太陽のカケラ...74



夕食時ともあって食堂は人でごった返しているが、食べ終えた連中はさっさと席を空けてくれるので回転率が良い。
瑛麻達も何なく席を確保できて、昼の様な大きくて丸いテーブルに並んで座った。

それぞれ注文した夕食を置いていただきますだ。
ちなみに、飲み物は各自勝手に取りに行く事になっている。ドリンクバーだ。瑛麻達の分はなぜか知らない生徒がうきうきと運んできてくれた。

「会長のファンだよ。向こうの一団がそう。人数多いけど一部以外あんまり害はないから。で、あっちで野太い歓声出してるのがサチのファン。運動部の猛者が多いよ。それで、向こうの嫉妬深そうな視線とねちっこい悪口吐いてるのが駄犬のファンね」
「一部に偏見を感じるが、そうらしいな。で、あそこでひそひそしながら見惚れてるのがナオのファンになる訳ね」
「・・・分かってきたみたいで何よりだよ」
「俺でも分かるくらい目立ってるんだよ、お前らが」
「・・・瑛麻君も目立ってると思うよ?」

四方八方から注目される夕食は微妙な味になりそうだが、気にする程繊細な瑛麻ではない。
あっさりと視線をシャットアウトして素うどんに手をつければ友秋が苦笑している。

確かに瑛麻も目立つだろう。何せ隣に座る和麻に素うどんに手をつける前からあーん、と付け合わせの漬け物を突っ込んでいるのだから。

「兄ちゃん、漬け物苦手だから。はい、ハンバーグ」

今度は和麻からあーん、とハンバーグを一口貰った。
ナオと話しながらこんな事をしいているのだから、目立って当たり前。
反対に、目立たないのは篤斗だ。会長と少し話しただけで無言を貫いている。
席もサチに蹴られて友秋とは離れている。こうなるとちょっと気の毒かもしれない。

「ま、暫くは馬鹿も大人しくしているんじゃないかな。入学式が終わった後は5月の連休まで忙しいし。週末は実力テストもあるしね」
「・・・は?おいナオ、今何て言った?」

さらりとナオの吐いた台詞に瑛麻一人だけが反応する。
周りは何を驚いているんだと、逆に驚いている様だが。

「テストだよ。何そんなに驚いてるの、瑛麻君・・・ひょっとして、知らない、なんて言わないよね」

知らない!心の中で盛大に叫んで、がっくりと肩を落とす。
そんな瑛麻の様子に知らなかったんだと呆れた視線が近くからざくざくと刺さって、和麻だけがひっそりと苦笑しながら説明してくれる。

「4月は実力試しのテストと、寮運営のレクリエーション、部活の見学と選択授業の見学、身体測定に体力テスト、生徒会主催の親睦会があるんだって、兄ちゃん」

概ねスケジュールは中等部も高等部も一緒だ。
すらすらと説明する和麻に感心するのは他の皆で、ぐったりと弟に寄りかかるのは情けない兄。
そんなに忙しいのか、今日だけでも忙しくて嫌なのに、これからも忙しいだなんて。
めそめそと和麻に抱き付けばしっかりと抱き返されてまた注目の的だ。

「本当に、仲が良いんだね、瑛麻君兄弟。ボクでも感心しちゃうや」

サチだけがちょっとズレた感想を述べるが、同意する者は誰もいない。
ただ、食堂内の注目が一気に瑛麻兄弟に集まったのは言うまでもない事実だ。

瑛麻と和麻の意見としては、食堂くらいでしか一緒にいられないのだから、多少密着度が高くても良いだろう。
と言う事になる。

今までずっと一緒だったのに突然離ればなれだなんて!と声を大にして言いたいのは和麻の方だが、瑛麻としても弟とずっと離れているのは寂しい。
夕食を終え、部屋に戻りながらさらりと和麻との仲について言えば感心されるより先に引かれた。失礼な。

「会長兄弟だって仲良いだろが。なんで俺らが引かれるんだよ」
「兄さんにくっつくの好きだけど、ラブラブじゃないし」
「違いが分かんねえよ」

会長は食堂で別れた、と言うよりも違う生徒に引っ張っていかれてこれから生徒会の仕事だそうで、ご苦労様だ。
しかし納得できない瑛麻は眉間に皺を寄せるが誰も同意してくれない。いいじゃないか、弟とラブラブだって。仲が良くて。

「まあいいんじゃないの?仲が良いみたいだし。それより瑛麻君、お風呂どうするの?部屋にもあるけど1階に大浴場もあるよ」
「風呂かあ。お前らはどうすんだ?」

大きい風呂にはちょっと惹かれる。
一緒に歩くメンバーを見ればサチとナオが大浴場組で、友秋と篤斗は首を横に振る。
まあ、友秋は人混みが怖いと言っていたし襲われる可能性もあるから大浴場なんてもってのほかだろう。

「んー、どうすっかな。デカイ風呂も良いよな」
「じゃあ一緒に行こうよ!8時過ぎに迎えに行くから」
「用意する物なんかはトモ君に聞けば良いよ、じゃあね」

まあ別に構わないし、風呂は大きい方が疲れも取れそうだ。
なんて気軽に考える瑛麻だが、二人と別れて部屋に戻った瞬間、友秋がとっても微妙な表情をして、一緒についてきた篤斗までもが妙な顔になっていた。



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