太陽のカケラ...19



お菓子をどっちが多く食べたかとサチと遊佐が隣のテーブルで言い争いをして、追加のお茶を入れに行く原口さんにナオとカオルがくっついていった。
カオルの目当てはお茶じゃなくてお菓子だけど。

残るのはなぜか瑛麻の隣に移動してきた会長のみ。

「何で隣に来んだよ、会長」
「ん?一人じゃ寂しいだろ・・・じゃなくて、ちょっと耳貸せ」
「あ?」

何だと言うのだ。
横目で会長を見上げれば片手を首に巻かれて引き寄せられる。意外に力強くて、ああ、サチの兄なんだなあと感心すれば耳元で囁かれた。

「この学園に院乃都の後継者候補、それに関わる奴らが20人以上いる。俺とサチも候補だけどな。んで、いきなり湧いて出たお前に良くない感情を持ってるのも当然いる。関連会社の奴らもわんさかいるからな。一応気を付けておけ。お前も弟もだ。何かあったら連絡しろよ」

警告だろう。真剣な眼差しで瑛麻を見下ろす会長は本心で言っている様だ。しかし、なぜわざわざ言ってくれるのか。
話の内容が本当だとするならばこの人も後継者、しかも会長であの人気でSSクラスじゃあ相当イイ線行っているのだと思うのだが。

「・・・アンタは面白くないんじゃないのか?」
「はは、俺は跡継ぎとか院乃都とか割とどうでもいいんでな。サチはからっきし考えてもないし。ただ本気で狙ってるのもいるから気をつけろよ」
「んー・・・とりあえずサンキュ」

親切心からの忠告と言うことか。まあ、そう言う事にしておこう。
首に片腕を巻かれたまま横目で会長を見上げれば機嫌良さそうに笑っていて、隣のテーブルで言い争いをしていた2人が飽きたらしく戻ってくる。
お茶と茶菓子の追加を取りに行った3人も戻ってきて。なのに。

「だから、誰か突っ込めよ」

未だに会長に腕をまわされて、見ようによっては抱き寄せられている状態なのに、誰も何も言わない。
これが普通の状態だと・・・いや、絶対違うだろ。



おかわりのお茶と、今度は瑛麻にも茶菓子がまわってきて、ゆっくりと、けれど賑やかにお茶を堪能してからようやく部屋に行く事になった。
瑛麻の部屋は3階で、一年全てが3階との事だ。
カオルと遊佐は家に帰るのだと散々飲み食いしてからダッシュで帰った。

「瑛麻君の部屋が312号室だね。あ、あそこだよ。僕は334号室でサチは302号室。遊びに来てねって言っても瑛麻君こなさそうだから、勝手に遊びに行くね」
「また後でね♪一緒にご飯食べに行こうね」

廊下はそれなりに広くてあちこち生徒がふらふらしている。
もう制服姿の生徒はいなくて、私服ばかりだ。
瑛麻の部屋の前まで案内してくれたナオとサチに手を振れば二人も手を振ってぱたぱたと自分の部屋に戻る。


さて。ようやく部屋まで辿り着いた。
部屋にはネームプレートはなくて、番号のみ。ホテルの扉みたいで、そう言えばカードキー仕様だからホテルで良いのかもしれない。
ピ、と軽い電子音の後にゆっくりと扉が開かれて一歩中に入る。

「はー・・・やっぱり部屋もこれか」

もう驚くのも疲れてきた。流石、と言ってよいのか、そもそも外観もロビーもホテルなのだから、当然中身も疑うべきだったのだ。
寮であるのに玄関は広く、ちょっとした廊下まである。その先が部屋なのだろうか。
中身を全く聞いていなかった瑛麻だから想像するしかない。とりあえず靴を脱いで中に入れば小さな声が聞こえてきた。

「や、ちょっと、篤斗、ダメだよ。今誰か、入ってきたっ」
「いいだろ、牽制しないと友秋は危険だ」
「そんなっ、ホントにダメだってば」

ピンク色だ。
どっちの声が同室なのかは分からないが、声に色がついている。あまり宜しくない色の。
扉を開けるのが嫌だが、開けなければ瑛麻の部屋には入れなくて、休めない訳で。

