太陽のカケラ...61



「ようこそ調理部へ。お前らが来るってんで特別に俺様が出迎えだ。で、何で久士とテツも一緒なんだよ」

 

がらりと調理部の扉を開けば花束に迎えられた。いや、花束を背負った鏑木だ。
いつものカフェエプロン姿でにやりと瑛麻を見て、後ろの2年2人を見て少し驚いている。

 

「衣装部で一緒になった。腹減ったから何か摘ませてくれ。久士は俺の付き合いだぜ」

「調理部は摘み食いの場所じゃねえんだけど、ま、良いか。瑛麻、和麻、入部の書類はこれな。ナオはともかくサチも摘み食いだろ、程ほどにしてくれよ」

 

じっと鏑木を睨んでも何のダメージもない様で、煌びやかな笑みのままプリントを渡されてしまう。やっぱり悪魔だ。

 

「兄ちゃん、もう諦めようよ」

「・・・うう」

 

渡されたプリントを握りしめれば和麻に呆れられつつ取り上げられ、他の奴らはさっさと良い匂いのする教室に入っていってしまう。味方がいない。

 

「ほら、あそこにカオル先輩と遊佐先輩がいるよ・・・お鍋、焦げてるみたいだけど」

「何やってんだアイツら」

 

調理部の部室も中々に広く、調理台がずらりと並んでいる。人数はそう多くなくて男子校なのだから当然かもしれない。
全体的に小柄で線の細い生徒が多く、全員がエプロン姿だ。
その一角で当然ながらカオルと遊佐は目立っているし、怪しい煙を出す鍋も目立っている。

 

「遅っそいぞ瑛麻!ほらみろ、焦げちゃっただろ!」

「鍋が焦げてるのと関係ないだろ。何やってんだ?」

「何って味噌汁作ってた。たぶん」

「たぶんって・・・うわ、くせっ」

 

もくもくと怪しい煙を吐く鍋から異臭がしているのに誰も騒いでいない。呆れながらも近づいて見てみれば中身も何かヘン。妙な、あきらかに味噌汁の色ではないのだ。その怪しい鍋をカオルと遊佐が覗き込んで首を傾げている。

 

「いやあ、何でこうなっちまうんだかなあ。カオル、窓開けようぜ」

「部長にぶっ飛ばされちゃうからな」

「その前に火を止めろ中身を捨てろ鍋を洗え」

 

なぜこのまま放っておいて窓に向かうのか理解に苦しむ。
呆れながらも一応ツッコミを入れれば違う調理台に集まっていた鏑木が来て軽く2人を蹴り飛ばした。

 

「ったく、調理部で異臭を出すんじゃねえっての。お前らは片付け終わるまで摘み食い禁止。瑛麻、和麻、こっちだぞ」

「こっちって?」

「だからお前らが入部するって言うから俺様特性のだな」

「なんで見学から入部になってんだよ」

「だって和麻から入部届貰ったし。ちゃんと瑛麻の分も貰ったぞ」

「は?」

 

和麻がいない!
部屋に入る時には一緒で、その後も一緒で・・・いや違う。怪しい鍋にツッコミを入れている間は和麻を見なかったから。

 

「和麻!何この短時間でさくっと入部してんだよ!」

「だって調理部希望だったもの。良いじゃない、料理好きだし兄ちゃんも一緒だし、楽しそうだよ?」

 

いつの間にかちゃっかりと椅子に座って茶を飲んでいる和麻がにこりと笑っているではないか。
あの僅かな時間に書類を提出した上に茶まで飲んでくつろいでいるとは。何て弟だ。

 

「芋ようかん美味しいよ。手作りなんだって、すごいよね」

「いやだからな、せめて俺の意見を聞こうぜ。確かに希望だったけどここには悪魔がいるんだぞ」

「それは兄ちゃんだけだもん。はい、あーん」

 

にこにこと和麻が芋ようかんを一口分差し出すから条件反射で口を開けてしまう。悔しいけど、美味い。
瑛麻の口が塞がっている間に和麻の周りに全員が座ってもう反論する隙がなくなる。

 

「新入部員確保できて嬉しいんだぜ。何せ男子校で調理部っても地味だしここは変な部活も多いから人数取られるし。んで、お前ら料理できんのか?」

 

芋ようかんは鏑木お手製との事で悪魔だけど確かに料理全般は上手そうだ。
今も違う羊羹を切り分けて配っていて性格は悪魔でもその仕草は美しいのがまた腹が立つ。

 

「できるぜ、って言っても簡単なのしかだけど。和麻もな」

「じゃあ大歓迎だ。あそこのへっぽこ2人より上手かったら言う事ねえ」

「あれと一緒にされても困る。つか、やっぱ入部か」

「諦めろ。こんな山奥に隔離されてんだ、何かやっとかないと腐るだけだぜ」

 

言われてみればその通りだが、そもそも瑛麻がこんなに渋っているのは鏑木の所為なのだ。うーっと睨んでも何もダメージもなく周りもすっかり美味しい羊羹にまったりしているしで誰も瑛麻の微妙な気持には気づかない。
いや、気づいていてもさらっと無視されるだけだろうけど。

 

「放課後だけだけど兄ちゃんと一緒に部活、嬉しいよ。お揃いのエプロンにしようね」

 

しかも和麻がいつもより嬉しそにほわりと微笑むものだからうっかり笑顔で頷き返してしまってもう駄目だ。

 

