初対面の瑛麻に怖いと言う友秋は緊張の糸が切れてしまったのだろう。
瑛麻の登場で世界が変わった、まではいかないが、それに近い衝撃もあったはずだ。
「で、友秋がそんなに気ぃ張ってるのに、篤斗は何かしてるのか?」
「いろいろ、気に掛けてはくれるんだけど、えっと、その、篤斗のファンがね」
「構えば構う程面白くないってやつか。ったく、俺に警戒する前にてめえのファンくらい纏めて伸してこいってんだ。ん?って事はそんな馬鹿な奴らが結構多いのか、ここ」
篤斗程度、と言っては気の毒だが、正直瑛麻の周りにはほんの僅かな間にやたら派手な連中が固まっていたハズだ。
「いっぱいいるよ。人気があればある程、ファンも多いんだよ。外部から来るとおかしく思うでしょ。でもね、閉鎖されてる空間だから、どうしたって人の気持ちは掃き溜まって、大きくなるんだよ」
当事者だと言うのに冷静な意見だ。本来はこんな涙を零す気弱な雰囲気のない、真っ直ぐな人なのだろう。
今は偶々、弱い部分が出てしまったのだと思う。そう思えば尚更腹の立つ話だ。
「一番多いのが会長のファンかな。次が会長の弟の佐知君で、同じ位人気なのが副会長と風紀委員長。それと、各学年にいる地元組も人気だよ。他にもいっぱいいるけどね」
静かに怒っていたら聞きたくない事を聞いてしまった。
知らない名前もいるが、半分以上は今日一緒に行動していたじゃないか!
「それ、マジで?会長とサチ、地元組・・・?」
「そうだよ。すごいよね。特に佐知君とカオル君、遊佐君は1年なのにすごい人気なんだよ」
「・・・そうか、人気なのか。どうりで誰でも声掛けてると思ったぜ」
「瑛麻君?」
どうりで。やたらめったら注目度が高かったのはやっぱりアイツラの所為じゃないか。
確かに瑛麻の名も注目度はあるだろうけど、アイツラの方が。じゃなくて、今は友秋の話だ。
「明日から授業だろ。大丈夫なのか?」
今日は式典だけだったが、明日からは通常授業だ。
部屋に引きこもっている訳にもいかないだろう。
「大丈夫、じゃないけど、授業はちゃんと出るよ。あのね、変かもしれないけど、勉強、好きなんだ。篤斗もできるだけ一緒にいてくれるから」
勉強が好き。ふわっと微笑む友秋はとても綺麗だ。
本当に好きなのだろう。しかし、いくら篤斗がいると言ってもそもそもの原因でもあるし、クラスも違うはずだから距離もあるだろう。
「友秋はSSだったよな」
「うん。そうだよ」
「そっか。明日からは俺にも頼れ。ケーキのお礼と、片付けの先行お礼な。まあ、俺と一緒だと違う意味でも目立つかもしれんが、いないよりはマシだろ。ついでに今日知り合った奴らにも話し通しておく」
言うことを聞くかどうかは知らないけど、話を通すだけでも良いだろう。
まあ、瑛麻の方が悪目立ちする可能性もあるが、いないよりはマシだ。むしろ瑛麻に悪い注目を集めても良い。
勉強が好きなのだと、あんなに綺麗に微笑む人を瑛麻は知らない。それだけで友秋がどんな奴でも応援したくなると言うもので。
「あ、ありがとう。どうしてだろ、瑛麻君にそう言ってもらえて、すごく、安心しちゃった」
「そうか?俺じゃ役に立つ所か邪魔しそうでもあるけどな。じゃあそろそろ部屋の片付けでもするか。もちろん手伝ってくれるよな、友秋」
「うん!張り切って手伝うよ!」
個人部屋はリビングを挟んで左右に設置されている。
両方とも同じ大きさで、広い。ピカピカに磨かれたフローリングは気をつけないと滑りそうで、元々設置されている家具はなにもない。
全て生徒の持ち込みだ。
「全部用意するのも大変だし、持って移動するのも大変だから割と使い回しなんだけどね。春休みになれば寮のロビーで集まってリサイクルショップもあるよ。僕の家具はだいたい先輩のお下がりかな。瑛麻君の家具は業者さんが取り付けて行ってから新品だと思う」
用意されていたのは、ベッドと机、それに棚が2つとテレビにPCやその他いろいろ。
父の手で手配されたものではなく、和麻が手配したものだろう。父だったら瑛麻が何を必用とするかなんて絶対に分からないからだ。
と言う事は服やその他の小物もきちんと用意されているはずで。
「やっぱりか」
積まれているダンボールの1つを開けば今まで使っていたものがきちんと整理されて入っている。
片付けはし易そうだが、5つもあるダンボール全てを片付けるのか。
「最初は服から仕舞った方が早いよ。場所も取るしね」
うんざいする瑛麻に反して友秋は慣れているのだろう。
クローゼットを開けてにっこりと微笑んでいる。頼もしい限りだ。
「そんじゃあやりますかね。夕食まであと2時間って所か。友秋、よろしくな」
これは気合いを入れてさっさと片付けるしかない。
ダンボールを片っ端から開ければ友秋がせっせと服を運んでくれて仕舞ってくれる。瑛麻もせっせとあちこちに収納したり片付けたり。
私物はそう多い方ではない瑛麻だ。片付ける物も概ね服ばかりで、後は日常の小物にゲームと少しの本。
だとしても一から全てを片付けるのは手間のかかる事で。