太陽のカケラ...41



以上の全ての話を小声で済ませつつ、結局は数で押されて囲まれたまま誘導された。
不自然に大人数で、けれどこのお祭り騒ぎでは自然にも見えて。


誘導されたのは寮の外れにある会議室だった。
部屋の中は端に寄せられた長机と折りたたみの椅子。それに、出迎えてくれた怪しい風体の生徒がさらに増えて10人程が部屋の中で待機していたらしい。
入り口にはもちろん通せんぼ付きだ。


全員が友秋を見ている訳ではなく、半分がナオ。そしてありがたくない事に瑛麻を見る視線もちらほら。
もう呆れるしかない。と思ったらナオも呆れている様で盛大に溜め息を落としつつ肩を竦めた。


「ここは第3会議室ね。一応レクリエーションでも捜索範囲に入っているから箱があるんじゃないの?」


不自然な静けさの中でナオの声が響いて嫌な笑い声があちこちから上がる。
ああ、腹が立つ。これは腹の立つ状況だ。


「ああ。あるぜ、箱。俺等の分な。ナオちゃん、良い返事を貰えないもんだからちょっとばかり卑怯な手段に出るけど文句はなしな」


一人、細い男が前に出て、だらしない笑みを浮かべる。
ナオの顔が盛大に歪んで今にも怒鳴りそうだ。


「あれ、ナオのファン?」
「そんな可愛いモノじゃないよ。2年の問題児で前々から僕に難癖つけてくる馬鹿だよ」
「おいおい、随分な言いようじゃねえか。この人数相手にどこまでその強気が持つかな。お前ら3人とも、精々足掻けば良いさ。楽しませてくれそうだしなあ。ああ、バンダナの二人は拘束させてもらうぜ。この人数じゃどうしようもないだろうけどな」


数人が前に出てロープを片手に近づいてくる。
本当に、腹が立つ。どうして外は楽しそうなレクリエーションなのに、この部屋はこんなにも汚れているのか。


見える汚れじゃない。部屋の空気が、近づく人が。


「・・・頭キタ。今までは行動に出なかったから無視だけだったけれど、もう遠慮はいらないよね。新入生を相手に、警護の先輩まで巻き込んでの乱暴目的に拉致監禁及び暴行未遂。もう、知らない」


静かに怒る瑛麻の隣で、先に切れたのはナオだった。
眼鏡の端が光ったと思ったら今まで聞いたことのない声が部屋に響き、それはとても冷えていて部屋にいる全ての人間の動きを止める。


いや、喧嘩はできないんじゃなかったのか?
あんまりにも冷えた声とその内容にナオを見ればポケットから慣れた仕草で取り出されたものがひとつ。


「ナオ、喧嘩できないって・・・」
「言ったよ。だって喧嘩じゃないもの。ただの掃除でしょう、こんなの」


金属音が響いてすらりと伸びる、警棒じゃないか!


「お前、それ反則だろーが。俺手ぶらじゃねーか」
「何で瑛麻君が反則なんて言うのさ。ああ、後ろのお2人は最優先でトモ君を警護しつつ外に出て風紀をお呼びして。瑛麻君はどうするの?」
「いや、どうするって・・・」


どうしよう。ここにも人格が変わる奴がいる。
あまりの変わり様に瑛麻が呆然とすれば部屋の中も全員が呆然としているではないか。
何て言えば良いのだろうか、怒鳴っていないのに怖くて寒い。


「さあ行くよ」


うわあ。怖い。怖すぎる。
とは言ってもこの人数相手だ。ナオが一歩踏み出して警棒を振るえば後はもうただの乱闘。しかも不利なのは明らかに瑛麻達で。


「しょうがねえな。おら!どけどけどけー!」


仕方がないのでまずは脱出口の確保だ。
ナオの怖さに驚いていた奴らが次々と警棒に叩きのめされている今がチャンス。
友秋の手を取って出口に走る。邪魔する奴らは黒バンダナの先輩が伸してくれる。流石空手部、頼りになる。


人が多いから多少時間はかかったものの、入り口までの道が確保できてドアを思い切り開く。
開いたドアの向こうに勢いのまま友秋を放り出して、黒バンダナ2人も放り出す。外はお祭り騒ぎでこの部屋の声も紛れて誰も乱闘には気づいていない。


「友秋、大丈夫だ。先輩達、友秋を頼むな」


泣くのを堪えて、なのに身体中が震えて声の出ない友秋を一度抱きしめて、黒バンダナの1人に託して部屋に戻ろうとすれば引き留められる。


「正気か!?あの人数だぞ!俺も行く!」
「俺一人で良い。だから早く風紀なり何なり呼んできてくれ。それと、絶対に友秋を巻き込むなよ、じゃ」
「待て!」


長話なんてしていたらナオが心配じゃないか。
引き留める手を振り払ってドアを閉めてついでに鍵も閉める。
誰も、逃がさない。


「って、何あだりゃ・・・」


カチリと鍵をかけて振り返ればもう部屋の中がぐちゃぐちゃだ。
ナオ対数にして20人以上もいるのに誰もナオに近づけていないじゃないか。


机の上に立つナオが警棒を構えるだけで妙な迫力があって近づけず、既に床とお友達になっている生徒の数も多い。


「俺の出番ないかもなあ・・・って言ってる場合じゃねーか」


強すぎる。サチもそうだが、何でナオもなんだ。
心の中で呟きつつ床とお友達になっている生徒の手からなぜか持っていたバッドを奪って瑛麻も参戦だ。
と言うか瑛麻達3人に対してこの大人数プラス武器とは反吐が出る。


「トモ君は?」
「もちろん外、先輩達も。んで、何でそんなに強いんだナオ」


暴れつつ遠慮無くぶっ飛ばしつつ人の間を縫って机の上で戦う。
ナオの隣に立てば軽く息を吐いて不適に微笑まれた。


「だって、ただの生徒がサチの友達な訳、ないでしょう?」
「その一言で納得する俺がイヤだ・・・」
「瑛麻君だってそうじゃない。さあ、あと半分だよ」
「ああ、思う存分、暴れるか!」


ダン!と机を蹴って下敷きになった生徒ごと飛び降りて悲鳴と怒声の上がる部屋の中を言葉通り思う存分暴れ回る。


卑怯者相手に何を遠慮するのか。この人数で友秋を、ナオを、どうしたかったなんて想像もしない。
篤斗が離れた所からの陽動だったとしたら組織的で悪質すぎる。


許さない。許せない。
バッドは途中で折れたから拳で蹴りで。
どんなに強くとも人数差で怪我はする。殴られるし蹴られるしナイフを持つ馬鹿のせいで腕も頬も切れた。


それでも、止まらない。外のお祭り騒ぎで呆れながらのんびり楽しみたかった。と、心の底でうっすら思うけれどこれが割り当てられた役割だと言うのならば盛大に踊ろうじゃないか。






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