一通り騒いで瑛麻のプリンを完食した桜乃とテツは昼前に店を出た。
瑛麻達も司佐の両親が戻ってきたから店を出て司佐の家に上がった。
ランチタイムは忙しくなるし、瑛麻達はもう帰る時間だ。帰る準備と言っても荷物はない。持ってきた着替えはそのまま置いていくし、勉強道具なんて持ってくる訳がない。
「悪りぃんだけど暫く休みが取れそうになくてな」
「いいよ、忙しいの分かってるし。サンキュな、司佐」
「ありがとね司佐」
行きと同じく司佐の車で学園まで。
何となく分かれがたいのは瑛麻も、和麻もで、行きとは違う静かさだ。
景色を見ながら司佐も見てしばしの別れが寂しい。
高速を通り、休憩を挟んで学園に着いたのは夕暮れ前。
車から降りるのもお姫様抱っこで、けれど、これでお終い。
ゆっくりと下ろされて2日ぶりに自分の足で歩けば思ったより痛みはなくて良い休養になった様だ。このまま寮まで送ってもらっても良いのだけれど、また騒ぎになるのは目に見えているので正門でお別れだ。
「持ってけ」
くしゃりと頭を撫でられるのは兄弟一緒。
それから、和麻に荷物が渡された。大きめのバスケットだ。
「何これ?」
「俺様特性、特大ランチボックス。ダチと一緒に食え」
「いつの間に・・・」
和麻が持つバスケットは両手で抱える大きさだ。いつの間に準備をしたのか。
半分は純粋に感心して、半分は呆れて、兄弟でバスケットを見れば司佐が笑う。
「半分以上は親父だけどな。夕飯の足しにはなるだろ。んじゃな。2人とも元気で。何かあったら直ぐに電話しろな」
ひらひらと司佐が手を振って、お別れだ。
静かに走り去る車を眺めつつ、和麻と2人、同時に溜め息を落とす。
「行くかあ」
「そうだねえ。ご飯、美味しそうだね」
「有り難いな。サチに食われちまわない様にしねえとな」
「兄ちゃんもいっぱい食べるんだよ」
「分かってる。しばらく司佐の飯はオアズケだからな」
夕日になりはじめた空の下、のんびりと寮に向かって歩きはじめた。
オマケ>司佐のご飯
「つー訳で、司佐特性、特大ランチボックスだ。有り難く食えよ」
「わあ!すごい!」
夕食時の食堂でいつものメンバーが囲むのは司佐に貰ったバスケット、特大ランチボックスだ。囲む皆の顔がぱあっと輝く。テーブルを囲むのはサチに会長、ナオとカオルに遊佐。どいつもこいつも瑛麻から見れば大食らいで、それでも司佐のランチボックスは全員の胃をそれなりに満たしそうな量だ。
「ボク、タコさんウィンナー・・・はじめてだよ。感動しちゃう!」
「おにぎりに旗もあるね。唐揚げにも飾りがついてて・・・僕も感動しちゃうなあ」
特大ランチボックスを覗いて感動しているのはサチとナオで、そう言えば二人とも良家のお坊ちゃん。こう言うランチボックスははじめてかもしれないと思えば会長も無言で感動していた。やっぱりはじめてか。
「すげーなあ。気合いの入りようって言うか、ともかく旨そう!」
「俺らン家じゃこんなハイカラなのは絶対無理だかしなあ。こりゃ感動だぜ」
カオルと遊佐の感動は少々ずれているが表情の輝き具合から言って他の3人に負けていない。確かに気合いの入ったランチボックスだが、ここまで感動されると思っていなかった瑛麻と和麻は誇らしい反面、驚いた。いやだって、ここまで皆の顔が輝くとは思っていなかったのだ。和麻も同じ気持ちの様で、兄弟でちろりと視線を合わせて笑って、さあいただきますだ。と思ったら。
「ちょっと写真撮らせろ。すげーなこれ。サンドイッチ、お握り各種、唐揚げ、ウインナー、卵焼きにおいなりさんまでありやがる。いいなー、教えて欲しいなこれ」
後ろから鏑木が覗き込んでカメラを構えているではないか。そ、そこまで素晴らしい物なのだろうか。いや司佐のご飯は美味しいけれどちょっと驚きすぎだと思うのだが。
「だってねえ、ボクらの家だとこう、高級料亭!ってかんじのお重しかないし」
「美味しそうだけど、美味しそうじゃないしねえ」
「俺ン家はもっとこう、ばばくさい・・・?」
「茶色いオカズオンリーだからな」
「中々できないんだぞ!雑誌見たって作り物感は否めねえしよ。こう自然にハートをがっつり掴まれる弁当ってのは難しいんだぜ」
鏑木まで加わってようやくいただきます。になってから暫く、それぞれ満面の笑みで平らげつつそんな感想が漏れてきた。そうか、そう言えば会長兄弟にナオは別世界の人で、カオルと遊佐はまた違う世界で。感想を聞いてむしろ瑛麻と和麻の方が関心してしまった。
そうして。友秋と、オマケで篤斗の分を取り分けて渡してみた所。
「わあ、美味しそう。瑛麻君の彼氏さんは料理上手なんだね」
「・・・すごいな。理想の弁当だ」
なる程、友秋の家は割と普通で篤斗はサチ達と同類だと言う事で。
ランチボックス一つでより分けができるとは思わなかった。