太陽のカケラ...57



風紀委員の部屋は校舎より小さめの教員棟の中で、大部屋を1室に小さい部屋を3つ使用しているとの事だ。
規模が大きすぎる。 ちなみに、生徒会室もこの中だそうだ。

 

「風紀委員会は幹部以下3つに分かれてるからな。お前らは知ってるだろうからラブラブ兄弟の為に説明してやる。って言うか何で弟がいるんだ?」

 

瑛麻のお昼イコール和麻とラブラブ、は当然だ。
1人用のソファに2人で仲良く、和麻の上に瑛麻が乗っかる形でいればラブラブで今日も完璧だ。

 

「ま、いっか。んで、風紀委員会は俺ら白に黒ラインの腕章が幹部で、委員長と副院長に各隊長な。黒腕章が学園警備、こいつらの仕事は喧嘩っぱやい野郎共をぶちのめしたり見張ったり。赤腕章が規則規定違反巡回、文字通り規則違反を見つけて黒とか生徒会にチクるのが仕事な。あと風紀委員会全体の事務処理も赤の仕事だ。分かったかラブラブ兄弟。俺の卵焼きは絶品だぜ」

「良く分かんねえけど卵焼きは甘いのが好きだ。しょっぱいのは邪道だと思う」

「何だとう!卵焼きは塩味一択だろうが!」

 

案内されたのは風紀幹部の使用する小さい部屋の1つだとの事だ。
学校であるからには造りは一緒。けれど、なんで高校生の使う部屋にソファセットがあったり冷蔵庫があったりコンロがあったり・・・完全に鏑木の趣味じゃないか。
呆れながらも鏑木特性弁当だと思われるお重を突きつつ説明を受ける。

大きめのテーブルを囲む様にソファが配置されていて、1人用のソファには他に鏑木が座り、3人用にはサチ、ナオ、遊佐。もう1つに遊佐、友秋、篤斗が並んでテーブルの上に広がる弁当をつついている。
友秋以外全員が弁当に釘付けなのは言うまでもない。ついでに説明していたはずの鏑木と大人しく聞いていたはずの瑛麻は卵焼きの味付けて喧嘩中だ。

2人が言い争いをしているのを良い事に鏑木特性弁当である4重のお重がすごい勢いで減っていっている。美味しいご飯があればそこは育ち盛りの男子高生、食べる以外に何がある。

ではなくて。

 

ある程度お腹の満足したナオが鏑木特性のケーキを突きながらようやく話を進めてくれた。意外とナオも甘い物が好きな様だ。

 

「だから話が進まないからね。鏑木先輩、退学と転校と聞いたのですがどうなったんですか?」

「事情聴取とも聞きました。その、僕は原因の一人だと思うんですが逃げてしまったのでよく分からなくて、すみません」

 

食欲を満足させた順から話に加わる様で、そう言う意味では瑛麻は一番に加わりそうなのだが卵焼き論争で出遅れてまだ卵焼き1切れとおにぎり1個しか口に入っていない。
和麻はせっせと食べることに専念しつつ瑛麻にも食べさせているので違う意味で忙しそうだ。
そして、未だに満足したのがナオと友秋だけと言うのも恐ろしい。

 

「ああ、友秋は謝んなくて良いんだぞ。馬鹿が悪いんだからな。で、ナオと瑛麻がぶちのめした連中な、元から素行不良だしそもそも大人数で暴行目的なんて成敗以外の何者でもないだろ。で、主犯格6人が退学で主犯格じゃないものの目に余る奴ら15人が転校。残りは謹慎一ヶ月と反省文と黒の特別特訓て事になったから。いやあ、新学期早々大掃除出来てすっきりだぜ。サンキュな、ナオ、瑛麻」

 

お握りを食べながらからからと笑う鏑木の機嫌は良さそうですっきりした笑顔だ。確かに新学期早々えらい数の成敗だとは思う。

 

「ついでに事情聴取は友秋に付けたバンダナから聞いてるから今のこれは俺からのご褒美。俺特性の弁当はそうそう味わえるモンじゃねえんだぞ。ま。他にも話はあるんだけどな」

 

しかしながら、すっきりした笑顔なのにどうも鏑木の説明がふわふわしている印象だ。何だろう、事情聴取で呼びつけておいて、そもそも関係者と言うならば瑛麻とナオ、それに友秋と篤斗の4人だけだと思うのだが。
気づいたのはもちろん瑛麻以外にもいて、ナオの眼鏡がきらんと光り、カオルが箸を止めた。

 

「で、話ってなんすか?」

 

カオルが珍しく真剣な顔だ。そうしてると中々良い男前でおいなりさんを摘みつつお茶を一口。んまい。

 

「いやあ、話が早くて助かるわ。お前ら、風紀に入る気ない?」

 

からりと笑ってゴージャスな花を咲かせた鏑木がさらりと言った。一瞬、部屋の言葉が全て止まって。

 

「はあ?」

 

代表して声を上げたのはやっぱりと言うか、丁度おいなりさんを食べ終えた瑛麻だ。誰よりも反応が早かったと言うべきか。有り難くはないけれど。

 

「だって惜しいじゃん。お前ら強いし頭良いし。ああ、この場合の頭が良いってのは生きる方のな。んで、友秋は赤に勧誘したいのよ。もー頼むよー。人手不足で困ってんだって。1年はこれから委員会決めだろ?人手が足りないところにこの間の乱闘騒ぎで参ってんだよ〜」

