太陽のカケラ...38



桜も満開。天気も快晴。

教室に入る日差しは暖かく、授業中でも休み時間でも船を漕ぐには最高だ。


騒がしい学園生活も数日を経て、騒がしいのは変わりないし、さらに騒がしくはなっているけれども概ね平穏でもある。
それは瑛麻だけかもしれないが。いや、確実に瑛麻の周りの連中も平穏だろう。そもそも大事があっても動じる様な可愛いヤツは一人もいないと断言できる。
あ、友秋は可愛いヤツだから違うけど。


週のはじめ入学して、ようやく明日で週末だ。
休みには司佐が迎えに来てくれると言っていたから今から楽しみで何となくテンションも高い。
週末だけの休みで日曜日には寮に戻らないといけないけど何をして過ごそうか。


週末のテストも周りの阿鼻叫喚もさらっとスルーしつつ適当に終わらせて、待望の放課後。
後は寝て待てば休み!とても幸せな気持だ。


なんて。
全ての行事を忘れている瑛麻がのんびりと、周りは賑やかに寮に戻った途端。


「一年生のショクン!お帰りー!さあさあはじめるよ!ロビーから動いちゃダメだからねー!」


既にそれははじまっていたらしい。
がやがやと人で溢れる寮のロビーには既に懐かしい、机を重ねたお立ち台とその上でひょこひょこ踊るメガホンを抱える高塚の姿があった。
相変わらずの着ぐるみ姿で今日は茶色のワンコ仕様。あれはうっかり持って帰られても文句は言えないと思う。


ではなくて。


「何だあれ?」


ぽかんと口を開ければサチに背中を叩かれた。だから痛いんだって。
サチを睨めば大きな目で睨み返される。ついでに周りからも呆れた視線でさくさくっと刺された。こっちも痛い。


「何だって、週末はレクリエーションだって言ってたじゃない。もー、瑛麻君、意外とボケボケだよね。あ、トモちゃんは絶対に側離れないでね」


そう言えばそんな事も言っていたかもしれない。
きょとんと首を傾げれば今度はナオに引っ張られて移動だ。


ロビーには全校生徒が揃っている様でとても狭い上に野郎ばかりで大変むさ苦しい。
それはどこでも一緒だけど、ロビーに固まると流石に辛いものがある。


「レクリエーションて何やるんだ?」
「さあ、毎年違うから何とも言えないかな。ちょっとカオル、遊佐、何で踊ってるの!遊んでる暇があるならこっち来てトモ君の警護!」


ナオが怒鳴った方向を見ればこの人混みの中でも器用に踊る阿呆が2人。
机の上で何が楽しいのかハイテンションでカオルと遊佐が踊っていた。
何やってんだあいつらは。いつの間に移動したんだか。


「ん?寮生のレクリエーションなのにカオルと遊佐も参加なのか?」
「だって俺らも風呂入るし食堂使うし、毎年景品が食堂の食券だから張り切るし?」
「そうだぜ。俺らだって寮生じゃないけど生徒だからな。篤斗!そっちで威嚇だけすんな!役立たず!」
「もう良いから早く来い!竹刀は持ってるんだろうな」


お祭り騒ぎ、と言う訳か。にしても何やら物騒な単語が飛び交うのは気のせいだろうか。
どこまでものんびりと、ナオに引っ張られるままロビーの中央に進んで入寮式と同じく机の上に座る。
周りにはいつものメンバーと、やけにがっちりガードされている友秋と、竹刀を持つ篤斗の姿。


「はー。何だか大がかりなんだな。つかお前ら、何そんなに友秋ガードしてんだ?何かあるのか?」
「何かあるって、何かあってからじゃ遅いからこうやってガードしてるんじゃない、瑛麻君ってばもー本当にのんびりなんだから」
「この人の多さとレクリエーションだから警戒してるんだよ。去年もいろいろあったし、基本強制参加だし駄犬は役立たずだし」
「バカ騒ぎだと体力ある奴らが危ないんだよ。気づきたかないけどトモみたいのが狙われやすいんだ。で、一応警護専門の生徒もいるけど念のためと俺らが勝手に守りたいからって訳」
「ちなみに警護の生徒は3年生で黒のバンダナだぜ」


サチ、ナオ、カオル、遊佐。
順番に説明してくれるものの何ともきな臭い説明だ。
げんなりする瑛麻に友秋が申し訳なさそうにしていて、篤斗は無表情で周りを威嚇している。


「・・・面倒臭せえから片っ端からフルボッコで良いんじゃねえのもう」


考えるのもげんなりだ。
うんざりと肩を竦めればサチの瞳がきらんと輝く。


「瑛麻君、頼もしい♪それ、やるならボクも誘ってくれるよね、もちろん」
「それ、俺らも誘ってくれるんだよな?」


左腕に懐かれて甘い香りがふわんと鼻を擽る。
だから笑顔が可愛いのに怖いんだっての。と思えば後ろからカオルと遊佐も乗り気だ。


「君達、バカな事言ってないで、ほら、説明がはじまるよ。あ、でも実行時にはもちろん僕も誘ってくれるよね、瑛麻君」


ナオまでもが後押しする。
輝く笑顔なのに全員目が笑っていない。怖い。


「お前ら、実は結構苛ついてるだろ。俺が言い出しっぺだけどおっかねえっての」
「だってムカつくじゃない♪折角のレクリエーションだもん、ちょっと暴れちゃおうかなー」
「しょうがねえなあ。サチ、暴れるなら最初に言えよ。こーゆーのは闇討ちが楽しいんだからな」


とは言え瑛麻としてもこの状況はとても面白くない。
うっかりサチと一緒に輝く、笑ってない笑みを浮かべれば止める気のないカオルにぺしっと後頭部を叩かれた。






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