太陽のカケラ...35



「会長から聞いてたけど、また目立つのが来たなあ」

抱き合う瑛麻と和麻を呆れながら見下ろすのは言葉からするに先輩で、また嫌になる程の男前だ。
但し会長とは種類が違い、こっちはキラキラの王子様と言った所か。
茶髪に癖のある髪、白くて細身で長身。顔立ちは甘く整って男らしさより女性らしさを感じる。綺麗、と言うべきだろう。
なぜか黒のカフェエプロン姿で、白に黒のラインが入った腕章をしている。と言う事は調理部か。

「まあ、まだラブラブの世界から返ってきてないみたいだけど、一応紹介しておく。こいつは風紀委員長の鏑木栄市(かぶらぎえいいち)な。まあ腕章を見れば直ぐ分かるるけどな。んで、委員長だけど2年。細っこいけど強いぜこいつも」
「よろしく。ラブラブ兄弟の為に自己紹介してやるから有り難く思えよ。今紹介されたけど、鏑木栄市だ。まあ好きに呼べ。風紀の総委員長で調理部の部長で2年Aクラス。で、どっちが兄?」
「小さい方が兄の瑛麻で高一でサチと同じクラス。大きい方が弟で中三な」

さらっと会長に紹介されたものの酷い紹介の仕方だ。
ようやくラブラブの世界から戻った瑛麻がけっと会長を睨んで、でもまだ離れがたくて抱き合ったままだ。
そんな瑛麻と和麻に周りはもう何も言う気力もない様で、会長と、鏑木と紹介された生徒が空いている椅子を持ってきて勝手に座る。

直ぐに会長のファンらしき生徒が飲み物を持ってきてくれた。
どうやら入れ替わり立ち替わりではあるものの、順番と言うか当番制になっているらしく輝く笑顔の生徒が瑛麻達の分も持ってきてくれた。
躾の行き届いていて良い事だ。
ありがたく持ってきてくれたウーロン茶を飲みながら当然の様に瑛麻の正面に腰掛けた会長と鏑木を見る。

「んで、飯食い終わってるのに何か用なのか?」

抱き合ったままじゃ飲みにくいから和麻に寄りかかったまま、ストローを銜えたままで喋ればなぜかナオが頭を抱えてカオルと遊佐が横を向いた。
会長は面白いものを見る目になって、鏑木はにこやかな表情を変えずに視線をちろりと巡らせる。

「噂の院乃都を見学しにきた。俺の家は関係ないけど一応付き合いあるっぽいしな。それと、できれば風紀委員に勧誘しようと思ったんだけど、興味なさそうだから止めておくわ。調理部の方はいつでも大歓迎な。但し料理の一つくらいちゃんと覚えてくれよ。なあ?カオル、遊佐」

すらすらと綺麗な声が最後にさくっとカオルと遊佐を射した。
視線だけ首を竦めてあらぬ方向を見ているカオルと遊佐に向ければそれだけで瑛麻と和麻のお花畑とはまた違う、ゴージャスな花が咲く。すごい。

「どうする兄ちゃん?何か楽しそうだねえ」
「料理はできるし、まあ暇もありそうだし見学行ってみるか」

和麻の腕が瑛麻の身体にまわって何だか本物のラブラブカップルだ。
鏑木はカオルと遊佐をさくさくと言葉で虐めて、周りは見学して笑っている。
おかしな空間なのに突っ込みがいない。話も進まない。

「いや進めるぞ!俺ら次の授業体育なんで、鏑木先輩お小言はまた後で。今度うんまいイチゴ持参しますんで」
「俺ん家の野菜も献上しますんで!」

予鈴が鳴る直前、カオルと遊佐が思いきり立ち上がれば鏑木がとっても残念そうに舌打ちした。
綺麗な顔は舌打ちしても綺麗なままだ。
そのまま何も言われまい、とカオルと遊佐はダッシュで食堂を出ていってしまった。

「って、え、体育?」

そんな中で瑛麻だけが首を傾げてまだ和麻の腕の中で寛いでいる。
何もかも忘れている瑛麻だから当然の様に時間割も忘れて、と言うか知らないでいたらサチとナオが盛大に溜息を落として会長ですら頭を抱えている。

「あのね、瑛麻君。そんな所も魅力かもしれないけど、体育は体操着に着替えるんだよ。私服じゃ汚れるしね」
「ちなみに、体操着は体育の時間以外は着用禁止だからな。汗臭いし汚ねえし速攻ランドリーに出せよ」

会長兄弟に呆れた視線で刺されつつも体操着?とまた瑛麻の首が傾く。見た事がないからだ。
不思議に思っていれば今度はナオが説明してくれる。

「体操着は教室の後ろのロッカーに全員分が入ってるよ。終わったらそのまま戻せば学園側で回収して洗濯してくれるよ。何せ臭いし洗濯物って言っても男子高生がそうマメにする訳がないからね。でも割と大ざっぱにしか揃えてないからサイズはだいたい大きめかな」

それはそれは便利な事だ。感心していれば瑛麻と皆のやり取りに我慢できなかったのか、鏑木が盛大に吹き出して腹を抱えながら立ち上がった。
ひらりと返すエプロンの裾が綺麗に揺れる。

「院乃都兄、面白いなー。そんじゃまあ俺も退散しますかね。まあ調理部に興味があるならいつでも歓迎。ついでに風紀もな。それと篤斗、俺に蹴られたくなかったら、きっちり守れよ。男ならな」

笑いながらも最後は綺麗な顔が真剣になって篤斗を睨んだ。ここでも篤斗と友秋は有名らしい。
無言で気まずそうに頷く篤斗をサチがひっぱたいて友秋が慌てている。

「じゃあな。会長、サンキュ。面白くなりそうだわ」
「だろ?それじゃ俺も戻るかね。サチ、あまり暴れるなよ」

会長も立ち上がれば食堂の空気がざわりと揺れて、鳴り響く予鈴と共に後ろ姿ですら目立ちながら食堂を後にするのを見送った。



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