太陽のカケラ...37



桜の名所と言う訳ではないが、学校と言うものは往々にして桜が多い。
この学園もそうで、広大な敷地だから桜の数も多く、この時期は毎日お花見だとあちこちで生徒が宴会ならぬお食事会を開いているらしい。

樹齢なんて知らないし、ただ桜が綺麗と言うだけだけれども、そこは日本人。
桜があれば花見でうっとり見上げたり、シートを敷いて騒いだり、楽しみ方は人それぞれだ。

「・・・本気でぶっちぎりだったもんねえ、兄ちゃん。これから大変なんじゃないの?」
「べっつに。他のが目立ってるから大丈夫だろ。それよか俺はお前の方が心配だぞ、和麻。ストレス溜まりまくりじゃねえか」

100m競争は瑛麻の独壇場だった。それはそれはもう、陸上部も驚く速さでぶっちぎりだった。
だからこそ、今の花見なのだが、あの後は確かに大変だった。

運動神経と言うよりは集中力。それも極度の集中で為し得たスピードで勝ち取った一番にサチやカオルにもみくちゃにされたと思ったら次は陸上部をはじめとする運動部からの勧誘。
放課後まで追いかけ回されて面倒臭くて、一番しつこそうなヤツらをかたっぱしから蹴り飛ばし殴り飛ばし今に至る。

ちなみに、この人気のない素晴らしい場所はサチから教えてもらった場所だ。
夕食もきっちり奢ってもらって、風呂に入る間の一時をゆったりと過ごしている。

賑やかな学園生活も悪くはないが、元は和麻と二人きり、こんな静かな時間の方が多かった瑛麻だ。
とても落ち着くし、側で瑛麻に懐く和麻もリラックスしていて何よりだ。
瑛麻だけが気づいた和麻のストレスはもっぱら目立っている事に対してと、慣れない一人きりの生活によるもの。
そこは瑛麻も同じだが兄と、ずっと兄の後ろにいた弟とでは差があるのはしかたがない。

「綺麗だね、桜。賑やかだし毎日騒がしいけど、ストレスも溜まるけど、結構好きだよ。ここ」
「俺もだ。でもまあ、偶には避難も良いかもな。ほれ、膝枕してやる」
「嫌だな兄ちゃん、僕が乗ったら重いでしょ。こうしてるだけで安心するから良いよ」
「そっか?じゃま、もう少し桜を堪能したら戻るか」
「・・・うん」

瑛麻と和麻。いつでもベタベタしている印象があるが、そうでもない。
ただ側にいれば落ち着くし、今までがずっとこうだった。
側にある兄弟の気配にほっと息が吐ける。桜の木に寄りかかり、ぼけっと見上げるのはうっすらとライトアップされた桜の木。
綺麗で、落ち着く。

「週末はどうするの?」
「帰るに決まってんだろ。司佐の所だけどな」
「あの豪邸じゃねえ。父さん達虐めるのも楽しいけど、それだけじゃつまらないもんね」
「バタバタしてたから顔出しもしたいしな」
「だよねえ。連休は来月だし、長いなあ」
「まあでも、割と楽しいから良かったぜ。バカ親父に感謝はしないけどな」
「大丈夫。後でいっぱい虐めておくから」
「おう。止めねえぞ」

ぼそぼそと喋りながら偶に笑ったり。
まだ冷える空気がのんびりと夜を深くしていく中でどうにも腰が重たくなってしまった。
このまま延々と桜を眺めているのも良いかもしれない。二人だけ、特に何する訳でもないこの時間がとても落ち着ける。


ひらり、ひらりと舞い散る桜はそろそろ終わりそうで、これからもっと暖かくなるだろう。
新しい生活のはじまりに、今だけはのんびりと二人だけの空気を思う存分味わって。

「・・・そろそろ寝るかあ」
「ん。また明日ね、兄ちゃん」



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