太陽のカケラ...48



そうして、ロビーでがやがやしていた生徒や保護者の群れが一通り学園から出た頃に彼は来た。
人もまばらになったロビーで待ちくたびれる事なく、わくわくしたままの野次馬殿がお茶を飲んでお菓子の取り合いが一部ではじまった頃になる。


入り口に一人の青年が到着してロビーの空気がざわりと揺れた。その人は歩く度にじゃらりと音をさせて辺りをきょろきょろと珍しそうに見回す。


白に近い金に染めた、毛先の跳ねた髪。鋭いのに不思議と暖かさを感じさせる瞳に大人の男らしいがっしりとした身体と、野生の獣を思わせる空気。
色つきの眼鏡はサングラスではなく車を運転する時にはいつもかけているもので、それが司佐の雰囲気を少し堅く見せる。黒のシャツに色の抜けたジーンズと言うラフな格好で、耳と首、それに両手首と指にシルバーのアクセサリーを沢山付けているから少しでも動けば音がする。司佐の音だ。


その人はロビーの視線を独り占めしながらも気にした風もなく、ソファ席に固まっていた集団を見て、ふわりと笑む。


「瑛麻、和麻、待たせちまったな」


司佐だ。集団で固まっているのに躊躇なく歩いてくる。


「司佐、久しぶり。ほら、兄ちゃん」


和麻に肘で突かれて、決める。こうなったら恥ずかしがっても無駄だし、久しぶりの司佐に会えて嬉しいのは本当だから、もう良い。


「来てくれてサンキュ、司佐。ごめんな、朝なのに」
「いや、俺も久々だし早く会いたかったから良いさ。で、周りは友達か?」


昨日はあんなに顔を赤くして悲鳴を上げていた瑛麻だったけれど、吹っ切れれば元通りだ。二人が喋っている間に和麻が席を空けて司佐を座らせる。和麻は瑛麻の椅子の肘に腰掛けた。


「どれから言えば良いかな。友達だよ。先輩も混じってるけど」
「そうか。瑛麻と和麻がお世話になっています。入学してまだ間もないけど、こんなに多くの友達に囲まれている様で良かった」


周りをぐるりと見て嬉しそうに司佐が微笑めば会長ですら見惚れている。
造形の美しさで言えばサチと鏑木の方が綺麗だし、格好良さと言えば会長の方が上だ。なのに不思議と司佐には内から滲み出る魅力がある。分かり易く言えばみんなの兄貴、と言う空気だ。
実際面倒見が良く少し強面な見かけによらず纏う空気は柔らかい。
ちなみに、ゴツゴツのアクセサリーは全て司佐が趣味で作っているものだ。


「うわ、格好良い・・・」


思わず呟くサチに全員が素直に頷く。ちょっと嬉しくなって、司佐にも一通り紹介する。それぞれ軽い自己紹介と挨拶をすればどいつもこいつも躾の良い良家のご子息に見えるから不思議だ。カオルや遊佐でさえも。


「年の割には皆しっかりしているんだな。良かった、瑛麻と和麻の周りが楽しそうで」


確かに良い奴らだとは思うけど騙されちゃダメだ司佐。
心の中で叫んでも今ここで口に出す程瑛麻もおバカではない。むずむずしながら口を閉じて大人しくしていれば、司佐が柔らかい笑みを崩して少し意地の悪い顔になる。


「そして見物でもある訳だな。保護者でもない俺が迎えに来るのは珍しいと受付でも言われたし、そうだな、手っ取り早くいこうか」
「へ?」


司佐の腕が伸びてきて顎を持ち上げられる。その仕草は手慣れていて、けれど瑛麻には慣れていないもの。驚いて間の抜けた声を出す瑛麻の額に唇が落ちてきた。誰の、ってもちろん司佐の。・・・キスされた!!!


驚きのあまりにピキ、と固まる瑛麻に全員が、いや、和麻以外が固まる。それはもう、石像の様に。


「和麻から詳しいメール貰ってたし。ガキ共、俺の瑛麻に手ぇ出すなよ?本当はもっとお喋りしてたい所なんだが瑛麻の怪我を聞き出したいし休ませたいし、またの機会にな。行くぞ」


途端に口が悪くなる。いや、これが本来の司佐だ。
まだ固まる瑛麻と周りを尻目に和麻が2人分の荷物を持って、司佐はひょいと軽く瑛麻を抱き上げる。


「つ、司佐?ひょ、ひょっとして、お、怒ってるのか?」
「ああ、そりゃもう盛大に。何で入学一週間でそんなボロになってんだよお前は。しかも顔と足だと?重傷じゃねえか」
「そ、そんな重傷じゃないし歩けるし!」
「聞かねえよ」


お姫様だっこだ。あの瑛麻が軽くあしらわれてさらに驚く。
上には上がいたものだ。和麻だけが普段通りで一度頭を下げてから司佐の後を追って、ロビーの空気を完全に一つにして言い合いながら出ていった。




オマケ>>瑛麻達が出て行った後のロビーでは。


サ チ:「ほ、本当に恋人だったよ・・・すごいの見ちゃった、ボク」

カオル:「俺たち全員でな。しっかし格好良いなー」

ナ オ:「瑛麻君の見る目があの司佐さんに固定されてるなら、サチにも会長にもあの態度だったのが頷けるよ」

友 秋:「何事にも達観してる様子だったけど、あの人が相手なら頷けるよねえ。びっくりしたあ」

篤 斗:「あんな瑛麻ははじめて見るな。貴重なものを見せてもらった気分だ」

会 長:「大人だな。あれじゃ生徒全員、先生も含めて木偶の坊にしか思えんだろ」

鏑 木:「そりゃ年齢差もあるし、向こうは大人だししょうがないんじゃね?しかし瑛麻の好みは結構な年上、っと」

カオル:「いやあ、すげえモン見た。んで、サチ、会長、俺ん家来るんだろ?」

会 長:「切り替えが早いぞカオル。中途半端な時間だし昼飯食ってからで良いんじゃないか?」

遊 佐:「昼飯ならカオルばーちゃんが用意してくれてるって」

サ チ:「ホント?じゃあ今すぐ行く!おばあちゃんのご飯、幸せになる味だもん」

鏑 木:「いいなそれ。なあカオル、俺も邪魔して良い?」

カオル:「もちろんいいっすよ。トモと篤斗もどう?渓流釣りもプラスだぜ」

友 秋:「え、ちょっと惹かれるなあ。篤斗、どうする?」

篤 斗:「偶には良いな。でも大人数になるぞ。迷惑にならないだろうか」

遊 佐:「ならないならない。カオルの家がでかいのは知ってるだろ?外泊届け出せば全員で余裕で泊まれるぜ。風呂もでかいしヒノキだし。したら夜はバーベキューしようぜ、なあ」

カオル「何で遊佐が言うんだよ。その通りだしみんな来るなら外泊にしてバーベキューにもしちゃうけど」

サ チ「けってーい!早く書類書くよ!あ、でもナオは帰省かあ」

ナ オ「また今度誘ってよ。楽しそうだし。じゃあ迎えが来たから僕はこれで。今度は瑛麻君兄弟も一緒に行けると良いね」

カオル「だな。俺ん家も遊佐の家もいつでもオールオッケーだから待ってるし誘うぜ。じゃあな、ナオ。気をつけてなー」






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