太陽のカケラ...40



銅鑼の音と共にロビーからわらわらと生徒達が散っていく。
何だかんだ言いながら瑛麻達も出陣だ。
選別用のタスキを勝手に巻いてぞろぞろと歩いてみる。


ロビーのあるのは当然ながら1階で、他には大浴場、図書館、共同部屋と会議室がいくつか。


「ありきたりな所で食堂、大浴場、会議室かな。それと寮内のコンビニは範囲外だって」 
「なるほど、施設案内も兼ねてるって訳か。中等部の寮とじゃ違いもあるんだろうしな」


ナオがプリントにある配置図を見ながら先頭を歩き、瑛麻は感心しながら隣を歩く。
確かに施設案内だ。各自で探せば覚えも早いだろうし、拳と拳で語り合いにはなりそうではあるが一応交流もできる。たぶん。


瑛麻とナオを先頭に、次が友秋と篤斗に銅鑼の音と一緒に友秋の警護である黒バンダナの生徒が2人。
その後ろでは早速騒ぐつもりで満々なカオルと遊佐で、最後部にしょぼくれたサチと会長だ。


「俺ら図書館担当!行くぜ遊佐!」
「おう!」


早速カオルと遊佐が張り切りながら駆け足で消えていった。
元気な二人だ。
寮生ではないものの、地元組も寮の施設は使うとの事で、けれど二人に図書館は似合わなそうでもある。


「そりゃ図書館が一番広いもの。僕達はどうしようねえ。サチ、どこかリクエストはある?」
「・・・暴れられないからどこでもいいもん。もー兄さん邪魔!」
「お前が暴れたら保健室から人が溢れる。せめて手加減すれば良いものの、この馬鹿が」
「つーん、だ」


しょぼくれているサチに声をかければ完全に拗ねていて話にならない。
会長も大変だとは思うが、瑛麻としてもある程度は箱を探しつつ寮内も把握したい所でもあるし、周りもほどほどに楽しそうでもあるし暴れるなと抑制されるのも仕方がないと言う所か。


「俺、まだ共同部屋行ってない。あと屋上も。風呂場は嫌な予感しかしないから行かない」
「そうだねえ。お風呂場はきっと阿鼻叫喚だと思うよ。じゃあ共同部屋から行こうか。サチ、いつまでも拗ねないの。アクシデントがあれば会長だって多めに見てくれるでしょ」
「アクシデントって?」


何だそりゃ。と、首を傾げれば程なくして廊下の、瑛麻達とは逆方向から大歓声と共に野郎の悲鳴と怒声が響いた。


ああ、アクシデントか。
声の種類からするに乱闘だと思われる。開始早々元気な事だ。


「早速だなあ。そういやレクリエーションの時間て何時までなんだ?」
「午後6時までだって。あと1時間半だね」
「ふうん、結構あるな」


残念ながら進行方向の騒ぎでなければ足が向かない瑛麻で、ナオも素知らぬ顔で瑛麻の隣を歩いている。
友秋は若干顔を青くしているが篤斗と黒バンダナが2人もいるのだから大丈夫だろう。
けれど、一人だけ暴れたい奴が何も言わずにダッシュで消えていた。


「サチ!輝く笑顔で全力ダッシュするな!待て!」


当然の様に会長もダッシュで消えて、早々にメンバーが半分だ。


「瑛麻君は興味ないの?暴れたそうだったから興味ありかと思ったよ」


サチと会長が消えた先をちろっと見てからナオが軽く首を傾げる。
残念ながら瑛麻の得意分野ではない。


「あーゆー目立つ騒ぎに興味はない」
「それって悪役の台詞だよね」
「そうか?」


今度は瑛麻が首を傾げて廊下を歩く。
廊下と言っても一階の廊下は校舎の廊下と同じ広さで、要するに広い。
瑛麻達が横並びで歩いても余裕だし、あちこちで箱を探したり、なぜか2年と競争している一団がいたり箱を右に左と移動している集団がいたりでたいそう賑やかだ。


そして、そんな賑やかな声に紛れて若干の棘も刺さる。
友秋に向けられる悪意の視線と、この騒ぎの中なのにやけに聞き取りやすい悪口。
こんな騒ぎの時くらい一緒に楽しめば良いだろうにと呆れるのは瑛麻とナオで。


「いい加減にしろ!俺は友秋だけを愛している!お前らにつべこべ言われる筋合いはない!」


なぜか篤斗が切れた。
いや、切れても良いのだがなぜそこで、この場で影から悪口を囁く生徒の方に走っていくのか。


「・・・ひょっとして、陽動かこれ」
「だから駄犬なんだよあの馬鹿」


人の多い廊下。瑛麻達の周りにも人が溢れているのが普通だが、あからさまに配置がおかしい。


囲まれているのだ。


自然に見えて不自然に。数は10人と少しくらいで、いずれも体格の良い生徒ばかり。タスキが見えないから上級で確定か。
ざあっと青ざめる友秋を瑛麻とナオの間にして、背後を歩く黒バンダナの先輩を見上げる。
二人とも精悍な印象で、緊張に顔を引きつらせてはいるが怖がってはいない。


「黒バンダナの先輩達、あんたら信じて良いか?」


じっと二人を睨む様に見る。
名前も知らない先輩2人は瑛麻の視線をしっかりと受け止めて、この場に似合わない白い歯を見せてくれた。


「お前は外部だから知らないだろうが、各行事ごとに配置される黒バンダナは信じて良いぞ。ついでに言うなら俺らは空手部所属でインターハイ準優勝。で、コイツが優勝。生徒会及び風紀委員の任命を受けての護衛だ」
「そうか。瑛麻君は外部だものね。護衛の先輩方は信用して大丈夫だよ」


巫山戯て見えるのに律儀な学園だ。
こんな時にまで護衛だなんて世知辛い気もするけど。


「じゃあ後は場所か。ってナオ、お前喧嘩できるのか?」
「僕にそれを聞くの?」


そりゃそうだ。
どう見てもお金持ちのお坊ちゃんにしか見えない。これで喧嘩が得意なんて言ったらサチより怖いじゃないか。






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