土曜日の朝はロビーに客が溢れる。そう言えば会長が言っていた。
聞き逃していたけれど確かに言っていた。騒がれて夕食も取らず部屋で引きこもりをしていた瑛麻には眩しすぎる世界が目の前に繰り広げられている。
和麻と共に待ち合わせの場所をロビーにした(と言うかロビーでしか待ち合わせが不許可だった)が、まさか高等部のロビーに中等部までもが集まるとは思ってもみなかった。
「だって基本的にお坊ちゃんが多いし。学園からの移動手段て車しかないし、通学もないからバスないし。当然だよねー」
「しかも新学期に入ってからはじめての休みだ。実家に逃げるヤツもいるし、そのまま登校しないのも若干いるしな」
高等部のロビーのみであるのは年齢を考えての事らしい。
高等部の方が警備しやすく、生徒の側も大人に近いと言う事からだ。よって、朝を迎えたロビーにはやたらきらきらとはしゃいだ中等部の生徒とその保護者、高等部の生徒や保護者も多い。そして、基本的に保護者しか迎えにはこないとの事だ。
「・・・まさか毎週これなのか?」
唖然と会長を見れば苦笑される。
会長とサチは帰らず地元組と遊びに出るそうだ。瑛麻の知っている中だと毎週帰る者は誰もいなく、ナオが月に一度くらい帰省するとの事で。
「あんな雑魚相手に怪我しちゃったからね。ちょっと鍛え直してくるよ」
荷物を片手にそれでも司佐を見るまでは帰らないと言い切ったナオがきらりと眼鏡の端を光らせる。あれが雑魚だなんて・・・何なんだいったいナオは。
「ああ、僕の家は代々続く警備会社だよ。昔はそれこそ一族揃って猛者揃いだったて話だけれど今は普通の会社。院乃都グループのひとつだって言ったじゃない」
分かるかそんなもん。そして普通の警備会社じゃないだろう、どう考えても。
むーっとナオを見れば笑われる。
「で、お目当てさんはいつ来るの?もう来るの?」
サチがソファでくつろぎつつ、お茶を飲みつつわくわくと瑛麻を見る。黒のネコミミパーカーをすっぽりと被って大層可愛らしいが可愛くない。
「朝、ってメールしちまったぜ・・・くそう、俺のバカ」
「人の話をちゃんと聞かない兄ちゃんが悪いんだよ」
そう、昨日の騒ぎですっかり逃げ出したい気持になった瑛麻はよりにもよって朝迎えに来て欲しいとお願いしてしまったのだ。まさかこんな事になっているだなんて、とは思いもしなかった。
がっくりと項垂れれば瑛麻の隣に座る和麻がしれっと視線を外して周りを見る。
「朝って言っても時間はまちまちだし、ほ、ほら、まだカオル君達も来ていないから」
「友秋、それはフォローにならないと思うぞ」
申し訳なさそうにしながらも、ちゃっかり友秋と篤斗もいる。鏑木と高塚は役職だと言う事でそれぞれロビーで仕事に励んでいるし会長も一応仕事をしているらしい。何かしらの役職になる生徒はあまり帰省しないとの事だ。
「そう言えばカオル達はどうしたの?まさか寝坊?」
「まっさかー。こんな楽しい事見逃すハズないじゃない。ほら、来たよ」
大人しく寝坊していてくれれば良かったのに。なんて瑛麻が思っても願っても無駄だと言わんばかりに駆け足で来たらしいカオルと遊佐が今日も輝く笑顔でロビーに到着した。
そのままどかどかと瑛麻達の固まるソファ席に来て勝手に肘掛けに腰掛ける。
「間に合った!朝から畑手伝ってたから間に合わないかと思ったぜ」
「カオルがもたもた風呂に入っているからだ。どうせダッシュで汗かくんだからそのままで来ればって俺は言ったぜ」
「汗臭いじゃん。一応ほら、身嗜みはちゃんとしないとな。瑛麻の恋人だぞ」
しなくて良い。汗臭くても良い。どうせ司佐が来ればダッシュで逃げるつもりなのだから。口には出さずにひっそりと身構える瑛麻に和麻だけは兄の実現できない企みに気づいて溜め息を落とす。
絶対無理だと思うんだけど、意外と兄ちゃんもあきらめが悪いなあ。なんて。