太陽のカケラ...46



そうして、いろいろあって夕食前に全員が寮内にある小さな会議室に集合した。


ちなみに、寮には中等部、高等部に大中小それぞれ取り揃えた会議室が幾つかある。どれもが簡単なレクリエーションや勉強会、講演会の為に使用されている。大きな会議室は寮監の許可がなければ使用できないが、小さなものであれば寮長権限で解放できる。


「だから、どうしてこんな大事になってんだよ」


うんざりと和麻に抱き寄せられつつ(動かない様に見張っている為だ)椅子に座る瑛麻が呟けば周りから一斉に睨まれた。


好き勝手に会議室で寛ぐメンバーの内訳は、瑛麻と桜乃が知り合いだと言う理由を聞きたい面々と、瑛麻の怪我の理由を聞き出したい和麻と、若干の野次馬で構成されている。ついでに、それぞれキラキラと輝く容姿の持ち主ばかりで大層賑やかだ。


「友秋に篤斗、サチ、ナオ、カオル、遊佐までは納得してやる。もちろん和麻もな。会長もオマケで納得する。が、どーして高塚先輩と鏑木先輩までいるんだよ」


事情のあるヤツはまだ良い。問題は野次馬の2人だ。明らかに興味津々な様子で高塚は着替えたらしく、白のもふもふウサギの着ぐるみで机に直接座り、その隣でもふもふを撫でながら白のシャツにジーンズ姿と言うラフな格好の鏑木がにやにやしている。もふもふを撫でているのがちょっとうらやましい。


「だって僕も聞きたいもん。寮長だしー?」
「俺は風紀委員長だし?それに桜乃と知り合いなんだってな。その辺りも詳しく」


二人が軽い声を出せば周りも次々に口を開く。ウルサイ。


「気になるものは仕方がないでしょう。それより僕の方が軽傷だったみたいだね。その足、大丈夫?」


瑛麻と同じく既に治療を終えたナオだが、確かに目立った怪我はない。
喧嘩慣れしている瑛麻より多くの人数を相手にしていたのに、とも思わなくもないのだがあの慣れた様子では喧嘩ではなくて別の訓練を受けているのだろう。後で是非とも聞き出したい所だ。


「何言ってるの。ナオだって全治一週間なのに!もーボクの心臓に悪いからヤメテよね」


ナオの隣ではサチがぎゃあぎゃあ騒ぎながら、それでも心配らしく側から離れようとしない。意外な一面だ。そして、ナオの隣では会長も心配そうに立っている。


カオルと遊佐は家に帰る途中で呼び出されたらしく、腹が減ったと寮内のコンビニで買ったお菓子を漁りつつのんびりしている。瑛麻から見ればこの2人もまた別世界だ。
そして、友秋と篤斗も気になるらしく椅子に座ってじっと瑛麻を見ている。


一応話題の中心になる桜乃は居心地を悪そうにしながらも瑛麻の隣の机に座って足をぶらぶらさせている。


まとまりがある様で全くない。集まったものの誰もが勝手に喋っている状態でどうしたものやらだ。これはさっさと説明して逃げるが勝ちだろう。明日は土曜で休みだし、本格的に逃げられるし。


別に、司佐のことを言うのは恥ずかしい訳ではない。ただ、どうやって説明して良いか難しい間柄なのだ。
恋人だと思っているのはきっと瑛麻だけで、司佐からしたら恐らく違うだろうと思う。いや、ちゃんと恋人だとは言ってくれるし扱いもそうだけれど、想いの差が大きすぎて素直に言えない。
その辺の事情まで詳しく説明するのは、嫌だ。


「あーもう、とっとと説明して飯食って寝るぞ。疲れたんだ俺は。んで、まー桜乃との関係だけど昔からの知り合いで、俺が良く出入りしてる店の常連、つーか、そこの親戚。その店は俺と和麻が良く世話になってるだけ。以上、終わり!」


よし。これで良いだろう。と一人だけ言い切って満足した瑛麻が起ち上がろうとすれば和麻に押さえられ周りには首を傾げられる。


「あのね瑛麻君。それ、説明になってないよ。桜乃先輩と知り合いなのは分かるんだけど肝心な所、全部ぼかしてない?そもそも瑛麻君は院乃都なのにどうして桜乃先輩と知り合いなのさ」


呆れたナオが肩を竦めれば周りも同じ意見だと頷く。
そうか、瑛麻は院乃都。そこからはじめなければいけないのか。それはまた面倒臭い。
でかでかと顔にうんざり、と書いた瑛麻に、今度は和麻が口を開く。


「僕達、一ヶ月前までは左内と言う名字で普通のアパートに暮らしてました。父親が院乃都でしたけど、一ヶ月前に突然離婚して院乃都に戻るまでは天涯孤独だってずっと嘘ついていたので院乃都の家と言うのは省いて下さい。そもそも院乃都の家にいたの、兄ちゃんは2、3日だけだし」
「そういやそんな事言ってたよな。でも桜乃先輩と知り合いって言われても納得はできねえぞ。そもそも桜乃先輩だって何で何もいわねえんだ?」


今度はカオルに突っ込まれた。確かに離婚してから院乃都になって、まだ日が浅いからと最初に名前で呼べと宣言した瑛麻だ。が、それとこれとは違うのだと言われてしまえば舌打ちするしかない。


