太陽のカケラ...25



「あのね、サチ君と一緒にお風呂って、すごいんだよ。会長も一緒の事が多いし、それと付随して生徒会とか風紀の人達も来ちゃうし、運動部の人達もね」

どんな広さだ。じゃなくて、どんな人選だ。風呂なのに人を選ぶのか。
今度は瑛麻が微妙な表情になってしまうじゃないか。別に野郎同士で風呂に入るだけなのに。銭湯と一緒じゃないか。
いや、その前に。

「お前も一緒に入ってくんのかよ。もう俺に喧嘩売らなくて良いのか?」

さり気なく一緒に部屋に入ってきた篤斗だ。
無言で友秋の側についていて、今度は喧嘩を売る気は無さそうだが一応からかってみる。そうすると、驚いた事に頭を下げた!

「さっきは、悪かった」

驚いて座ったソファから落ちそうになった瑛麻だが、流石に落ちたら酷いので耐える。

「なーんか、随分しょぼくれてねえか?何だ、サチか?会長か?それともナオか?」

思えばことごとく酷い扱いだった篤斗だ。
友秋は苦笑しながら瑛麻の向かい側に腰を下ろして、篤斗はその隣に座る。

「言うなら全部だ。一応、俺が原因だってのも分かってるが、友秋は誰にも渡さない!」

途中までは良かったのに最後で崩れてしまった。
こりゃダメだ。呆れる瑛麻に友秋も肩を竦めている。

「友秋、いっつもこうなのか?これ、疲れないか?」
「・・・お風呂はね、お風呂セットを作っておくと良いよ」

スルーされた。しかし呆れと困惑の混じった表情だから分かってはいるのだろう。それでも好きだと言う事か。
不自然な動きでキッチンに消えた友秋に篤斗が熱視線を送っている。本当に、何と言うか。

「お前のそれ、好きすぎてストーカーになる部類じゃないのか?」

思わず正直に思った事を声に出してしまった。いやだって、そうとしか思えないのだ。
これは友秋が受けたから相思相愛だが、万が一断られていたら一直線にストーカーになりそうな。

「失礼な事を言うな。何で俺がストーカーなんぞになるんだ。確かに友秋は好きだし愛してる。それだけじゃないか」

それだけが怖いんだろうが。今度は声に出さずに耐えて、溜息に止めておく。
関わってもロクな事にならなそうだし、さっさと離れるに限る。

「友秋~。お風呂セットって何持ってけば良いんだ?」

だからそそくさとキッチンへ入って友秋の所に逃げた。
別に篤斗が怖い訳じゃない!でも・・・うん、やっぱり怖い。



お風呂セットは今から銭湯に行くぜ、的な装備で良いらしい。
とりあえず荷物を漁ったらいろいろ出てきていたので、その中から瑛麻の使っているシャンプーとリンス、ボディーソープ(この辺りは和麻セレクトだ。良くできた弟を持つとラッキーである)、それに身体を洗う用のタオルと、バスタオル。後は着替え。普通だったらこれで良いはずだ。
なのに。

「瑛麻君のお風呂セット地味~。アヒルさんはいないの?」
「何でバスローブがないの?不便じゃない?」
「パジャマも普通だな。つまらん」

最初からサチ、ナオ、会長。
いったいこいつらは大浴場に何を持ち込んでいるんだ。

「って、勝手に俺の持ち物を漁るな。これで普通だろうが。お前らの方が変なんだよ。どれ、どんだけ変か見せてみろ」

待ち合わせ場所はロビーで、瑛麻が来る前に3人が揃っていた様で、ソファ席でまったりしていてこの騒ぎだ。
最初から取り繕う気持もなかった瑛麻だ、既にこの空気に馴染みつつある。
両手を腰にあてて3人を見下ろせばそれぞれ当たり前の様に洗面器に入ったお風呂セットを披露してくれた。

「洗面器が標準装備なのかよ」

それぞれテーブルに並べられたお風呂セット。

私服の可愛いサチはお風呂セットも可愛かった。全体的に明るい色で統一されたセットの他にうさ耳パーカーのパジャマになぜかアヒル隊長。
よく子供がお風呂で浮かべるあれだ。

会長は使いやすい物が優先らしく色の統一はない。
但し、どうしてパジャマが紺色の浴衣で水鉄砲が入っているのだろうか。

一番マトモに見えたナオはやっぱりバスローブが入っていた。

どうしよう、これがこの寮の、この世界の標準なのだろうか。
これじゃ確かに瑛麻は地味だ。地味で良いが。

「せめてパジャマくらい気張れよな。つまらん」

しかも会長にダメだしされてしまった。
鼻歌交じりで大浴場に向かう3人の後ろ姿を呆然と眺めながら大きい風呂は良いよな、なんて気軽に返答しなければ良かったと、今になって思う瑛麻だった。



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