太陽のカケラ...56



ぴょん、と飛んで。着地して一呼吸。

じくじくと痛んでいた足首に痛みはない。

 

「ん、飛んでも痛くねえな。休んだ甲斐があったか」

 

パジャマ姿で納得しつつもう一度飛んでみても痛みはない。完治と言う事で良いだろう、もう。

にんまりと笑んだ瑛麻はいそいそとパジャマを脱ぎ捨てて着替えてからふと気づいた。
朝日に照らされる自分の、細い身体に赤い跡が1つ。丁度鎖骨の下辺りでたまたま鏡を見なかったら気づかなかった。
暖かくなってきたからとパーカーの下に大きめのタンクトップだから気づいたとも言える。司佐の、跡だ。

まさか司佐にキスマークを付けられるとは思ってもみなかった。嬉しくて瑛麻らしくもなく顔が緩む。指先でそっと撫でてから絆創膏を取り出して。

 

「・・・消えなきゃ良いのに、なんて。俺らしくないか」

 

ぺたりと貼って跡を隠して。嬉しいけれど、寂しい気持。
まだ乱闘の傷が残っているからいくらでもごまかせるけど、この絆創膏だけは取りたくないな。なんてらしくもなく胸元を押さえて浸ってみる。瑛麻だって浸りたい時があるのだ。

そして、昨日はまだ怪我もあるからと大浴場を遠慮して本当に良かったと、違う意味でも胸元を押さえた。

 

 

 

 

 

「瑛麻君おっはよー!今日はテストの発表だよ、ドキドキする?」

「俺はサチの格好の方にドキドキするわ。何だそれ、何でまだ4月なのに半袖、しかも何でレースがついでんだよ、それワンピースじゃないのか?」

「ちゃんと半ズボン履いてるもん。そうじゃなくて、結果だってば!」

 

朝から恐ろしいものを見てしまった瑛麻の周りには相変わらずと言う事で、寮を出る前から恐ろしい格好のサチとすっかり絆創膏も包帯もないナオがセットだ。もちろん部屋の中から和麻は一緒だ。

 

ちなみに、サチの恐ろしい格好とは、レース付きのチュニックに同じくレースで縁取りされている半ズボン+可愛らしいスニーカーだ。あからさまに女の子で怖い。

それにしても瑛麻も土日の二日間ですっかり良くなったが、ナオも元通りの様で。

 

「そういやナオ、眼鏡変えたんか。ヒビ入ってたもんな」

「悔しいけれど仕方がないでしょ。まあ前と同じ形だし、変わりはないけどね」

「・・・どうしてボクの話し聞いてくれないのさ。拗ねるよ。蹴るよシメるよ?」

「分かった分かった。んで、テストって先週やったやつのか?それの結果?」

「そうなの。ナオがいっつも一番なんだよ。トモちゃんも10位以内なんだよ」

 

微かな記憶で実力テストをやっつけた記憶はあるが、瑛麻にはあまり興味のない話しだ。けれど周りは興味津々の様で、サチの様に騒ぐ生徒もちらほらいる。

そんなに大層なモンかねえとちろりと和麻を見上げれば同じ表情が返ってきて、瑛麻兄弟にはさっぱり理解できない騒ぎだ。

 

と思ったのも束の間。校舎に向かう途中の広場にそれはあった。

 

「うっわ、えげつねえなこれ。だから騒ぎになんのか」

「すごいねえ。中等部も高等部も一緒、それも全順位発表なんだ」

 

広場は高等部と中等部の境目にあるちょっとした空間だ。時代がかった煉瓦と噴水にベンチ、小さな公園みたいなもので、綺麗に丸い広場になっている。

その広場の一画に巨大な掲示板がある。そこに張り出されているのだ。
和麻の言う通り、中等部と高等部が一緒になり、瑛麻の言う通り、えげつなく全順位のテスト結果が。
恐ろしいのは順位だけではなく、点数まである所だろうか。

 

「学園名物、って言うのも変だけど大きなテストは全部こうなんだよ。サチ、順位下がってる」

「うっ・・・だってぇ」

「和麻は一番か。良くやった」

「兄ちゃんは程よく頑張ったみたいだねえ・・・」

 

全てが張り出されているとなれば割と見所もあると言うもので人だかりができている上に大騒ぎだ。

瑛麻達の学年だと1位がナオ。流石だ。次に友秋の7位。これも素晴らしい。
他に見知った奴だとカオルと遊佐が70番以内でサチがぎりぎり80番。瑛麻は30番代だ。ちょっと頑張りすぎたか。

他に知っている奴だと、和麻は中等部3年のトップ。偉い!

