太陽のカケラ...59



4月は何かと忙しい。
新学期である上に様々な行事が重なり5月にある連休を迎えるまでは毎日がお祭り騒ぎだ。
実力テストを終えたあたりで月の半分が進み、親睦会を終えてようやく一連の行事が終わって一息つける。との事だ。

 

「後は部活動の見学かな。もうはじまってるけど瑛麻君はどうするの?」

「どうすっかな。別に強制じゃねえんだろ?」

「強制じゃないけど何かしらに入る人の方が多いね。娯楽もないし時間はあるし」

「だよなあ。興味があるのは調理部くらいだけどなあ」

 

しかしながら調理部には今や瑛麻にとって悪魔になった鏑木がいる。
部活には関係ないがドレスを貸し出してくれた恨みは大きい。うっかり顰めっ面になる瑛麻にいつものメンバーが周りで笑う。

 

がやがやとした雰囲気と、どことなく浮ついた空気。
体育館は丁度良い季節とあって動きやすくて、かと言って快適と言う訳ではない。

 

いろいろな騒ぎの数日後である今日は体力測定の日だ。
学年毎、全員で体育館に籠もってわせわせと動くものだから大変男臭い。
まだ順番がこないからと輪になって床でくつろいでいるのかサボっているのか微妙な所だが話題は部活動の見学会になっている。
今週いっぱいが各部活動の見学期間で、入部したい部活動を選ぶとの事だ。

 

「お前らは部活やってんもんな。どーすっかなあ」

「調理部じゃないのか?俺らと一緒に摘み食いしようぜ」

「なんで摘み食いが最初に来るんだよ。まあ興味はあるんだけど」

 

一番興味のあるのはやはり調理部だ。が、他の部活もちょっとは見物したい気持もある。
基本的に部活動は中等部と一緒だと言うからどこを選んでも和麻と一緒。思わず花を咲かせればぺしっとカオルに突っ込まれて、遠くからクラスメイトの呆れた声が来る。

 

「こらー、そこの目立つ人達、早く測定してってば。あ、瑛麻、来週楽しみにしてるから!」

「てめえ大声で言うんじゃねーよ待てこの!」

「きゃー襲われる〜」

 

この数日間ですっかり瑛麻の衣装が広がってしまった様だ。馴染みのないクラスメイトにからかわれつつすっかり馴染んでしまった。嬉しくない意味で。
追いかけて捕まえてコブラツイストを遠慮なくかけるヤツもクラスメイトの1人で周りから笑われる。

 

「ったく、あの悪魔め。覚えてろよ」

「そんなに怒らなくても良いのに。瑛麻君だったら似合いそうなのになー」

「サチの方が似合うんじゃないのか?」

「ボクの衣装も同じ様なやつだよ。可愛いんだ〜」

 

嫌みが通じない。そもそもサチの私服から見るに拘りがないのは一目瞭然だ。
盛大に溜め息を落とせばカオルと遊佐にダブルで笑われたので、ちょっと飛んで蹴りを入れておく事にする。

 

そんな訳で放課後。和麻と落ち合って二人仲良く部活棟を見学する事になった。

部活棟は高等部と中等部の校舎を挟んだ真ん中にある。
運動部も文化部も怪し気な物も全てがこの棟の中にあって何となく空気が違う。

 

「僕も調理部が一番かなあ。でも、どこでも兄ちゃんと一緒だし、見学しよ?」

「・・・よし和麻、ちょっと頭下げろ。撫でてやる」

 

それぞれの部活動の紹介が記載されたパンフレットを片手に廊下を歩きつつ注目の的だ。なにせ目立つ。和麻一人だけでも目立つのに今はラブラブの真っ最中でお花畑もしょっている。高等部の、瑛麻の周りではすっかり見慣れたお花畑も校舎が違えばまた目立つと言う訳だ。
素直に頭を下げた和麻に周りがざわついて、わしゃわしゃと撫でる瑛麻の姿にまたざわつく。廊下の真ん中を陣取っている訳ではないのに、すっかり2人の周りから人が消えてしまった。もちろん気にする様な2人ではないけど。

