太陽のカケラ...68



日付の変わる少し前。消灯を越えた学園はとても静かだ。

田舎だけあって虫の音と風のざわめきが響くだけの暗闇でもある。

繁華街とは全く違う静けさと暗さになれない瑛麻だがあちこちにライトがあるので歩けなくはない。


「ライトの側には監視カメラ付きだからな。でも俺で良かったのか瑛麻」
「アイツラ誘ったら騒ぎがでかくなるだけだろ。つーか誘って賛成してくれんのはサチだけだぜ。しかもナオに止められる」
「確かになー。ま、俺は良いけどね。楽しそうだし」
「だから桜乃に声かけたんだよ」
「ししし、まさか瑛麻と夜の学園を歩くとは思わなかったぜ。繁華街のが楽しいけど、こっちも中々オツだろ?」
「俺は静かすぎてあわねえな」
「ま、何もないからな」


静かな獣道を桜乃と二人で歩く夜。月は綺麗だがやっぱり瑛麻には馴染めない。

桜乃と歩く夜道はいつだってネオンが眩しくて煩い繁華街だったからだ。

 

まさかこの学園でも桜乃とこうして喧嘩に行く為に夜道を、しかも獣道をこそこそ歩く事になるとは思わなかった。

 

そう、和麻の様子が心配で消灯破りをした瑛麻は桜乃と一緒に暴れる為にこの夜道を歩いているのだ。

 

思い返すのは数時間前の会話で、実は風呂に入る前に和麻からの連絡はちゃんとあったのだ。
ようやく忌々しい姿から解放されて部屋でまったりくつろいでいた時の事で、同室者である友秋は風紀委員の仕事でまだ戻っていない、絶好の時だった。


『早速呼び出しもらっちゃったよ兄ちゃん。0時に広場の奥だって』
「まじでか。行動早いなー。そう言う所は褒めてやりてえけど、向こうはどんな感じだよ」
『そうだねえ、不良の人達を集めてるみたいだよ。人数は良く分からないけど時間から見て大人数じゃなさそうかな』
「なんつーか、王道だな」
『僕もそう思うよ。高等部の人もいるみたいだけど、どうする?』
「行くに決まってんだろ。って事は消灯破りしなきゃだな」
『じゃあやり方メールするね』
「おう。桜乃でも誘って行くわ」
『桜乃も来るんだ。久々だね』
「出方がわからねえ以上巻き込むわけにもいかねえしな」
『それもそうだね。じゃあまた後でね』


通話を追えれば直ぐにメールが来る。内容はもちろん消灯破りの方法と監視カメラの見取り図。数時間後にサチから貰うものと同一のものだ。

 

それから普通通りに大浴場に行き、機嫌の悪いフリまでしてサチからも同じ内容のメールと添付ファイルを貰った。

 

サチ達には悪いが全て瑛麻の芝居だったのだ。あの不機嫌もやりとりも。

その理由はただ一つ。巻き込みたくなかったのと、ほんの少し夜の瑛麻と和麻を見せたくなかったから、である。

 

「ほんと性格悪いよな」
「友達思いと言え。知り合って一ヶ月も経ってねえのにいきなり巻き込めるかよ。ま、アイツ等の方が強いけどさ」
「狂犬はともかく他もか?」
「カオルと遊佐はそもそも夜いないだろ。で、サチもかなり強いけど見た感じナオのが強い、つか、あいつプロだぞ絶対」
「人は見かけによらねえってなあ。ココ、そんなんばっかでびっくり箱だよな」


がさがさと進みつつ桜乃には隠す事はなにもないからと問われるまま事の顛末を話せば呆れられる。

しょうがないだろう、一応瑛麻なりに気を遣っているのだこれでも。

 

気の良い、かは分からないが学園に入学して一ヶ月、騒がしくも頼りになる友人だと瑛麻はきちんと理解している。だから、頼らないし巻き込まない。状況により巻き込む事もあるかもしれないが今夜は別だ。


「と、着いたぞ。どれどれ、暗くて良くみえねえなあ」
「和麻はもう来てるな。おお、おっかねー顔してら」
「この暗さで良く見えるな」
「いや見えんけど和麻ならぜってー怖い顔してるだろ」
「失礼な事言うんじゃねえよ。お、出てきたぜ」


獣道を進んだ先にあったのは和麻が指定された広場だ。

広場と言っても学園で整備したものではなく、その奥にある森の中。少しだけ開けているだけの所でもちろん灯りはない。あったらセンサーに見つかるからだ。

それを知っているのか、向こうも灯りになるものは持っていなくて人数がいまいち分からない。

木の陰から堂々と一人で立っている和麻の背中を眺めつつも桜乃と二人でわくわくと状況を見守る。

 

動きがあれば颯爽と参戦するつもりで見守っていれば何やら会話がはじまった様だ。

しかしながらセンサーを警戒して小声に近い音量だから何を言っているかまで分からない。うっすらとそれなりの人数がいるのが分かるだけだ。


「やっぱ暗いの不便だな」
「月明かりだけだしな。10人くらいと見るぞ俺は」
「んー、どうだろうな。ざわついてるからもうちっといそうな気はすんだけどよ」


桜乃とも小声で話しつつも会話が長引いている様で動きがない。動かなければ人数も把握できない。

喧嘩と言うか和麻をボコる為にこんな時間に呼び出したんじゃないのかと思うのだがどうしてか会話が長引いて出るに出られない。


「・・・なんでこんなに話長いんだよ」
「悪役は死ぬ前に全てを洗いざらい喋るって法則が発動されてんじゃねえの?」
「面倒だな、もう出ちまおうぜ」
「そうだなー。流石に寒くなってきたしなあ」


4月の終わりでも山奥であるこの辺りの夜は結構寒いのだ。

動きやすい服装の二人だから当然防寒具なんかは持っていない。

これはさっさと動かないと風邪を引きそうだと桜乃とひそひそと相談しつつきっと演説でもしているだろう広場にとっとと殴り込もうと思ったのだが。


「これくらいで寒いなんて軟弱だな」
「寒いんならさっさと暴れてりゃ良いのに」


唐突に、背後から声をかけられた。

完全に和麻達に集中していて全く気づかなかった2人だ。

文字通り飛び上がってばっと後ろを振り返って、寸前の所で悲鳴は押さえた。

でも心の中では絶叫した。だって声は知っている声でまさかと思って振り返ったらやっぱり声の通りの人物が立っていて。




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