 

パチン、と両手を合わせて拝む仕草をしても背負う花はゴージャスだ。いっそ関心しながらも全員の目が半分になる。いやだって。

 

「前に断ってるし。興味ないし。面倒臭いし」

「全く興味はありませんね。前々からお断りしていますが?」

「ボクも断ってるよ。暴れられないじゃない」

「あ、俺ら畑あるし無理っす」「カオルに同じく無理っす」

 

そう。そもそも断っているのだ。
さらりと同時に断ればがっくりと鏑木の肩が落ちる。仕方がないだろう。
でも、返事のないヤツが1人。いや、2人。

 

「友秋はともかく篤斗も勧誘なのか?」

 

そう、友秋はともかく篤斗もなのか。
黙り込んでいる2人を眺めつつ聞いてみれば顔を上げた鏑木が篤斗を睨んだ。

 

「篤斗は別件で呼んだ。これから一学期中みっちり修行だ。てめえの言動が騒ぎの原因でもあんだよ馬鹿。あ、友秋はどうだ?赤、頼むよー。赤も人手が足りてねえんだって」

 

ああそうか、そう言う事か。きっちりと篤斗を睨む鏑木に全員で納得した。
篤斗も分かっているのか神妙な態度で黙って頷いている。
そして、篤斗と同じく黙っていた友秋が一度だけ心配そうに篤斗を見上げてから鏑木を見た。

 

「僕でお役に立てるのならば。お世話になってばかりで申し訳ないし、お手伝い、したいです」

 

真っ直ぐに鏑木を見る友秋は意外と格好良くて、思わず全員で見惚れてしまうが、そうじゃない!

 

「マジで!?止めとけって、風紀なんてしかも赤なんて忙しいだけで良い事ないぞ!」

「そうだよ!ただでさえトモちゃん大変なのに何て事言うのさ鏑木先輩!」

 

真っ先に噛みついたのはカオルとサチだ。ぎゃんぎゃんと鏑木に噛みついて友秋を止めようと必死だ。瑛麻の場合は面倒臭そうだなあの一言で断ってたのだが、そんなに忙しいならば止めるべきか。でも、あの真っ直ぐに鏑木を見た友秋を応援したい気持もちょっぴりあるし複雑だ。
ナオも瑛麻と同じ気持ちの様で神妙な顔で黙りこくっている。遊佐は一呼吸遅れてカオルの応援をしていてとても賑やかだ。

 

「お前らウルサイ。本人がやるって言ってんだ、外野のしかも断ったヤツらが文句言うな。さあさあ友秋、書類こっちな。ここにサイン書いて。いやあ良かった良かった」

 

なのに鏑木は1人で御機嫌だ。よほど嬉しいのか、周りに咲く花もいつにも増してゴージャスだ。
友秋も真剣な顔で書類を受け取り、そのままサインをするかと思ったらまた鏑木を見る。

真っ直ぐに、とても真剣に。

 

「引き受けるのですから、真剣に頑張ります。だからって訳じゃないけど、教えてくれませんか。どうしたら強くなれるのかを」

 

友秋の声にぎゃんぎゃんと騒いでいた連中もぴたりと言葉を止めて注目する。瑛麻も、後ろでちゃっかり瑛麻を抱きしめている和麻も驚いている。

 

「僕が全ての原因じゃないかもしれません。でも、こんな怪我までさせてしまう程、僕の存在がこの学園では異端だ。せめて、自分の身くらいは守れる様に、何かあったら直ぐに助けを呼べるくらいには、強くなりたいんです。鏑木先輩、お願いします!」

 

泣きたくなるくらいに真剣で、悲痛な声だった。部屋がしんと静まって、頭を下げた友秋を全員で見つめて、最初に動いたのは鏑木だった。
手を伸ばして友秋の頭をくしゃりと撫でて、はじめて見る優しい笑みを浮かべている。

 

「阿呆、泣かすんじゃねえよ。そんな泣きそうな顔で言わなくても稽古ならいつでもどこでもきっちりやってやる。俺自らな。だから頭上げてくれ」

「ぼ、ボクだって手伝うから!空手でも柔道でも合気道でも手伝うから!」

「もちろん僕だって手伝うよトモ君。護衛のプロなんだから」

「お、俺らだって!」

 

鏑木の言葉が終わると同時にみんなが立ち上がって友秋を囲む。
サチはやっぱり涙もろいらしく大きな瞳にはもう大ブツの涙が浮かんで、ナオは思った通りプロだったのかと関心して。
全員の勢いにおいて行かれた気持の瑛麻と和麻はひっそりと視線を合わせて苦笑する。

 

「俺らも仲間に入れてくれよな。友秋、闇討ちの方法だったらいつでも大歓迎だぜ」

「僕もお手伝いします。だから、泣かないでください、友秋先輩」

 

ゆっくりと顔を上げた友秋は、泣いていた。ぼろぼろと零れる涙は不思議と痛ましいものではなくて、見ていてむずがゆく、何としても協力したくなるものだ。

 

「あ、ありがとう・・・みんな、ありがとう」

 

涙を零していても視線は真っ直ぐに全員を見て、言葉ははっきりとしていて。
ああ、やっぱり強い人なんだなあと思わせる力強さだった。




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