦闘態勢で闇の中で向かってくる生徒を蹴り飛ばしている。直ぐにでも参戦しなければいけないのだが、驚きすぎて固まっている瑛麻をよそに強盗になった会長と鏑木が颯爽と広場に踊り出ていって。


「・・・瑛麻、俺らも行こう、ぜ」
「お、おう・・・」
「あ、和麻もびっくりしてる。いや、驚くよな」
「うん、驚くよな・・・あ、こっちに逃げてきた」

 

誰でも驚くと思う。

あまりの事態に動けないでいる2人の所に焦った顔の和麻が駆け寄ってくるが、それでも2人は動けない。

 

「ちょっと兄ちゃん、あれ誰?すごく強いんだけど何で強盗スタイルなの?」

 

和麻を攻撃しないのだから味方だろうとは思うのだが、正式には味方かどうかも微妙な所だ。

 

「あー、その、あれ、会長と鏑木先輩」
「へ?」
「いつの間にか後ろにいて、強盗になって行っちまったんだよ」
「・・・それ、本当なんだよね?」
「こんな阿呆な嘘ついてどうすんだよ」

 

正体をバラせばまた驚かれる。それはそうだろう、何せ会長と鏑木が強盗で乱闘だなんて。しかも馬鹿みたいに強いだなんて。

これはもう出る幕はなさそうだとしばしぼけっと強盗の乱闘を見守っていたら桜乃が嫌な顔で呟いた。


「そう言や会長、裏で暴れる事があるらしい。ちょろっと耳に挟んだ事がある・・・まさか強盗だとは思わなかったけど」
「会長が、ねえ」


そう言えば親睦会でちらっと獰猛な笑みを見せていたかもしれない。

だからと言ってまさか会長が強盗になるとは思わなかったが。


「で、どうするの?僕達も混じる?思ったより人数多いし僕としては結構むかついたからちょっと蹴りたいんだけど」


この件に関して直接被害を受けたのは和麻だ。

あの長い演説中にもいろいろ言われたのだろう、珍しく怒っている様子にようやく瑛麻と桜乃も気を取り直す。


「最初からそのつもりだったし、強盗に負けそうだけど混じっておくか」
「そうだよな、折角の機会だしこれ以上ぼけっとしてても寒いだけだし」
「じゃあ早く混じろ?」


暗闇の中で活躍する強盗は確かに強いが思ったよりも向こうの人数が多くて時間がかかりそうだ。

あまり時間がかかると警備に見つかる可能性も高く、何より元々はこっちの喧嘩である。

 

しかし何で強盗にまでなって暴れているのだろうかあの2人は。

さくっと乱闘に混じりつつ瑛麻にとってはそう久々でもない喧嘩を軽くこなしつつ内心で首を傾げる。

 

人数は暗闇で良く分からないし警備に見つかる事を恐れているのか誰も怒鳴ったりしないから良くわからない。ただ10人以上はいそうだ。

しかし折角の夜の喧嘩だと言うのに怒鳴り声一つもないとは・・・ちょっとつまらない。

静かにわせわせ動いてたまにうめき声なんかがするくらいだ。これはもう喧嘩じゃないんじゃないかとさえ思えてくるけど向かってくる不良っぽいガタイの良い奴を殴り飛ばせばそれなりに手応えもあって微妙な気持ちだ。

それは和麻や桜乃も思っている事らしく背中合わせで固まりつつ応戦しているものの。


「なんかさあ、こんな喧嘩もあるんだな」
「だな・・・微妙だよな」
「ねえ桜乃、ここの喧嘩っていっつもこうなの?」
「んな訳あるか。こんなの俺だってはじめてだぞ」
「はじめて、ねえ。思ったより手応えあるし、そんなに和麻を潰したかったのかこいつら」
「そう思うとムカツクよね」


ふ、と和麻が笑って向かってくる一人を思いきり蹴り飛ばす。

和麻は拳よりも蹴りが得意だ。瑛麻は両方で桜乃はひょいひょいと動きながら拳の方が多いか。

そんなスタイルでそれぞれ向かってくる奴らを伸しているのだが、まあ、そもそもこのおかしな乱闘でもっともおかしいのは別にいるわけで。


「強盗さん、活き活きしてるよねえ」
「俺らよりな。あれか、スレトス発散中ってやつ?」
「なんだかやる気がそがれるよなあ」


そうなのだ。原因である和麻がムカツクよね、と言いながら蹴り飛ばそうが瑛麻がぶん投げようがそれより目立っている不審者が2人。

あっちも口を開かず静かに、けれど楽しそうに乱闘している。

 

ちょっとだけピンチだったら助けようかなあ、と思ったものの強すぎて正直手出しする隙がない。

流石と言うべきか意外だと驚くべきか呆れるべきか。




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