太陽のカケラ...39



そうして、瑛麻達がこそこそと物騒な相談をしている間にすっかりロビーはお祭り状態になっていた。
奥に机を重ねてふりふりと踊る高塚がメガホンを両手に一生懸命説明している。
正直説明よりも可愛い踊りに釘付けな連中が多いからちゃんとルール説明のプリントも回ってきた。妙なところで律儀だ。


しかし、こんな賑やかなままで何をどうはじめるのかと不思議に、ではなくて呆れていたらメガホンの音量を最大にした高塚がとうとう切れた。


「もー!みんな僕の話も聞いてよー!聞いてくれないんだったら今から科学部特性のスプレーしゅーってしちゃうからねー!」


『スプレー』の言葉を聞いた途端、しん。とロビーから音が消えた。 科学部特性スプレーって何だろう。ネーミングから既に恐ろしい。
瑛麻達もぴたりと動きを止めてお立ち台の高塚を見れば可愛い顔を精一杯怒らせている。
あれは可愛い。
でも、いつの間にか両脇に防護服が立っていてスプレーを構えているのがとても恐ろしい。


「それじゃ改めて説明するよー!今年の寮主催のレクリエーションは宝探しでーす!こーんな感じの箱を寮の共同空間にいーっぱい隠したから1年生は頑張って探してねー!でもって2年生は探すの邪魔するよ!3年生は審判とかいろいろだから中立になるよー!」


また妙な踊りを踊りながら説明がはじまった。
茶色の可愛いワンコが踊ればそりゃ大騒ぎだろう。防護服スプレーが怖いからほどほどの騒ぎだけれど。


「宝探しねえ」


呟きながら配られたプリントを見つつ、一緒にまわってきたタスキも見る。新入生のみを色分けするらしく、何事もやっぱり律儀だと思う。


ちなみに、タスキの色は赤。そして、高塚が両手で抱える箱は手の平サイズ。
どれも普通の、画用紙で作られたと思われる箱で確かにあれなら大量生産も可だろう。


「ルールは簡単!1年生は箱を探すー!2年生は邪魔しながら箱を隠すー!箱の数で勝者が決まるよ!」


それはまた荒れそうなルールだ。
要するに1年と2年のガチバトルと言う訳で。
右腕に懐きっぱなしのサチがきらきらと輝いているではないか。


「ちょっとくらいの乱闘だったらオッケーだけど審判はいっぱいだからね!無茶したら会長と風紀からペナルティだよ!プリントに書いてあるからよーく読むんだよー!」


流石、血の気の多い男子校のレクリエーションと言う所か。
これじゃ親睦ではなく亀裂が深まりそうな気もするのだが、ロビーは大騒ぎで拍手喝采だ。
若干青い顔の生徒も見えるが、そういう生徒の側には黒バンダナの生徒がいるから割と細かく調整されているのだろう。いつの間にか友秋の側にも黒バンダナの3年生が2人ついていた。


「楽しそうだね瑛麻君♪やりたい放題だよね〜♪」
「サチ、楽しそうな所とっても残念だけどちゃんとプリント読んだ方が良いよ。これ、ルールもそうだけど罰則の方が多いから」
「は?」


何だそりゃ。
首を傾げる瑛麻のプリントをサチも見て、後ろから覗き込むカオルが読みはじめた。
瑛麻より若干身長が高いカオルにのし掛かられると重たい。


「なになにー。えーっと、
嬉し楽しレクリエーションだよー。は高塚先輩の字だな。後は・・・これ、風紀の文章だぜ。おっかねー」



ルールは簡単☆ 箱を探す。箱を隠す。邪魔する。だけ☆


箱は寮内の共同空間にのみ隠されています。
場所は2年生だけが知っています。
各個人の部屋は当然ながら、レクリエーションが終わるまで一切の出入りは禁止です。箱隠しちゃう人がいるからねー。


箱を探すのが1年生。邪魔して隠すのが2年生。
3年生は全て役員だからゲームには関わりません。と。


審判が白のバンダナ。黒が警護員。
生徒会役員並びに風紀委員、着ぐるみも除外な訳ね。


んで。罰則が・・・。


罰則その1、黒バンダナに手を出したら校庭10週を一ヶ月間毎日で風紀指定の仮装付。
罰則その2、下級生上級生に関わらず無抵抗の者をボコったらトイレ掃除一ヶ月と風紀院長の説教に反省文、原稿用紙100枚。
罰則その3、基本的には暴力なしで奪う事。目に余る場合は運動部猛者からお・し・お・き☆
罰則その4、上級生が下級生を虐めるの禁止。先輩顔して虐めたら精神を鍛え直すから夏休みまで風紀委員会警備の下で特訓。


罰則その5、特別ルール。
勝手に因縁付けてボコるの禁止。
特に以下の生徒を要注意人物としてガードを付ける。特別ガードはそれぞれピンクのバンダナ着用の事。もちろん手出ししたり逃亡したら生徒会から特別ペナルティプレゼント。


「・・・だって。喜べサチ、名前があるぞ」
「うそ!何でー!」


ルールと言えばそうなのだろうが、瑛麻から見れば呆れる他ない。
どういう感覚なのか、全くついていけない。
何より名指しで指名されたサチも・・・うん、これは分かる。
悲鳴を上げるサチの側に頼もしい、とは言いたいけど言えない影がひとつ。


「お前が暴れるからだろうが。サチ専用の見張りは俺だからな。逃げたらペナルティで一年間、俺の補修な」
「兄さん!」


会長だ。今日も男前で、苦笑する姿もがっちりとサチの頭を押さえる姿も格好良い。ピンクのバンダナで頭を包んでいても格好よ・・・。


「何でガードがピンクのバンダナなんだ?」


これは最初に聞いておかないと会長にも申し訳ないだろう。
それは瑛麻以外も同じ意見だった様で、視線が会長の輝くピンクのバンダナに釘付けだ。


「何でって余っている色がなかったんだよ。黒は護衛用だし白は審判だし、他の色は何かしらの役員や腕章と重なるし。似合うだろ?」


男前は何でも似合うと言う事か。悔しいけれど頷くしかない。
こっくりと全員で頷いて、納得したら今度は抗議の順番だ。
だってサチのガードならば必然的に全員の監視役にもなるじゃないか。


「いや、俺はサチ専用のガードだから。まあお前らもほどほどにな」
「えー!ヤだよ!暴れたいのにー!」
「だから名指しされるんだろうが。俺の苦労もちょっとは労れ弟よ。ほら、銅鑼が鳴ったら開始だから楽しめよ」


は?銅鑼?
銅鑼ってあれか、良くテレビで見るあれか!
ここでも驚くのは瑛麻一人で他の面々は当然の様にお立ち台を見る。


「本当に銅鑼かよ。どーなってんだ、ココ」


一人ボソリと呟いても誰も相手にしてくれない。寂しいと言うより異世界に入り込んだ気分でがっくりと肩を落とせば茶色のワンコが力一杯銅鑼を鳴らした。






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