 

「ボク達だって近づきたくないもんねえ。瑛麻君、和麻君、お花畑のままで良いから見学に来ない?」

「折角だから案内も兼ねて誘いに来たんだよ」

「俺も!って言いたい所だけど食材運んでる途中だから後で調理部に来てくれな。カオルはもう行ってるぜ」

 

授業が終わった時に別れた奴らが目を半分にして瑛麻達を見学していた。それぞれユニフォーム姿でだ。
ナオは日頃から白衣姿も多いから見慣れているのだが、サチの空手着姿と遊佐の・・・。

 

「遊佐、何で割烹着なんだよ。エプロンじゃないのか?」

 

大きな身体で金髪ツンツン頭の遊佐が割烹着。似合わない。
今度は瑛麻が目を半分にする番だ。

 

「カオルばーちゃんの手縫いだぜ。良いだろ〜」

「いや別に」

 

破壊力は増しそうだけど、とは言わないでおけば瑛麻の表情で分かったらしい遊佐が派手に泣き真似をして余計に、と言うか音を立てて中等部の新入生らしき集団が逃げて高等部の連中らしき集団からは笑われる。

 

「はいその辺で。これ以上目立っても何も進まないからね。瑛麻君、和麻君、見学したい所はある?」

 

いつまでも終わらない漫才をようやくナオが進める気になってパンパン、と手を叩いて、ついでにまだ泣き真似をしている遊佐を軽く蹴る。

 

「そうだなあ。じゃあお前らの部活で。調理部は最後でいいや。どうせ悪魔がいるんだろうし」

 

瑛麻の中ではすっかり鏑木=悪魔だ。けっと悪態をつきつつ記憶の中の美貌を恨めしく思えば後ろから和麻が抱きついてきて頭を撫でられる。
やっぱり和麻は可愛い。

 

お花畑を背負いつつ兄弟仲良く手を繋いでようやっと見学がはじまった。
最初はサチの部活の1つ、空手部だ。

 

「ボクは掛け持ちだから他にも柔道と合気道と、偶に弓道部にも遊びに行くんだ。一応胴着が基本だけど私服でも良いんだよ。すぐ破れちゃうけどね」

 

空手部の道場は部活棟に併設されていて、柔道、合気道と一緒で年代物の建物だ。もちろん広い。広すぎる。弓道場も隣にあって胴着姿の野郎共で大変むさ苦しくもある。いや、もう男子校なのだからむさ苦しいは当たり前か。

 

「随分大人数だな。んで流石にゴツいのばっかなのな」

「そりゃそうだよ〜。うん、そこでボクをじっくり眺められても怒るからね?」

「いやだってなあ」

 

見渡す限りサチみたいな小柄な生徒は一人もいないのが特徴と言うべきか。いや、小柄な生徒は恐らく中等部なのだろう、いるのはいるのだがサチみたいな線の細く見える少年は1人もいなくて恐ろしいと言うべきか。
入り口で見学しつつ騒いでいたら見覚えのある生徒が2人、瑛麻達の方に寄ってきた。瑛麻には見分けがつかないが空手着の随分大柄な生徒でキラリと光る白い歯を見て思い出す。

 

「ああ、そう言えば空手部だったっけ先輩達。相変わらず爽やかな笑顔だなー」

「そっちも元気そうだな、絆創膏は取れてないみたいだが。この前は役立たずですまんかったな。鍛え直している所だ」

「見学か?お前なら大歓迎だぞ」

 

レクリエーションで友秋の護衛を務めた黒バンダナの2人だ。瑛麻達からすれば見上げる大きさでかなりイカツイ。けど、不思議と怖さを感じない先輩達だ。

 

「そう言えば知ってるもんね。おっきい方が3年S1の部長で、小さい方が同じ学年とクラスの副部長だよ」

「どんな紹介の仕方だよ。まあ良いけどな。サチ、後で来るんだろ?」

「もちろん。乱取り楽しみにしてるね先輩♪」

「お手柔らかに。じゃあな。ああ、来週、楽しみにしてるぞ、ドレス」

 