要するに、言いたくない名前を避けるから説明しづらい訳で。かと言ってあらいざらいは言いたくない。
その、言いたくない名前を入れれば割とすんなり説明はできる。


さくっと言えば桜乃は司佐の従兄弟で、昔から司佐の家に出入りしていたから知り合い、と言うか幼なじみの分類になる。
家と言っても司佐の家はアパートの一階で喫茶店を経営していて、それは元々司佐の家で経営しているものだ。昔は、今もだけれども学園に入るまでは毎日出入りしていた。と言うか司佐の家に住んでいる状態だった。から、既に桜乃とは家族に近い認識でもある。だからこそ和麻が容赦ないと言う訳でもあるのだが。


以上をどう説明すれば良いものか。できれば司佐の部分を抜かしたいのだが、そうなると難しい。むーんと唸れば桜乃がもう面倒だと言わんばかりにさらっと言ってしまった。


「俺、司佐の親戚で昔から店に出入りしてたんだ。喫茶店な。んで、瑛麻が司佐の恋人だから知り合いなの。和麻ともな」
「なっ、お前っ、桜乃!てめえ!司佐の名前を出すなって言っただろうが!」
「一番分かり易いだろうが!だいたい何で隠すんだよ司佐を!泣くぞ司佐が!」


一番隠しておきたくて、隠すと説明できない名前をさらっと、しかも恋人と言うなんて!


勢いのまま立ち上がって桜乃を殴りたくても和麻に押さえられて動けない。ぎゃあぎゃあと顔を真っ赤にして騒ぐ瑛麻に驚くのは周りだ。
あの瑛麻が、何に対しても年相応のリアクションをしてくれない瑛麻が顔を真っ赤にして怒鳴るなんて。


「ちょっと待って!瑛麻の君の恋人って言ったよね今!?司佐?誰?名前からして、お、男の人ー!?」


そして、最初に悲鳴を上げたのはサチだ。驚きすぎてぽかんと口を開けている。可愛い顔はマヌケ顔でもまた可愛い。なんて思える余裕は今の瑛麻にはない。


「マジでマジで!?瑛麻恋人いんの!ちょっとそーゆー情報は早く言う!」
「驚いたな、だから説明しなかった訳か」


鏑木がとってもきらきらと輝いて高塚と共に瑛麻の側に寄ってきて、会長とナオも顔を見合わせて驚いている。
カオルと遊佐は食べていたお菓子を落として慌て、友秋と篤斗は驚きの余り抱き合っている。それぞれ盛大に驚いてくれて、なんて思う余裕も今の瑛麻にはない。


「うるさい!何も聞くな!桜乃、死んでこい!!!」
「何だよ、ホントの事じゃん。だいたい瑛麻だって格好良いんだから言っておいた方が後腐れなくて良いじゃん。なあ和麻」
「桜乃に同意するのは悔しいけど先に言っておいた方が良いんじゃないの兄ちゃん。いいじゃない。どうせ明日になれば司佐が迎えにきてくれるからバレちゃうし」
「お前らなあ!バレる訳ないだろ!何で司佐が来るだけでバレるんだ!の前にそんな軽く言うなー!!!」


瑛麻の悲鳴が涙声だ。
バタバタと暴れても和麻に押さえられていて暴れられず周りは瑛麻以上に賑やかになってきて逃げ出したい。


「まあまあ。んで、明日来るんだな。恋人」
「どこで待ってれば顔見られる?朝?昼?」
「是非ともお目にかかりたいものだね」
「カオル、俺らも早起きして来ようぜ。絶対見たいし」
「あ、あの、瑛麻君、その、来たら教えてね?」
「友秋、まだ人前は危ないから俺も一緒に行く」
「いや待て、来客であれば正門の受付を通るはずだから見張るならそこだな。生徒会と風紀幹部には連絡が来るぞ」
「えー。僕も混ぜて〜。興味あるー!」
「寮長にも連絡行くだろ。家族以外なら尚更だから安心しろ、瑛麻。明日は全員でお見送りできるぜ」


みんな言いたい放題だ。いつの間にかぐるりと囲まれ全員が好奇心で輝いている。そんな奴らの顔を見られない。顔を上げられない。いっそ残りの体力で全員をぶちかまして部屋に籠もりたい!


「・・・遅かれ早かれ分かっちゃうんだし、諦めようよ兄ちゃん。ね?」
「そうそう。良いじゃん。どうせバレるんだから」


だから何でそんなに軽いんだ。
もう何も言えない瑛麻ががっくりと肩を落としても周りからの、あえて聞こえないフリをしていた質問がびしばし飛んできて収まらない。


らしくなく項垂れる瑛麻にようやくこれ以上追い詰めても可愛そうだと思ってくれたのか。会長が慰める様にぽんと肩に手を置いた。


「ま、どのみち土曜はロビーに客が溢れる。ひょっとしたら目立たないかもしれないからそう凹むな。お前らもその辺にしてやれ。ほら、飯行くぞ」


お、大人だ。一番まともな、やっぱり良い男だ。うっかり絆されそうだ。
感激してようやく顔を上げればどこまでも男前な会長が、けれどにやにやしながら瑛麻の髪をくしゃりと撫でた。感激したけど、そのにやついた表情に一抹の不安がよぎるのは気のせいだと思いたい。






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