「ったく。おい、入るぞ」

思い切って扉を開ければやっぱり、ソファの上でピンク色の空気を出す2人が絡まっているではないか。
一人は大人しそうなメガネの生徒で服が剥がされかけている。もう1人は明らかに襲ってる側で、茶色の髪に不遜な雰囲気。

「ここ、俺の部屋みたいなんだけど、アンタら誰?ここって2人部屋だったよな。どっちが俺の同室?」

両手に腰をあてて眺める瑛麻に最初に慌てたのは大人しそうなメガネだった。
覆い被さっている生徒を思いっきり押して、服を着る。押された生徒の方はそのまま床に転がって鈍い音がする。

「ご、ごめんね。院乃都君だよね。僕が同室だよ。1年SSの笹木友秋(ささき ともあき)。よろしくね」

慌てている割にはしっかりしている様だ。が、瑛麻を見て院乃都と呼ぶ事はロビーにはいなかったのだろうか。
あれを聞いていれば誰でも名前で呼ぶはずで、部屋に来るまでも何人かに声を掛けられた。瑛麻、と。

「俺は瑛麻で良いぜ。アンタは何て呼べば良い?」
「僕の事は好きに呼んでくれて良いよ。みんなは名前で呼ぶけど」
「じゃあ友秋って呼ばせてもらう。で、一応その床のヤツも聞いた方が良いのか?・・・同意だよな?」

今更ながら無理矢理だったのでは。なんてうっすら思った瑛麻だけど、友秋があまり慌てていない所を見れば同意だった様だ。
打ち所が悪かったらしく床に伸びたままの生徒に、けれど友秋は助け起こさない。

「ちょっと恥ずかしいんだけど、僕の彼氏になるのかな。一直線お馬鹿だけど良い人だよ。1年S1クラスの村上篤斗(むらかみ あつと)。剣道の特待生だよ」

と言う事は筋肉馬鹿か。言われれば納得できる雰囲気もあり、しかし起こさなくて良いのだろうか。
じいっと眺めていれば、やや間を置いてがばっと篤斗が起き上がった。

「友秋!大丈夫か!」
「・・・何がどう大丈夫なの」

起き上がった次の瞬間には友秋をぎゅうぎゅうに抱きつぶしている。
どうしよう、ちょっと脳みそがアレな人なのか。うろんな目で眺めていればやっと篤斗が瑛麻に気付いた。

「お前、友秋に手出すなよな!」
「自己紹介より先にそれかよ。友秋、相手はちゃんと選べよ」
「・・・ごめんね。篤斗、先に自己紹介でしょ。外部からの院乃都瑛麻君、知ってるよね」

呆れるよりも先に友秋に同情しそうだ。盛大に溜息を落とす瑛麻にやんわりと友秋が注意してくれるが、あまり効き目はなさそうだ。
院乃都の名を聞いた途端、思いっきり篤斗に睨まれる。

「お前が院乃都か!胸クソ悪い顔してやがる。いいか、友秋に手を出すなよ!」

それしか言えないのかお前は。
声に出さずに突っ込んで、これでは何の話も進まなそうだ。仕方がないので、強硬手段を取る事にする。いい加減休みたい。

「友秋、先に謝っとく。ごめんな」
「え?」

友秋が同室ならば、篤斗を排除するべき。
瑛麻を睨みつけている篤斗に歩み寄りながら、さり気なく、けれど瞬時に身体のバネを利用して。思いっきり蹴りを入れた。
不意をつかれた攻撃に篤斗があっさりと落ちて、静かになる。

「ちょ、篤斗!?」
「急所に入れただけだ。すぐ起きる。悪いな。これ、表に出して良い?」
「え?え?・・・本当は、怒るべきなんだろうけど、怒れないね。篤斗、怪我とかしてないなら表に出すの手伝うよ」
「大丈夫、骨もイってないし残っても痣くらいだろ」
「じゃあ仕方がないね」

彼氏と言うには少々厳しい友秋だ。怒るよりも先に驚いているのだろう。細身の瑛麻が一撃でガタイの良い篤斗を落としたのだから。
しかし運ぶには大きすぎて、ずるずると瑛麻と友秋で引きずりながら部屋から出す事になった。



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