ここまで広がっているのか!ぎょっとする瑛麻に空手着の先輩達はからからと笑いながらゴツい群れに消えていく。
反論する間も、と言うか広まり過ぎだろういくらなんでも。

 

「何せ鏑木先輩のドレスだからねえ。じゃあ次行こうか」

 

ぱくぱくと口を開いて一歩踏み出す瑛麻をがしっとナオが掴む。一瞬の遅れで反撃のチャンスがなくなってしまった。和麻にも後ろから押さえられて大変気分がよろしくない。

 

「諦めた方が早いと思うよ、兄ちゃん。次はどこですか?」

「そうだねえ、運動部に興味があるならグラウンドと体育館。文化部だったら上かな。まあ運動部に興味はなさそうだよね、特に瑛麻君は」

「ある訳ねえだろ。疲れちまうだろうが。ナオの所は?」

「僕は科学部だから二階だけど・・・興味ある?」

「いや全然」

「だと思ったけど見学したいんでしょ。行くよ」

「せっかくだから端から端まで見れば良いじゃない。ボクも普段は上に行かないし楽しみ♪」

 

あ、っそ。

しかしながら私服の瑛麻兄弟に対してナオは白衣だしサチは空手着で普通だったら目立つだろうに全く目立たない。
良く見なくても廊下には各種のユニフォームが溢れていて流石に校舎より賑やかだ。

運動部のエリアではそれぞれ運動部の、階段を上がれば文化部系のユニフォーム、と言うか衣装が目立つ。
ナオと同じ白衣姿が一番多いだろうか。次に目立つのはエプロン姿、但しエプロンと言っても何種類かある様で遊佐みたいな調理に関わりそうなエプロン(遊佐は割烹着だけど)からどこぞの工場から抜け出してきた様なエプロンもまた目立つ。

 

「なんつーか、私服の上にあれか。こっちも人数多いんだな。全員部活に入る訳じゃないんだろ?」

「もちろん入らなくても良いけれど、中高一緒だから人数も多く見えるよね。この階だと目立つのは科学系統の部活かな。僕は科学部だけど、同じ系列で何種類かあるよ」

「違いが分からん。理解できん」

「良く言われる。まあS2の人達がはじめた部活も多いから専門が偏っちゃうんだよね。とりあえず、この階は科学関連部と家庭科に関わる部活が多いかな。3階は演劇とかパソコンとかあるよ」

 

パソコンにはユニフォームはなさそうだが演劇の言葉に嫌な予感しかしない。

 

「それってあれか、偶に見かけるドレスとか羽織袴の連中か」

「瑛麻君も学園に慣れてきたね。でもね、衣装を着ているのが演劇部って訳じゃないから」

 

ますますもって嫌な予感しかしない。うんざりする瑛麻に対しナオは楽しそうに微笑む。良い笑みだが。

 

「演劇衣装部。和麻君の衣装も、瑛麻君のドレスも元は演劇衣装部だから」

 

やっぱりか!おかしいとは思っていたのだ。中高生であの衣装を揃えられるなんて。代々管理もしているなんて。

 

「折角だから見学してみる?着ぐるみも演劇衣装部だよ」

「そっちもか・・・何でもありだな」

「まあ授業と部活以外にやる事ないしね、ここ」

「だからって気合い入り過ぎだろうが・・・いや待てよ、直接衣装部に頼めば俺の衣装も!」

「無理だよ。あの鏑木先輩が衣装部に教えてないと思う?」

 

ぱあっと希望の光が見えた瑛麻だけれど、あっと言う間にナオに刺された。
くそう、やっぱりあの悪魔をどうにかしないといけないのか。
ぶつぶつと唸る瑛麻を引き連れ2階の文化部を冷やかしつつ、悪魔の巣(調理部だ!)を後回しにしてまた階段を上った。




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