太陽のカケラ...23



育ち盛りの青少年。どんなに見繕って虚勢を張ったってご飯は美味しい方が嬉しい。
夕食時の食堂はまさにそんな雰囲気だった。

あちこちにカラフルな頭も見えるし変な格好の奴もいるけど、基本的に食事時のみ全校生徒が仲良しになるらしい。
明らかに合わなそうな奴らでも仲良く同席している姿が見える。

「だって美味しいもん♪ボク、焼き肉セットとカツカレーと月見うどん。あと杏仁豆腐とプリンね」

細いのに良く食べるサチの私服は自分の外見を最大限に利用した可愛い系だ。
タンクトップに丈の短い上着、八分のパンツ。しかもレース付き。どう見ても美少女だが、注文する量は男子高生・・・よりも多い。

「キツネうどんとハンバーグセット。アイスの6種盛りで宜しくな」

そんなサチの兄、会長はジーンズにTシャツと言うラフな格好だが、これまた良く似合う。
明らかにこの兄弟を見つめる視線が多いが、気にしてはいなさそうだ。

「どうしようかな。お腹空いたし、石焼きビビンバと焼き肉の単品でお願いします。あ、あとコーヒーゼリーも」

ナオは私服も優等生らしい格好だ。アイロンのぴしっとかかったシャツとスラックス。
・・・私服だと思うのだが制服よりきちんとしているのが恐ろしい。

「兄ちゃんどうする?みんな美味しそうだね」
「そうだなあ。昼にめいっぱい食っちまったし、素うどんとシフォンケーキで」
「もっと食べないと駄目だよ。ただでさえ細いのに。僕は鍋焼きうどんとおにぎりセットでお願いします」

和麻の私服は瑛麻と似た感じだ。大きめの白いパーカーにジーンズ。
体格の大きい和麻が着れば中学生には見えず、瑛麻達高校生の中に入っても違和感がない。むしろ瑛麻の兄と見られているだろう。

そして、そんな集団に囲まれてとっても居心地の悪いのが友秋と、部屋を出る時に鉢合わせした篤斗だ。
一度気絶した事で頭が冷えたと思った篤斗だが、あまり冷えた訳ではなく、出会い頭に瑛麻を殴ろうとしたので、さらりと避けた上に思いっきり殴り飛ばしてもう一度蹴った。
全ての動作を無言、無表情で行ったら多少は懲りたのだろう。今は無言で友秋にくっついているが、並ぶメンバーの豪華さに顔色が悪い。
と言うよりサチを見て顔色を悪くした様だ。

「え、瑛麻君・・・あの、一緒にいるのって」

瑛麻に誘われて付いてきたのは良いものの、すっかり足が止まって注文すらできない友秋だ。
瑛麻の服を引っ張って涙目で見上げてくる。

「先頭からサチに会長にナオと俺の弟の和麻な。明日になればカオルと遊佐もくっついて来ると思うぜ」

すらすらと名前をあげれば友秋から小さな悲鳴が聞こえた。気の毒だが、このメンバーだったら返って目立たないかも知れないと・・・思わなかったがしょうがない。少々申し訳ない気持で頭を掻けばサチが機嫌良さそうに瑛麻の腕にぶら下がってくる。

「あれ、トモちゃんだ。瑛麻君と知り合い?」
「瑛麻君は僕の同室なんだ」
「瑛麻君の同室ってトモちゃんだったんだ。ナオ、聞いて聞いて」
「聞こえてるよ。それで、後ろの駄犬は納得したの?」

顔見知りだったのか。友秋でトモちゃん、で、駄犬。
トモちゃんはともかく駄犬は酷い言われ様だが、篤斗は無言で視線を反らす。

「えっとね、ちょっと揉めて、篤斗が瑛麻君に蹴られて落ちちゃったくらい、かな」

友秋が言いづらそうに瑛麻を見ればなぜかサチとナオに感心されて、篤斗はますます視線を反らす。
何だ、普通こう言う場合は何か言っても良いと思うのだが。

「駄犬は駄犬だね。トモ君、早くご飯選びなよ。一緒に行こう」
「基本的に駄犬使えないもんね。兄さん、会長なんだからちゃんと躾けないとダメでしょ。いこ、トモちゃん」

随分な扱いだ。瑛麻の篤斗に対する扱いも酷いが、それ以上だと思う。
両脇をサチとナオに挟まれて持って行かれてしまった友秋を見送りながら、それでも篤斗は黙っている。

「って、アイツラ知り合いだったのか」

友秋の話では知り合いではなさそうだったのに。

「親しくはないが知り合いだぞ。まあ、中等部からの持ち上がりだから全員知り合いみたいなもんだ。それに、彼は有名だしな」

残されたのは瑛麻兄弟に会長、それに篤斗。
注文も決めたしカードを機械に当てながら先に行ってしまった3人を追う。篤斗も無言で何か注文した様だ。

「有名って、友秋がか?」
「そこの駄犬がな。正直俺も手を焼いているんだ。なあ、篤斗」
「・・・すみません」

やっと喋った。しかし妙な雰囲気だ。
人混みの中、食事を受け取るために並びながら、ついでに和麻が後ろから抱き付いてくるのを撫でてやりながら会長を見上げる。会長も妙な顔をしている。

「どこから説明すれば良いのか、複雑でもあるんだがな」
「友秋からある程度聞いたぜ。嫌がらせとか、アンタが後継者候補とか」

あまり人混みの中で話す内容でもないからと、小声で説明すれば2人があからさまに驚いた。

「そこまで知っているなら話は早い。そんな訳で可哀想だが守るにも限界がある上に、篤斗が絡めば絡む程、状況が悪くなる一方でな。それに業を煮やしてる生徒と、苛めに絡む生徒がきっぱり割れている状態で、2人が高等部になった事で事態はより一層悪くなるか良くなるかの瀬戸際だ。割と逼迫していてな。それで、サチとナオはあの通り、オマケにサチは篤斗を嫌っている」

分かる様な気がする。この閉鎖空間で淀んだ空気が妙な方向に突っ走っているのだろう。きっと、友秋以外にも被害はあるはずだ。
しかし、サチが嫌うと言うのは何かあったのだろうか。

「何かあったのか?」
「彼が襲われている現場にサチが通りがかってな。後は・・・大変だった」

そう言えばサチのあだ名は。
思い出して納得してしまった。さぞかし大変だったのだろう。男前の会長が情けない顔に歪み、篤斗は青い顔に逆戻りだ。

「その様子じゃ勢いのまま篤斗まで襲撃してそうだな」

状況的に有り得ない話ではなさそうだからと冗談交じりに言ってみれば2人揃って動きを止めた。

「やったのか。それであの態度か。納得した」
「それ以来、俺もサチも気にしてはいるんだが、俺らが絡めばまた状況がなあ。なかなか、思う様にはいかないもんだ」
「大変だな、生徒会長」

人気者にも悩みがあるらしい。
重々しい溜息を落とす会長はそれでも篤斗に軽い蹴りを入れた。



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