太陽のカケラ...64



理事長の挨拶が終われば親睦会、パーティーのはじまりだ。

まあ大半は食べ盛りの男子高生達だ、まずは料理にむらがってそれから歓談になる。

 

毎日顔を見ている連中なのだが仮装、ではなくて正装している不思議と中高一同にかたまればそれなりに盛り上がる。

会長と腕を組みゆっくりと歩きながら(ヒールが歩きづらいんだよ!)和麻にも支えられて説明を受けつつうんざりすれば時が過ぎるのもあっと言う間だ。


「まあこんな所か。一通り説明はしたから後は好きにしろ。まあ気をつけておく事には変わりないと思うけどな」
「ありがとうございました、京橋会長。ほら兄ちゃんも」
「へいへい。サンキュー会長。で、俺はいつまで会長と一緒なんだ?」
「そりゃあペアなんだから終わるまでだぞ。何の為にお揃いの衣装だと思ってるんだ。そもそも俺は護衛だって言っただろうに」


と言う事はあれか、この親睦会が終わるまでは会長とセットで非常に目立ちまくると言う事なのか。

ただでさえ足は痛いし動きづらいし顔は妙に暑くて息苦しい感じまでしているのに。


「何の拷問だそれ・・・」
「鏑木のドレスがそこまで似合う自分を恨む事だな。そこまで似合うとは思ってなかったぞ」
「似合ってねえよちくしょう」
「完璧に着こなしてるんだから文句言ってもしょうがないでしょ、兄ちゃん。それと、すごく目立ってるのは京橋会長は当たり前だけど兄ちゃんもだからね」
「お前が止め刺すなよグレるぞ」
「とっくにグレてるじゃない」


何を今更、なんて和麻が笑えば会長も笑う。

どっちも男前、なのに挟まれている瑛麻はドレス。理不尽だ。

 

むーっとしていれば遠くから妙なざわめきが広がってきて、それは真っ直ぐ瑛麻達の所に近づいて来る。

何だと思えば深紅の衣装に身を包んだ、ついでに背後にゴージャスな花束を背負った悪魔が悠然と歩いてくる。鏑木だ。

 

当然の様に女装だと言い切った悪魔の衣装は身体の線に沿ったチャイナドレスだった。

深紅に金の刺繍と宝石の飾りがあって衣装全体が輝いている。

瑛麻のドレスにもあるスリットは当然ながら鏑木のチャイナドレスにもあってかなり深い。しかもガーターベルトまで一緒ですらりとした足は野郎には全く見えずにまさに本物の美女、だ。

ただ、細くても筋肉はそれなりにあるから衣装は身体の線に沿っていてもあちこちに工夫がある様で、腕は手首まで布で隠れて豪奢なレースで縁取られている。厳密には創作ドレスと言うべきか。

メイクもばっちりで、元々長い睫は美しく目元を飾り深紅のルージュがやけに色っぽい。

 

瑛麻から見ればただただ恐ろしい、まさに悪魔だ。

そんな悪魔がカツカツとヒールの音をさせながら近づいて来ると誰もが注目して溜息を漏らす。

ここ、男子校だったよな?


「会長とタメはるくらいに似合う美女ってのもまた以外だったけど儚げ属性とはなあ。ちょっと視線伏せて椅子に座ってたら阿呆みたいに野郎が釣れるんじゃないのか?」
「うるさいよ。そっちこそ目立ち過ぎだろうが」
「俺は目立って当然だからな」


ふふん、と鼻で笑う姿すら美女だ。しかも頭に傾国の、がついても良いんじゃないかと思うくらいの。

ただ、鏑木の恐ろしい所は女装だけが似合うのでははなくて、これが会長みたいなファンタジーな衣装でも恐ろしく似合って目立つだろうと思う所だ。

そして女装には必ずついている特別護衛はつい最近知り合ったスキンヘッドの柄沼で、こちらは大柄な体格を活かした男性用のチャイナ服を若干洋風にした衣装でとても似合う。

何て言うか、映画に出てくるボスっぽいけど、この場合ボスは美女の方だろうと思われる。


鏑木が近づいてきた事でまた注目度が上がるがもう気にしても無駄だろう。

 