「ほんっと瑛麻君って和麻君大好きだよね。お花咲いてるよ」

「良いだろラブラブで。それよかお前ら部活はどうしたんだよ。いつまでもココで食ってて良いのか」

「もう行くよーだ。瑛麻君達はどうするの?このまま残って今日から部活?」

「調理部はいつでもウエルカムだぜ。ま、部活って言っても毎日強制とかじゃねえから気が向いたら顔出せよ。エプロンも準備しておいてやる。入部祝いに兄弟お揃いでな」

「ふうん、毎日じゃなくても良いのか。じゃあ今日は帰るかな」

 

強引に入部させた割に優しい。と言うか悪魔の部分を見なければ鏑木もだいぶ良い男でさらに腹が立つと言うものだ。
例えるなら手の平の上で踊っている様な感さえするのは器の差を感じているからだろうか。それもまた以下同文。

 

「それじゃごちそうさまでしたー。美味しかったあ。鏑木先輩、今度暇だったら空手部で遊びましょうね♪」

「誰が行くか馬鹿。サチはいい加減手加減を覚えろっての。ナオ、目を離すんじゃねえぞ」

「分かってますよ。ごちそうさまでした。じゃあね瑛麻君、和麻君。僕たちは部活に行くから」

「俺らも行くか。鏑木、サンキュな」

「上手かった」

「あー、俺ら何も食ってないのに!」

 

ぞろぞろと調理部の部屋から出れば背中からカオルの悲鳴が上がって鏑木にまた蹴られている。

気軽に参加できそうなのは中々ポイントが高い。料理は嫌いでないし、今までは生きるために無理矢理覚えていたのだからここで部活として楽しく腕を上げるのも良いかもしれない。

 

 

 

 

 

「瑛麻君達は調理部にしたんだ。楽しそうだね」

「あの悪魔さえいなけりゃな」

「鏑木先輩は風紀の方が忙しいからそう調理部にはいないって聞いたよ」

「何だ、それなら先に言っておいてくれれば俺の繊細な心が痛まずにすんだのに」

「ふふ。そんな事言っちゃって。料理上手なのにね」

「上手いと好きは違うだろ」

 

賑やかな部活動見学を終えて、ようやく自室に戻った瑛麻を待っていたのは柔らかな笑みを浮かべる友秋だった。
和麻も自室に戻り今は2人きり。あの小さくて大きな決意を見せた友秋は毎日を風紀委員として忙しくしている。心なしか強くなった様に見えるのは気のせいではないだろう。

 

「はー疲れた。何だってココの連中はあんなに元気なんだかなあ」

 

いろいろと疲れてぐったりとソファに沈めば友秋が緑茶のペットボトルを出してくれる。有り難く一口飲んで思い返すのはオカシイとしか言い様がない連中の事だ。
教室でも騒がしいのに部活棟はさらに騒がしくて、元気の有り余る野郎共がどこでも溢れかえっていて。今までの環境とはまるで違うから余計に疲れる。
のだが、友秋がそんな瑛麻を見て柔らかく笑う。

 

「山奥だし娯楽は部活くらいだもんね。静かに暮らしたいなら図書館とかもあるけど、瑛麻君は何だかんだ言っても楽しそうに見えるよ」

「・・・誰にも言うなよ」

「言わないよ」

 

ふふ、と笑う友秋に顰めっ面で返すけど図星でもあるから微妙な気持だ。

そう、こんな騒がしさも嫌いではないのだ。疲れるし押されっぱなしなのが気に障るだけで慣れれば快適だろうとも思ってしまうのがまた。

 

「ったく。意外と良く見てるよな友秋は。んで、赤の方は大丈夫なのか?」

 

ぼりぼりと頭を掻きながら苦笑するしかない。

 

「大丈夫だよ。みんなとても良くしてくれてるし、鏑木先輩もね、護衛術を教えてくれるって張り切ってて、何だか申し訳ないくらいだよ」

「だったら良かった。友秋ならイケると思うぜ。気にくわない奴がいたらいつでも闇討ちの方法、教えるし実戦してやるから」

「それは良いよ」

 

ラフな私服の腕にはここ数日で見慣れた赤い腕章が目に入る。まだまだはじまったばかりだが本当に友秋なら大丈夫だと思うのだ。

 

そのまま話は宿題の事になり、どうせだからとテーブルの上に広げてしばらく。
流石、SSクラスの宿題は瑛麻の物とレベルが違うなあと感心しつつも特に分からない問題のない瑛麻だ。ある程度やっつけた所で小腹が減ったなと思えば丁度良くチャイムが鳴る。

 

「えーいーまーくーん!ご飯いこー!トモちゃんも良かったら一緒にー!カオル達も来るってー!」

 

チャイムと同時にドアを思い切り叩かれて聞こえるのはサチの声だ。
ぷつんと切れた集中力にがっくりと溜め息を落とすものの夕食の時間には丁度良い。携帯を開いて和麻にメールを送りつつ立ち上がれば友秋が笑いながら手を振る。

 

「やかましいわ!今行くから待ってろって!」

「僕はもうちょっと進めたいから遠慮するね。いってらっしゃい」

「了解。じゃあ行ってくる」

 

ドアの外でサチが、ナオも一緒みたいで軽く騒ぎになっている。
本当に賑やかな連中だ。

 

バタバタと玄関に向かう瑛麻はすっかり忘れていた。
一緒に宿題をしていて、ノートを開きっぱなしだったのを。

そのノートを見た友秋が怪訝な顔で首を傾げる。

 

「何で瑛麻君、僕の宿題までメモってるんだろう・・・全部終わってる上に全問正解だし・・・あれ?」




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