太陽のカケラ...36



体育。で、男子校。と言えばただただむさ苦しいだけだ。
のんびりと会長と鏑木を見送った瑛麻達も慌てて体操着に着替えてグラウンドに集合したのだが。

「なんつーか、体育って体操着なんだよな。何でユニフォームが紛れてるんだよ」
「だって体操服はあっても私服でも良いんだもん。ただ兄さんも言った通り汗臭いまま歩いたら罰則規定にひっかかるけどね」
「・・・基準がさっぱり分からん」

体操服は一般的、と思われる体操服だ。
動きやすいジャージ一式が人数分用意されていて、サチはジャージをしっかりと着込んで、瑛麻は上着を腰で結んでいる。カオルと遊佐は上が半袖で元気な事だ。
しかしユニフォームが若干紛れていたり、私服が紛れていたりと体育の時間でも賑やかだ。
それに、どうやら瑛麻のクラスだけではなく、少し離れた所に集まる生徒達がいる。

「って、和麻じゃん!おーい!かーずまー!」

良く見なくともも頭一つ出ている弟は目立つ。
大きく手を振れば和麻が満面の笑みで手を振り返してくれてぱあっと瑛麻にお花が咲く。
ついでにクラスメイトがざわめいてカオルの呆れ溜め息が落ちる。

「瑛麻、お花が出てるって。ほら、鈴木先生が呆れてるぜ」
「呆れてるんじゃなくて驚いてるんだ。院乃都がこんなヤツだったとはなあ。向こう側は中等部の授業してるから邪魔すんなよ。んで、最初の授業だから軽く測定するぞ。整列ー!」

がやがやと整列しつつ、教師が点呼をとりながらクラスメイトとなにやら騒いでいる。人気のある先生らしく、気さくで良い感じだ。ただし声は大きいが。
何て思いながらぼんやりと説明を聞きつつ流しつつ、どうやら体力測定をするらしい。
賑やかなままグラウンドに散らばって、瑛麻は見知った顔に囲まれつつ中等部の授業に釘付けだ。

「まあ、目立つもんな、弟。すげえ騒ぎだ」
「ホント格好良いなー。SSの中でもひときわ目立ってるぜ」
「足も速そうだし、注目度がハンパないねー瑛麻君の弟君」

じいっと和麻を見る瑛麻の後ろで、遊佐、カオル、サチも中等部の授業を眺めて関心している。
そうだそうだ、和麻は格好良いんだ。
中等部の中でも目立っている様で、和麻が動く度に軽いざわめきが瑛麻達の方まで聞こえてくる。
運動神経は良いし、あれで喧嘩もできる立派な弟だ。けれど。

「ありゃあストレス溜まりまくってんなあ。後で撫でてやらなくっちゃ」

笑顔でクラスメイト達に囲まれる和麻だが、瑛麻にはちゃんと分かる。
あれはストレスの溜まっている顔だ。慣れる環境で疲れもあるのだろう。
ウチの弟は繊細だからなあと一人腕を組んで呟けばしっかり聞こえていたらしい3人が驚きながらも、もう慣れっこだと言わんばかりに小さく溜め息を落とす。

「もう慣れたけど、うん、いいや。瑛麻君、ボク達も走るよ」

サチに肩を叩かれて遊佐に背中を押された。もう順番か。
ようやく体育の授業中だと思い出してのろのろと移動すればトラックで100m走のタイムを計っている様だ。
そう言えばこのクラスは普通クラス。特待生もいないし勉強も運動も極々普通の生徒達、のハズなのだが瑛麻の周りに関しては常識が当てはまらなそうで。

「どうしてお前らと一緒なんだよ。明らかにハードル高いじゃねえか」

スタートラインで順番を待つ同じ列。内側から瑛麻、サチ、カオルに遊佐。どんだけハードルが高いんだ。
他のクラスメイト達もにやにやしながら眺めている。

「瑛麻がぽけーっと弟に見惚れてるからだろ。俺らで最後なんだし、まあ、頑張れ頑張れ」
「俺とカオルは普通だからな。サチは違うけど」

嘘だ。絶対嘘だ。うろんな目でカオルと遊佐を見ればクラスメイトが笑っている。ほら見ろ。

「大丈夫だよ。瑛麻君、運動神経良さそうだもん。一番最後の人が特大プリン奢りね♪」
「げ、何恐ろしい事言ってんだよサチ。まあ負ける気はないけど?」
「じゃあ俺は妨害にまわるか」

瑛麻を残して何やら3人で盛り上がっている。その内容がちょっと恐ろしいが3人ともやる気に満ち溢れていて元気な事だ。
瑛麻も足が遅い訳ではないが、このテンションについていくのも疲れそうだし、ここは手を抜いて和麻見学に本気を出すべきか。
なんて思っていたのだけれども。

「瑛麻も参加しろよなー。そんな達観した顔なんかしちゃってさー。じじむさいっての」
「そうだよ。あ、でも瑛麻君あんまり食べないもんね。じゃあ瑛麻君が一番だったら夕ご飯奢りにする?」
「どうせなら弟も一緒に奢りだな。2人分でもサチより少ないだろ」
「ああ?・・・あー、そうだな。俺と和麻の分だったら乗ってやる。ついでに夜桜見物できる静かな場所も教えてくれるんなら全力で行くぜ?」

思いついた。こんな騒がしい環境から抜け出して和麻と一緒に夜桜見物。何て良い案だ!
きらんと輝く瑛麻に話を振った方が若干引き気味になったが、本気を出すとの言葉にサチの顔が輝いた。

「いいよ。とっておきの場所教えてあげる。だから本気でね、瑛麻君♪」
「おう。そうとなりゃ張り切って行くぜ!」

瑛麻らしくなく声を張り上げれば話の内容を聞いていなかった教師が満足そうに頷いた。
静かに息を吐いて、スタートラインに立つ。並ぶメンバーにクラスメイトがざわめいて、中等部の注目も集めている様だ。
瑛麻は和麻の視線を感じているが、恐らく目立っているのはサチやカオル達だろう。

静かに深く。集中するのは嫌いじゃない。好きだ。自分の中の空気が澄んでいく感じが特に好きだ。
自然と口元に笑みが浮かび教師がホイッスルを銜える。

うん、偶には本気でやってみようじゃないか。



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