「んで、ねり歩きは終わったのか?」
「ああ、終わったぞ。さて、どうするかな」


美女と会長が近づけば周りから妙な悲鳴が上がって賑やかだ。

一定以上の男前だったり綺麗だったりする奴らは衣装も何もかもすっとばして並べば目の保養になるらしい。

全く違う衣装ながらも会長と鏑木が並べば何だかしっくりするのが怖い。

何となく和麻と二人、じっと会長と鏑木を見ていたらいつの間にか柄沼が椅子を二つ抱えていた。


「その靴じゃ疲れるだろう。立食だが別に椅子は禁止されている訳ではないからな。座れ」


親切だ。本当にあの陰険役立たずの息子とは思えない良い先輩だ。

ちょっと感動しつつも少し場所を移動して有り難く座らせてもらう。

立食パーティーではあるが会場を見れば確かに座っている生徒や先生もちらほら見える。座る場所は通路の邪魔にならなければ良い様で会長と鏑木も一緒に移動して。


「・・・何で隣に座んだよ鏑木先輩」
「だって椅子あるし俺だってヒールで歩くのは結構辛いんだぜ」


うかつだった。そもそも椅子を用意してくれたのは柄沼なのだから鏑木がついてくるのは当たり前で、でも一度座った椅子からはもう立ち上がりたくない。

本当だったらさっさと離れたいのだが、どうせ離れても会長はついてくるから目立つ事には変わりない。


「会長がいるなら良いだろう。食べ物を持ってくる、リクエストはあるか?」
「あ、僕も一緒に行きます」


どうしてこんな事に、なんて項垂れる瑛麻に柄沼はどこまでも親切だ。

和麻も一緒になって主に鏑木が大量のリクエストを出して会長も何品か二人に伝えて。


「この面子、嫌だよなあ・・・」


残されたのは会長と鏑木、そして瑛麻。実に嫌な面子である。


「何贅沢言ってんだよ、つかお前だって十分目立ってるから安心しろ」
「安心できるか」
「痛い程の視線が突き刺さってるな。主に瑛麻に」
「会長うるさいよ」
「俺らがいるから囲まれるだけで声かけられないんだから感謝しろよ」
「二人ともうるさい。もうこの靴脱いで良いか。ダッシュで逃げて良いか」
「裸足の美女がスリットを翻しながら逃げる、か。そそるな。逃げる時は是非ともショールは置いていってくれ」
「靴も置いてあるからリアルシンデレラができそうじゃん。良かったな瑛麻」


ダメだ。どうやってもこの二人に勝てる要素がない。

少し喋っただけで完全敗北だ。

せめて和麻でもいてくれれば・・・それでも勝てる気がしない。

 

泣きたい気持ちで項垂れていれば囲んでいる生徒の群れから知った顔がわらわらと寄ってくる。

サチとカオル、それに遊佐だ。こっちもこっちでだいぶ目立つ。


「なあに兄さん達、瑛麻君虐めて遊んでるの?」
「よお瑛麻、項垂れてると余計に儚さが増すぜ」
「先輩達と一緒なのにめっだつなあ。そんな泣きそうな顔で睨むなよ、ぐらってくるだろ」


サチと遊佐は両手に料理が山になっている皿を持ってカオルは小皿と飲み物を、後ろから遅れてきたナオもトレイに飲み物とデザートらしきカラフルな小皿を幾つか乗せて持ってきた。

きらきらと神々しい仮装なのにどいつもこいつも食い気のみだ。

 

そして、一応友人だとは思うのだが止めを刺された気持ちの瑛麻は反論する気持ちもごっそりとそがれた。

そのままわいわいと囲まれつつ弄られつつ、ますます減ってはいけない何かが減ってしまう瑛麻だ。

これはもう諦めるしかないのか、開き直って鏑木みたいに堂々とドレスを自慢すれば・・・無理だ。


「そんな顔してないで瑛麻も食おうぜ。食わなきゃ来年もドレスだぞ」


そんな瑛麻に救いの手をさしのべてくたのだろう、カオルが苦笑しながら料理を勧めてくる。良い奴だ。


「カオル、お前ホント良い奴だな。ちょっと感動したぞ」
「・・・よっぽど弄られたんだな。ま、確かにそのドレスも似合うけど瑛麻だったら俺みたいな着物もイケルと思うぜ」
「それは遠慮する」


派手な着物が似合う似合わないは置いておいてカオルが進めてくれた料理にかぶりつく。

基本、食に興味のない瑛麻だが、そんな甘い事を言っていたんじゃ来年も女装で決定しそうで怖い。

 

こうなったら食いまくって少しでも太ってやろうと決意を新たに、しかしながらどう見てもステーキが山になっている皿からは視線を外してしまう。




back...next