太陽のカケラ...44



開始の合図が銅鑼なら、終了の合図も銅鑼だった。
但し、終了の合図は放送で銅鑼の音だ。すぐ後に高塚の声も放送で流れる。


「はーい、終了だよー。みんな速やかにロビーに集合☆結果発表だよー」


既にロビーの椅子でぐったりとしていた瑛麻はぞろぞろと集まる生徒を眺めつつ盛大に溜め息を落とす。
疲れた。強がってはいたもののあちこち痛いし、同じく隣の椅子に座るナオも微妙に辛そうだ。


「全くもう、全部投げちゃうんだから!瑛麻君には分けてあげないからね、箱」
「まあまあ、疲れてるんだろ、瑛麻もナオも。ボロボロだしな」
「終わったら保健室に行くか?」


早めにロビーに下りたから全員がちゃんと椅子に座れている。
サチが両手いっぱいに箱を抱えてむすくれて、カオルと遊佐が宥めている。けれど、サチだって本気で怒っている訳ではない。その証拠にずっと心配そうな顔で意外と泣き上戸だったらしく涙目のままだ。


「それじゃあみんなー!お疲れ様ム!いっぱい楽しんでくれたかな!?お楽しみ☆結果発表だよー!」


瑛麻達がロビーの隅でひそひそとぐったりしていれば壇上で高塚がメガホン片手にふりふりと踊っている。疲れていても可愛い物には癒される。


ロビーには開始と同様、ほぼ全員が集まったらしく賑やかだ。それぞれレクリエーションをちゃんと楽しんだのだろう、笑い声が多いのが救いだ。


「ではでは!結果発表ム!って箱数えるの早いよねって思うよね。審判の人達が監視しながら数えてたんだよー。ついでにGPSチップも仕掛けてたんだよー。でもいっぱいあるから端数は数えません!よって、今回の勝者は1年生全員でっす!」


何だそりゃ。GPSなんて高度なモノがあんな画用紙の箱に入っていたのか!そしてどんだけ大ざっぱな集計だ。
箱の数で、と言っていたから個人戦ではなかったのか。呆れる瑛麻と、同様にロビーからもちらほらと呆れながらも苦情の声が上がっている。


「だって親睦会だもん。レクリエーションだもん!数の総数から減った数だけカウントだもん!だから1年生全員、一週間のお昼ご飯が無料なんだもーん!」


大ざっぱな割には豪勢だ。おお、とロビーがどよめけばカオルと遊佐が拍手している。サチとナオも嬉しそうで瑛麻としてもあまり興味はないが、まあ嬉しい。


「文句があるんなら科学部特性スプレーだからね!それじゃあ解散!お疲れ様でしたなんだよ!ほらほらほら!早く散るんだよー!」


はじまりは唐突で終わりも唐突だ。
大ざっぱ過ぎる結果発表の後は直ぐにロビーを追い出されるのか。


「動きたくねえなあ。どうせ直ぐ夕飯だろ」
「そうだねえ。でも僕たちは着替えた方が良いと思うんだよね。こんな格好でいつまでもいるの嫌だし」
「そりゃナオはそうだろうけど、俺は別になあ・・・って、そうだ。友秋と篤斗はどうした?」


友秋は保護されたとは聞いているけど、その後を聞いていない。
篤斗はオマケだ。と言うか見つけ次第一発ぶん殴る。


「トモちゃんと駄犬なら部屋に戻ったよ。ちゃんと警護の先輩が送ってくれたから。それと、駄犬にはボクが一発入れておいたし、トモちゃんすごく心配してたから顔見せてあげれば?」
「そうだな。それじゃ飯前に着替えるか」


面倒だけど友秋が心配していると言うなら元気な姿も見せなければ、だろう。
どうも友秋が絡むと心配性になるなと苦笑すれば周りも同じな様で、揃って苦笑を浮かべつつ肩を竦めた所にひょっこりと桜乃が顔を出した。


「で、何で瑛麻がいるんだ?その辺りの説明が聞きたいんだけど」


忘れてた。盛大に蹴り飛ばしたのに忘れていた。
態とらしく首を傾げて桜乃を見ればがっくりと肩を落とされる。


「そう言えばどうして知り合いなの?桜乃先輩と。夕食の時にでも教えてよね。あ、お風呂の時でもいいから」
「そうだね。気になるし」
「そうそう。それじゃ風呂にしようぜ。俺らも大浴場入りたいし、飯は家で食ってから来るし」


勝手に話が進んでいる。瑛麻は一言も説明するとも、ましてやどうして風呂で説明になるんだ。


「お前らなあ・・・」
「じゃあそう言う事で。後でねー瑛麻君」
「って、俺の意見は無視か?勝手に決めるな!」


一応気を遣ってくれたのかもしれない。たぶん。恐らく。
ぽつんとロビーに残る瑛麻に桜乃がうずうずと瑛麻の向かい側に座った。こっちも瑛麻の意見は聞かなそうだ。仕方がないので和麻にメールを送りつつ動くのもまだ怠いので説明をする事にする。


「ったく。まさか桜乃がここだったなんてなあ。だから最近店も不定期にしか来なかったのか」
「俺だってビックリだぜ。つか、本当にどうしているんだ?」
「親が離婚して親父が事もあろうに院乃都の直系だった。で、俺と和麻が引き取られてここに放り込まれた。以上」
「ああ!外部の院乃都って瑛麻の事だったのか!そりゃすげー。司佐は知ってるのか?」
「だから司佐の名を叫ぶな阿呆。もちろん知ってるぜ」
「じゃあいいや。んで、その怪我は?」
「ああ、これは・・・」


説明と言ってもあっさりしたもので、昔からの仲だからこれで十分。
瑛麻と桜乃と話し合う姿は人の少なくなったロビーでとても目立っているがそれは気にならないし気にもしない。
話の流れが瑛麻の怪我になった頃、入り口から見知った顔が歩いてきた。和麻だ。
もちろん瑛麻が呼び出したのだが、機嫌良く歩いていた和麻が一歩進むごとに般若の顔になり、ついには駆け足になって勢いのまま無言で桜乃を締め上げた!


「兄ちゃんどうしたの、その怪我。何で桜乃がいるの?桜乃がやったの?死ぬの?」
「ぎゃあ!和麻!おおおお俺じゃねーよ!」


遠くからは分からなかった瑛麻の傷が近づけば中々に酷いものだと分かる。和麻が心配しない訳はなく、その前にとても怒っていて怖い。
最初に蹴り飛ばした瑛麻が思うのも何だが、桜乃、とばっちり過ぎる。


「和麻落ち着け。怪我は別件。部屋に行くぞ」
「朝は普通だったのに、何でそんな怪我なの兄ちゃん。顔に傷付けたなんて司佐に怒られるよ。行くよ、桜乃」
「・・・どうせ、俺なんて」


ひっそりと桜乃が拗ねているがいつもの事。
兄弟揃って歩き出せば後から慌てて桜乃が付いてきた。






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