会長は2番で、鏑木が4番、そして桜乃は2年の8番。意外、でもないか。
興味の無かった結果とは言えこうして張り出されていればそれなりに面白い。

一番になった和麻の頭を撫でつつ抱きしめられつつしていれば丁度カオルと遊佐が登校してきた。
真っ直ぐテスト結果を見て悲鳴を上げている。こっちもこっちで賑やかな事だ。

 

「だって50番代で小遣いアップだったのに・・・凹むだろ」

「どう考えても全然足りねえじゃねえか」

「だってキリが良いって親父がさ!」

 

教室に入ってもテスト結果の余韻でカオルは勝てない賭けで勝手に凹み、遊佐はそんなカオルを笑って殴られている。そもそも全然順位が離れているだろうと呆れるのは瑛麻だけなのか。

 

「だっていっつもだもん、カオル」

「サチが言える事じゃないと思うけどね。この調子でズルズル下がったらクラス変わるよ」

 

サチが瑛麻の机の上ではしゃげばこちらもナオにさっくりと刺されて凹んでいる。何だかなあな気持だ。

そもそも瑛麻にとってテストとは勉強の成果を試す場であり、今は程ほどに手を抜く場であり、この騒ぎにはイマヒトツ乗りきれないのが正直な気持ちだ。
まあ学生であるからにはテスト結果は大切だろうと、ホームルームがはじまって珍しく真面目な顔の担任の顔を見てぼけっとしていたのだが。

 

「一部は既に知っているかと思うが、この前のレクリエーションで騒ぎがあってな。2年3年の馬鹿共がごっそり退学転校になったぞ。昼休みに赤腕章が発表するってのと関係者は昼に事情聴取だとさ。一応連絡事項だから伝えたかんな。じゃあ出席だ」

 

忘れてはいなかったけど忘れてた。そう言えば週末はえらい目にあった瑛麻だ。
恐らく担任も瑛麻が関係者だと知ってはいるのだろう、一度だけ視線が飛んできたから。それでも何も言わないのは一応は先生だと言う事か。それにしても思い切り関係者な瑛麻としてはまた面倒な話だ。

 

「カオル、赤って何だっけ」

「赤は風紀委員会の規則規定違反巡回隊の事な。赤い腕章で規則違反を見張ってるこわーい人達で、風紀に関わる事務処理なんかも赤の仕事だぜ」

「はあ・・・また面倒だな」

「そう言うなって。んでもテスト結果に紛れてたいした騒ぎになってないから良かったじゃん」

「それは言える」

 

カオルとひそひそと話していればホームルームも終わって授業開始だ。
騒ぎがあろうとテスト結果で凹もうとも授業は学生の本分。最初はざわついていたクラスもあっと言う間に落ち着き、サチの席から甘ったるい匂いがしてきたり(食欲魔神であるサチの席にはお菓子だけが入ったでかいバッグがある)しながらようやくの昼休み。瑛麻だって腹が減る。

 

チャイムが鳴ってうーんと背伸びして、今日の昼は何にしようかなとか考えつつサチを左腕にぶら下げて教室を出た所で男子校だと言うのにすっかり聞き慣れた黄色い悲鳴と共にそいつがゴージャスな花束を背負って現れた。

 

「喜べお前ら。昼は俺様特性弁当だぞ。つー訳で今から風紀委員室な。逃げたら校内放送だから」

 

鏑木だ。両手を腰に当てて不適に笑むその姿さえ以下同文。用があるのは瑛麻だけではなく、サチ達も一緒の様だ。

特製弁当の言葉にカオルと遊佐が大喜びしているがナオは顰めっ面なのが気になる。まあこの場合だと大人しく従った方が身の為だろうし、事情を聞きたいのは瑛麻も一緒だ。何せあの後から何の話も聞いていないのだから。




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