太陽のカケラ...26



大浴場は高等部の寮と中等部の寮、それぞれにある。
全校生徒が入れる広さではないが、それなりに広く、テレビでコマーシャルをしている旅館の風呂より大きい。暖かいプールみたいなものだ。
それに洗い場と脱衣所。野郎ばかりで大変にむさ苦しい。とは言え、大浴場組はある程度固定されているらしく、イモ洗い風呂になる事もないらしい。

「使い方は周りを見れば良いよ。まあ普通のお風呂だしね」
「・・・向こうに見える水鉄砲で遊んでる奴らは普通の風呂扱いで良いのか」
「細かい事を気にしたら負けだよ。そうそう、露天風呂もあるからね」

高校の、寮の風呂なのに露天風呂付きか。それはちょっと楽しみだ。
ばっさばっさと服を脱ぎ捨てていけば周りも同じ様な感じで脱ぎっぷりが見事の一言。
優劣をつけるなら男らしさでサチが一番豪快だ。思わず感心していればナオが笑いながらだから大浴場組が限定されるのだと教えてくれる。
そうか、誰もが人前で素っ裸、に抵抗がない訳ではないもんなと瑛麻も納得する。周りを見ればこの風呂で腰タオルをしている者もいない様で。

「なるほど、サチは将来会長みたいにでかくなるんだな」
「ちょっと瑛麻君、どこ見て言ってんの」
「ドコって、見るのは一カ所だろうが」
「そう言う瑛麻君だって・・・イイ身体してるよね」
「どうせ普通だよ。腹の皮を抓むんじゃない」
「お肉じゃないだけいいじゃない♪」

風呂に向かいながらサチと戯れて、そう言えばここではサチの裸を見ても平気な奴らだけの様だ。
確かにナニは立派だが(くそう)そう言う意味では野郎の風呂なのか。大変にむさ苦しいが極々普通の風呂の様だ。

「残念ながら違うよ瑛麻君。サチの裸みておかしくなる奴はことごとく折檻されて再起不能になってるから。サチの手で」
「ああ。そんな気もちょっとしてた」
「この時間帯が一番安全だよ。会長兄弟とか人気のある人がまとめて入るからね。瑛麻君も気をつけた方が良いよ。君、妙な色気あるし」

風呂に入るなり真っ先にアヒル隊長を浮かべにいったサチに変わってナオが教えてくれるが一言余計だ。
眼鏡を外したナオは何て言うか、少しイメージが変わって男らしさが全面に出ていると思う。
会長は身体も洗わずに水鉄砲隊に加わって楽しそうに遊んでいるから子供っぽさが増したと言うべきか。

「風呂でも賑やかなんだな、ここ」

頭と身体を洗い終わって湯でまったり。なんて考えは一切ない様だ。
露天風呂もあると言っていたが、どうもその方向から歌声が聞こえてきてあっちも賑やかそう。

内風呂では会長をはじめとする水鉄砲隊が暴れまわり、浴槽の一角ではどうしてだかアヒル隊が結成されている始末だ。
大人しく風呂に浸かっているのは瑛麻とナオ、それに見知らぬ生徒が数人と言う所か。

「僕達は僕達でのんびりしようよ。あの騒ぎに巻き込まれたらお風呂所じゃなくなっちゃうしね」
「そうだな」

体力の有り余る奴らが多いと言う事か。
生憎と活動的ではない瑛麻だから折角の大浴場くらいのんびりしたい。ナオと並んでぼんやりとしてたい。のだが。

「若者が年寄りみたく湯に浸かるだけなんてつまらんぞ!瑛麻、体力余ってそうだな。入隊するか?」
「会長は元気過ぎなんだよ。俺は年寄りでいいんだよ。つか、水鉄砲で何やってんだ?賑やかだけど」
「何だつまらんな。これは男と男の勝負だ!やらねえんなら邪魔するなよ!」
「しねえよ。むしろ俺の邪魔すんな」

誘う割にはあっけなく湯を掻き分けて行ってしまった会長の背中に文句を言って溜息を落とす。
しかし男前が素っ裸で水鉄砲。良いのだろうか、あれが生徒会長で。

「会長のファンは一緒に入浴しないから。って言うか、できないから」
「できない?」
「好きな人の裸を見て大人しくしていられる?」
「ああ・・・どいつもこいつも、だな」
「ホントにね。瑛麻君が枯れてて良かったと思うよ」
「失礼な」
「だって君、あちこち見てる割には動揺していないし、サチ相手にも普通だし。珍しいんだよ、そう言う人って。だからサチも懐くんじゃないのかな?」
「野郎は野郎だ。それに俺の好みは違うんだよ」

残念ながら瑛麻の好みは一回り以上の年上で固定されているのだ。
いくら会長が格好良くても、サチが美少女でも野郎には違いないじゃないか。
まあ、瑛麻の恋人も野郎と言うのは置いておく。

「どれ、露天風呂でも行ってみるか、あの合唱団は無視して良いんだろ?」
「あれは基本無害だから大丈夫だよ。行ってらっしゃい」

ナオに手を振られて歌声の聞こえてくる方に行ってみる。
露天風呂なんてなかなかじゃないか。

扉を開ければ冷たい空気に一瞬竦んだ。



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